運が悪い?
こうして話をするのは初めてだけどね。
ちゃんと彼女のことも知っているのよ。
「確か名前は深海優奈さん。だったわよね?」
話しかけるてみると、
少女は小さく頷いてくれたわ。
「あ…はい。そうです…。」
「あなたにもお願いがあるんだけどいいかしら?」
「…は、はい。」
返事をしてから一歩前へと歩み出てくれたわ。
どうやら彼の後ろで隠れるのは止めてくれたようね。
だけど彼の隣に立っただけで私に近づこうとしない辺り、
まだ怖がられているのかしら?
実際にどうかは知らないけれど。
敵対するつもりはないのに怖がられるっていうのはあまり嬉しくないわね。
だけどこんなところで仲違いしたくはないから今は気にしないでおくわ。
「魔術大会には5人の参加が必要なんだけど、実はもう一人だけ『補欠参加』が認められているのよ。」
「ぁ…。」
そこまで話しただけで、
深海さんは私の願いを理解したみたい。
どうやら思っていたよりも賢い子ね。
そんなことも考えながら、言葉を続けてみる。
「あなたに6人目として参加をお願いしたいんだけど、どうかしら?」
「ぁ、でっ、でも…私、そんなにすごいところに出ても、お役に立てるかどうか…。」
不安げに呟く深海さんの態度は自虐的に見えるわ。
大悟から報告は受けていたけれど。
予想以上に控え目な性格のようね。
…でもね?
勘違いしてもらうと困るのよ。
あなたの能力は異端なの。
ただそこにいるだけで試合に勝ててしまう深海さんの能力は、
私にとって絶対に必要な戦力なのよ。
「大丈夫!あなたの能力は聞いてるから心配しなくても大丈夫よ。私が自信を持って保証するわ。あなたなら十分過ぎるほど戦力になるってね!」
笑顔で宣言しながら、
深海さんの肩をポンッと叩いてみる。
「自信を持ちなさい!あなたはすでに頂点を目指す戦いに参加しているんだから」
頂点を目指す戦い。
そう言って深海さんを勇気付けたのよ。
「あなたはあなたが思う以上に優秀な魔術師なのよ。だから自信を持ちなさい。ただそれだけできっと、あなたはどこまでも勝ち上がれるわ。」
深海さんの頭を撫でてから彼へと視線を戻してみる。
「異論はないわね?」
「ああ、問題ない」
「おっけ~。それじゃあ、そういう感じで段取りをするけど。詳しい話は御堂君か翔子にでも…」
「いや、それは無理だな。」
聞いて…と言う前に、
彼は首を左右に振ってしまったわ。
あっさりと否定されてしまったのよ。
だけどそれがどういう意味なのかまでは分からなかったけどね。
「…無理って、何かあったの?」
彼等の関係まではさすがの私も掴めていないのよ。
時折来る報告以外の情報までは知らないの。
だから何があったのかなんて知らないわ。
「まさか喧嘩でもしたの?」
子供じゃあるまいし。
それはないわよね?なんて思いながら聞いてみたら、
彼はそれ以上の厄介事を教えてくれたのよ。
「御堂と翔子はそれぞれ自分の道を選択した。頂点を目指す戦いが来るその時まで、しばらく会うことはないだろう。」
…えっ?
えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?
…う、嘘でしょ!?
しばらく会うことはない、って…?
現状を教えてくれた彼の説明によって、
私の心は不安で埋め尽くされてしまったわ。
うぅ~。
…まずいわね。
全員で協力しあわなければ、
優勝なんて勝ち取れないのよ。
それなのに肝心の主力が個別に行動してる?
これは想定外の出来事だったわ。
…意外と私って運が悪いのかしら?
何気なくそう考える自分を笑いたくなるわね。
「どういう状況なの?」
「いずれ集まる。」
…いずれ?
いずれじゃ困るのよっ!
早急に何とかしないとっ!
あと一週間もないのにっ!
焦る私に、彼は冷静に答え続けてしまう。
「心配はいらない。おそらくは数日の話だ。すぐに戻って来るだろう。決戦に向けてな。」
…うぅ。
間に合えばいいけれど。
もしも間に合わなかったら私の夢が崩れ去るのよ?
…うぁぁ。
考えたくもないわ。
「最終的には俺と優奈がいれば十分だろう?」
それじゃダメなのよ。
十分じゃないの。
「試合は1対1の5戦なの。先に3勝した学園の勝ちだから、2人じゃ足りないのよ」
彼の発言をはっきりと否定したわ。
だけどまだわかってもらえないみたいね。
「沙織と北条もいるだろう?」
確かにね。
参加してくれるなら期待は出来るわ。
でもね?
「協力してくれればいいけど。どちらも御堂君の味方だから、御堂君次第では大会への参加を断って来る可能性があるのよ。」
御堂君が参加しないと言ってしまったら沙織も北条君も参加を見送る可能性があるの。
だから安易には考えられないのよ。
「全員が揃うかどうかは御堂君次第なのよ」
「だったら信じるしかないな。再び戻って来ることを」
うぅ~。
信じて裏切られた場合のことを考えなければいけないのが私の面倒な役割なのよ。
はぁぁぁぁ~~~~~。
本気で頭を抱えたくなったわ。
せっかく彼の同意を得たのに、
課題はまだまだ山積みだったなんてね。
…あぁぁ。
なんだかもうため息しかでないわ。
落ち込んでも仕方がないんだけど、
しばらくは立ち直れそうにないわね。
「まあ、とりあえず話はそれだけだから私はもう帰るわ。ごめんね、引き止めちゃって」
彼等に背中を向けて歩きだす。
そんな私の背中には、
きっと哀愁が漂っていたでしょうね。
でもね。
今日は本気で疲れたの。
心の中で激しく嘆いてしまうわ。
まだまだ私の役目は終わりそうにないからよ。




