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THE WORLD  作者: SEASONS
4月7日
319/1365

同じ気持ち

《サイド:御堂龍馬》



午後7時37分。



会場の閉鎖時間が近付いている時間だ。


ほとんど丸一日と言っていいくらい武藤君の試合に協力していたけれど。


それでも結論から言えば完全に失敗だったと言えるだろうね。



唯一の幸運は横山瑛太が会場に復帰しなかったことかな?



武藤君に試合を申し込む生徒がいなかったことで番号が下がることがなかったということくらいだ。


だけど、一度たりとも上がることさえなかった。



複数回試合を受けてくれた生徒や興味本位で彼との試合を望む生徒など。


数多くの生徒が彼と試合を行ってくれてはいたんだ。



だけど結果は全戦全敗。


全くといって言いほど手も足も出ずに敗北を重ねていった。



勝率は0.01%以下。



何とか1勝はしていたから0%は脱出できたけれど。


この勝率は正真正銘の最弱だろうね。



ここまで成績の低い生徒は珍しいと思うよ。


30%を切る生徒はそうそういないからね。



…それなのに。



武藤君は全く勝てずにいるんだ。



その理由は幾つもあると思うけれど。


最も大きな原因は彼の性格かな?



どこまでも馬鹿正直に魔術に立ち向かう武藤君は、

あらゆる魔術を正面から受けては倒れるという目も当てられない試合を何十回と繰り返している。



もちろん魔術の基礎に関しても曖昧な部分が数多くあるけどね。



だから一から勉強し直すべきだと思うんだけど。


なによりもまず落ち着いて行動するという基本中の基本から考え直す必要があるんじゃないかな?



そこさえ直ればまだ勝ち上がれる可能性はある…と、思う。



多分。


きっと。


できるんじゃないかな?



今もまた試合に敗れて試合場に倒れ込む武藤君。



僕は数え切れないため息を繰り返してから彼の回収に向かうことにした。



「お疲れさま。」



武藤君に回復魔術を使って傷の手当を行ってみる。


微弱な光が武藤君の体を包み込んで、

全ての傷が消え去った。



あまり回復系は得意とは言えないから強力な魔術は使えないけれど。


初心者同士の試合で受ける程度の傷なら僕一人でも十分対応できる範囲内だ。



まあ、時々手に負えない時もあったけどね。


そういう時は救急班の手を借りて治療をしていたよ。



「さて、と。気分はどうかな?」


「大丈夫です!!」



元気良く立ち上がる武藤君の元気さだけは何十回見ても素晴らしいと思う。


どれだけ敗北を繰り返してもくじけない心。



その一点だけは他のどんな生徒よりも上回っていると思うからね。



そういう意味では彼の一つの才能と言えるんじゃないかな?



彼の考え方。



どこまでも前向きな性格だけは僕も素直に認めてあげたいと思うんだ。



「武藤君は元気が良いね。疲れないのかい?」


「全然平気です!!元気だけが僕の取り柄ですからっ!!」



笑顔を浮かべる武藤君に疲れは見えない。



これだけ敗北を続けながら、

どうしてここまで頑張れるんだろう?



「辛いとは思わないのかい?」


「思いません!!僕には僕の目的がありますからっ!!悠理に追いつくまでは、絶対に諦めませんっ!!!」



力強く宣言する武藤君だけど、

今の武藤君と悠理では実力に差がありすぎると思う。



不可能とは言わないけれど。


現状では勝ち目があるとは到底思えないんだ。



なのに。



武藤君は決して弱音を吐くことなく、

目的に向かって挑み続けてる。



それが…その姿が僕には眩しく見えたんだ。



決して勝てない相手に挑む勇気。


それは僕と同じだ。



天城総魔に戦いを挑もうとしている僕。


そして近藤悠理に戦いを挑もうとしている武藤君。



僕達は同じ境遇で先の見えない道を歩んでる。



そう思っていた。


だから、なのかもしれないね。



僕は彼を馬鹿にすることが出来なかったんだ。



周りは彼を嘲笑あざわらう。


最弱だとさげすむ。



だけど、本当にそうだろうか?



僕はそうは思わない。


もしも彼を笑うならば、

それは僕が笑われていることに等しいと思うからだ。



勝てないからといって諦めることが潔いとは思わない。



最後まで諦めずに戦い続けることこそが本当の勇気じゃないのかな?



僕はそう思う。


自分はダメだと諦めたらそこで終わるんだ。



それこそが本当の挫折だ。



だから諦めた時に笑われて、

蔑まれるのならそれは仕方がないと思う。



だけど戦う意思を見せ続ける限り。


僕は武藤君を馬鹿にするようなことはしたくなかった。



例え手の届かない場所に目的があったとしても。


その目的に向かって前進する限り必ず成長があるはずなんだ。



例え今は弱くても、

明日もそうだとは限らない。


今は勝てなくても、

次は勝てるかもしれない。



そう思うからこそ成長できるんだと僕は思ってる。



だからこそ思うんだ。


彼は…武藤君は僕と同じだってね。



自分よりも遥かに強い相手を目指す気持ちは僕と同じなんだ。



絶対に諦めないと口にした武藤君の想いは僕の決意と何も変わらない。



ただ戦うべき相手が違うだけだ。


ただそれだけで、気持ちは同じなんだ。



だから僕は武藤君を見放すことが出来なかった。



どれだけ敗北を重ねても、

彼の努力を否定することが出来なかったんだ。



そこを否定してしまったら僕は僕でなくなると思う。



諦めるという選択肢は天城総魔に戦いを挑むこと自体が愚かだと認めることに等しいから。


だから僕は武藤君を見捨てることが出来ないんだ。



…諦めずに戦い続ける。



その姿は今の僕と同じだから。



だから僕は武藤君に対して誰よりも親しい気持ちを感じているんだと思う。



『親近感』とも言える感情だね。



武藤君の努力は僕の努力でもあるんだ。



「そろそろ会場も閉鎖される。今日はもう帰ろうか」


「あ、はい。もうそんな時間ですか?」



時計を探して周囲を見回す武藤君。


時刻はすでに48分を指している。


あと10分ほどあるとも言えるけれど、

すでに相手をしてもらえそうな生徒の姿は見られない。



「今日はここまでだね」


「はい。そうですね」



残念そうに俯く武藤君は今までの無理が一気に出てきたのかな。



がっくりと肩を落とす姿からは今までのような元気さが感じられなくなっている。



だからね。


僕は武藤君を褒めてあげようと思ったんだ。



「きみはよく頑張ったよ!その事実は僕が認める」



武藤君の肩をポンポンと叩いた。


十分過ぎるほど努力をしていると思うからね。



その事実だけは伝えておきたかったんだ。



「また明日も頑張ろう!」


「ありがとうございます、師匠!!」



笑顔で応援する僕に、

武藤君は顔を上げて向き合ってくれた。



「明日もお願い出来ますか!?」



期待を込めた瞳だ。


この表情を見て、

僕に断ることなんてできないよ。



「ああ、僕でよければ付き合うよ」


「ありがとうございますっ!!」



全力で頭を下げる武藤君。


さきほど見せた疲れが嘘のように、

彼は最高の笑顔を見せてくれていた。



「じゃあ、帰ろうか?」


「はいっ!!」



元気良く返事をしてくれる武藤君と一緒に、

僕達は会場を出る為に試合場を離れることにしたんだ。



明日は今日よりも一歩先へ向かおう。



僕は心にそう誓った。



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