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THE WORLD  作者: SEASONS
4月3日
32/185

エンジェル・ウイング

第6検定試験会場。


昨日、最後に試合をした会場に再びやってきた。



すでに隠れる様子のない翔子が堂々と隣に並んでいるのが気になるが、

今は特に話をする理由もないからな。


黙って会場内へと進んで行く。



…もう様子見は必要ないだろう。



初戦から最も強い対戦相手を選ぶつもりで受付に向かうことにした。



「試合がしたい。今、この会場で一番強いのは誰だ?」



昨日もいた係員に生徒手帳を見せながら問いかけてみると、

名簿の上から三番目の欄に記されている生徒を教えてくれた。



「一番ではありませんが、試合可能なのはこちらの方になりますね。上位お二方はすでに下位対戦を行われていますので、挑戦を受けてもらえるかどうかは確認してみないとわかりませんが、こちらの方でしたら即座に試合の手続きが可能です。」



今回は一番強い生徒とはいかないようだが、

この程度なら不満はない。



生徒番号4019番。


春藤麗香(しゅんどうれいか)という名前の女子生徒との試合を申請することにした。



「それで頼む」



すでに試合済みの二人と比べてみても、

番号自体は数番しか離れていないからな。


この程度の誤差なら気にする必要はないだろう。



「分かりました。それでは手続きを始めますので試合場のB-4番へとお進みください」


「ああ」



受付で申請を済ませてから翔子と共に試合場に向かってみると、

数分もしないうちに対戦相手である春藤麗香が現れた。



「こんにちわ。あなたが対戦相手の天城総魔さん、かしら?」


「ああ、そうだ。」


「ふ~ん。あなたの噂は聞いてるわよ。とんでもない結界士らしいわね。」



…結界士、なのか?



どうだろうか。


肩書に興味はないが、

そういう表現もあるのだろうか。



個人的には純粋な結界とは少し違う気もするのだが、

俺の知らない間に色々と噂が出回っているらしい。



…そう言えば。



昨日、翔子と出会った時に言っていたな。



『明日には…ちょっとした有名人扱いになってると思うわ。』



確かにそう言っていた。



…この状況を予測していたということか。



翔子が意図的に噂を流しているわけでないだろう。


そうではなく、

俺の行動自体が噂を生み出しているということだ。



…学園始まって以来の偉業とも言っていたからな。



その結果として。


俺に関する噂が広まっていったということだろう。



「…わざわざ否定するつもりはないが、あまり正しい情報ではないな。」


「あら?それはどういう意味かしら?」


「説明する必要はないだろう。戦えば分かる事だからな。」



わざわざ説明するつもりはない。


これから戦う相手に情報を与える必要はないからな。


知りたければ試合の中で自分自身で調べればいい。



「噂は所詮、噂でしかないということだ。」



あいまいに答えてから会話を打ち切る。


その行動の結果として、

これ以上の話し合いは出来ないと感じたのだろうか。


麗香は話し合いを諦めて大人しく試合場の開始線に立った。



「まあ、とりあえず戦うしかないわよね。」



気持ちを切り替える麗香に続いて、俺も開始線に向かう。


今回の審判員は少し遅れて試合場の中央に立った。



「それでは、ただいまより試合を行います。」



試合開始の号令をかけるために、

ゆっくりと右手を掲げる審判員に少しだけ視線を向けてみる。


同時に、試合場のすぐ近くで応援してくれている翔子の姿も見えたが気にするつもりはない。



「それでは、試合、始めっ!!」



審判員の号令によって試合が始まった。


まずは結界の展開だ。


即座に詠唱を開始して魔術を発動させる。



「ホワイト・アウト」



少しずつだが、回を増すたびに詠唱が早くなっている気がする。


これも慣れだろうか。


秒単位で発動が早くなっていると実感しながら最速で魔術を展開させると、

瞬く間に結界が発生して周囲を真っ白な霧が包み込んだ。


これで第一段階は完成だ。



「…ふ~ん。」



霧が広がった様子を眺める麗香は、

値踏みするかのようにぶつぶつと何かを呟いている。



「それが噂のドレイン・フィールドなのね~。」



どうやら不用意に魔術を使うつもりはないらしい。


じっくりと様子を伺っている。



「それで、どうする気なの?魔術を吸収する結界らしいけど、吸収されると分かっていて攻撃するほど私はバカじゃないわよ?」



まあ、そうだろうな。


誰がどう考えても正論だ。


異論はない。



「賢い選択だが、攻撃しなければ勝つ事は出来ない。」


「それはあなたも同じでしょ?」



…いいや。



それは違うな。


今回の指摘は間違っている。


霧の結界はそんなに生易しいものではないからだ。



「お前の勘違いを一つだけ訂正しておこう。」



右手を麗香に向けて突き出してから、

そっと力を込めてみる。


その単純な動きの直後。


周囲を取り巻く霧が僅かに揺らいで、

結界の一部が動き出す。


ただただ真っ直ぐ。


もちろん麗香に向かってだ。



霧に決まった形状はないからな。


俺の意思に従って自在に動かすことができる。



その気になれば、

直接霧をぶつけることもできる、ということだ。



「説明するまでもないが、霧に触れれば魔力を全て奪われる。お前はこの霧から逃れられるのか?」


「くっ…!」



じわじわと迫り来る霧から逃げるために、

慌てて背中を向けて走り出す。



その判断も間違いではない。


だが、ここは限定された試合場内だ。


完全に逃げることなどできはしない。



今はまだ俺の周囲にしか勢力を広げていないが、

もしもホワイト・アウトを試合場全域に発現した場合。


麗香に限らず、

どんな対戦相手であっても逃げる事も戦う事も出来ないまま全ての魔力を失って倒れるだろう。



「に、逃げきれない…っ!?」



当然だ。


試合場から脱出しない限り、

霧から逃れることは出来ない。


防御も回避も不可能。


霧を消し飛ばすこともできず。


霧を突き抜けることもできない。



どうあがいても霧から逃げることは不可能だ。


その事実を見せつけられて焦る麗香は、

体を小さく震わせながらも拳を強く握り締めていた。



それは怒りか恐怖か。


どちらにしても逃げることはできない。



「…こ、こんなの、反則よ…っ!」



試合場の隅まで追い詰められたからだろう。


ついに麗香は絶望的な表情を浮かべながらゆっくりと俯いて完全に動きを止めてしまった。



「こんなの卑怯よっ!!」



…そうだな。



確かにそうだ。


立場が逆なら俺でもそう思うだろう。


だが、どれほど叫んだところで目の前の現実は変わらない。



…それが現実だからだ。



『奪われる者』の現実はいつだって残酷だ。


そこに拒否権は存在しない。



「…こんなの、どうしろっていうのよっ!?」



何一つ抵抗できずに諦めようとしている。



その気持ちも理解できる。



試合場という限られた範囲内でしか動けない限定空間において、

霧は絶対的な支配力があるからな。



シールドのような防壁結界とは根本的に意味が違う。


霧を吹き飛ばすほどの力がない限り、

一方的に魔力を奪われてしまうからだ。


広範囲を支配できる霧は、

まさに逃れようのない悪夢といえるだろう。



「こんな…終わり方…っ」



戦うことも、逃げることもできずに負ける。


その現実に対して悔しさをにじませる麗香が敗北を受け入れようとする様子を見て、

即座に霧の動きを停止させた。



そして試合場内に広がっていた全ての霧を消滅させる。



「ぇ…?どういうこと?」



突然の出来事に戸惑う麗香が呆然と立ち尽くす様子を眺めつつ。


ホワイト・アウトの実験を終了して次の実験に移る。



「どうだ?霧の魔術に関しては理解したか?」


「………。」



何も答えないが、最初から返事は期待していない。


だから麗香の言葉を待たずに、

次の実験に向けて行動することにした。



「個人的な見解になるが、俺は特別な感情で『最強』という言葉に興味はない。近づきたいとは思うが、そう在りたいとは思わない。それが何故か分かるか?」


「………。」



何を言われても麗香は困惑するばかりだ。


口を開きはするが、言葉を出せずにいる。


そんな麗香の様子は気にせずに、

試合を観戦している翔子に視線を向けた。


この宣言は麗香に対してではない。


翔子に向けてだ。



「極めてしまったらその先はないからな。それはつまらないと思わないか?極める過程が面白いのであって、極めてしまう事に意味はない。」



…だからこそ俺は常に高みを望み続ける。



今の考え。


今の気持ちを。


はっきりと宣言したのだが。


言葉の真意を測りかねているのだろう。


翔子も戸惑っているように見えた。



だがそれでも。


今の言葉には確かな何かを感じたはずだ。


戸惑う瞳の奥に明らかな恐怖が感じ取れるからな。



おそらくだが、

俺の言いたいことが少しは理解できたのだろう。



これから見せるものが翔子の望んでいた答えだからな。


図書館で翔子が問いかけてきた答えを、今この場所で示す。



「…俺の望む力の象徴を見せてやろう。」



翔子に対して宣言してから、

新たな魔術の詠唱を開始する。



その間。



麗香は全く動かない。


抵抗も逃亡もせず。


ただじっと俺を見ている。



…すでに勝負を諦めているのか?



麗香は一歩も動くことなく、

ただじっとこちらを見つめている。


そしてそれは翔子も同じだ。



麗香と翔子。



二人の視線を感じながら詠唱を続けて20秒ほど経過した頃。



ついに魔術が完成した。



初めての実験で少々時間を取られたが、

魔術の詠唱は成功したはずだ。



今ここで、新たな力が発現する。



「エンジェル・ウイング!!」



魔術が発動すると同時に、

俺の背後で眩しいほどの光が輝いた。



…まずは成功だ。



期待通りに発動した。



…すでに祈る神など存在しないが。



こいねがう想いが形として現れたのだろう。



まるで白鳥が純白の翼を広げるかのように、

一対の純白の翼が煌く光を帯ながらその姿を現した。



「…つばさ?」



今まで以上の戸惑いを見せる麗香は、

純白の翼をまじまじと見つめている。



「…綺麗…。」



試合場の外に居る翔子も予想外のできごとに驚きを隠せずにいるようだ。



「…魔術って、こんなこともできるの?」



俺の身長を遥かに越える広さと大きさを持つ翼。


神秘的にきらめく翼に心を奪われている様子の翔子だが、

呆けているのは翔子だけではない。


会場内の審判員達も。


周囲の観戦者も。


他の試合場で試合中の生徒達の視線すらも集めている。



見る者全てを魅了する神秘の翼だ。



すぐそばにいる審判員も。


周囲にたまたま居合わせた生徒達も。


そして騒ぎを聞きつけて駆け寄ってくる係員達でさえも。


一様に翼を見つめながら驚き戸惑っている。



そんな中で。


翔子が恐る恐る問いかけてきた。



「…この翼が、答えなの?」



小さく呟く翔子に一度だけ視線を向けて頷く。


そして翼が持つ力を解放する。



「これが俺の考える力だ。」



ただ静かに宣言する。



「終局を…」



それがこの日、

麗香が最後に聞いた言葉だったらしい。



突然失われる意識。


崩れ落ちる体。



一体、何が起きたのか?



正確に事態を把握できた者は一人もいなかったかもしれない。


少なくとも翔子ですら何が起きたのか全く理解できていない様子だったからな。



「…い、今、何が…?」



翔子に理解出来たのはホンの僅かなできごとだったのだろう。


天使の翼が生み出した突風によって麗香の体があっさりと吹き飛んだ事。


そして翼から放たれた光が麗香を気絶させるに足りる力を持っていたという事。



ただそれだけだったとしても仕方がない。



「…一体、何が起きたの?」



戸惑う翔子に説明するのは簡単だが、

今この状況で話す必要はないだろう。


重要なのは翼の一撃によって戦闘不能になった麗香が試合場に倒れているという事実だけだ。



戦いを終えたことで翼の魔術を解除する。


それら一連の流れだけが翔子に理解出来る範囲だったようだな。



「…し、試合終了っ!?」



審判員でさえも戸惑いながら終了を宣言していた。



「「「………。」」」



動揺と共に広がる沈黙。


会場内は異様な雰囲気が漂っているが、

麗香との試合は無事に終了した。



…これで実験は成功だ。


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