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THE WORLD  作者: SEASONS
4月7日
316/1378

罪悪感

《サイド:美袋翔子》



今日も沙織の家に向かいながら一日の出来事を沙織に話したわ。



午前中の内容はすでにお昼に話してあるけどね。


問題はそのあとの出来事よ。



変な男の子の暴走や、

龍馬と別行動をとることになったこと。


そして優奈ちゃんが勝ち上がっていることを話したわ。



もちろん悠理ちゃんのこともね。



「ふ~ん。今日も色々とあったのね。」


「うん。まあ、だからこそやりがいはあるかな〜。」


「ふふっ。楽しそうでなによりよ。」



楽しい…のかな?



…う~ん。



どうなのかな?



悠理ちゃんと決別した問題があるから、

一概に楽しかったとは言えないのよね。



「悠理ちゃんはどうしてるのかな…?」



あのあと、悠理ちゃんがどうしたのかなんて知らないわ。


だけどね。


頑張ってくれているとは信じたい。



ただがむしゃらに無理をするんじゃなくて、

自分にできる努力をしてくれればいいと思うのよ。



「ああ、そういえば…。」


「ん?」


「その武藤慎吾君…だったかしら?特風でも噂になっていたわよ。」


「え?そうなの?」


「ええ、里沙から聞いた話だけど。無茶な試合を繰り返して何度も医務室に運び込まれてくるっていう話を聞いたわ。」


「へ~。そんな噂があるんだ?」


「おかげで医務室の手が足りなくなって私に協力してほしいっていう依頼が来ていたの。」


「うわ~。私の知らないところでそんな話になってるのね~」


「翔子はその子を見てきたんでしょ?どんな感じの子なの?」


「どうっていうか…。真哉みたいな直球馬鹿?そんな感じ」



それ以外の表現方法が思い浮かばなかったんだけど。



「う~ん。ちょっと分かりにくいわね…。」



沙織には上手く伝わらなかったみたい。



「相手の動きを気にせずに正面から突撃しちゃうような無茶な子だったわ。」


「あぁ。なるほど。それなら里沙の情報と一致するわね。」


「どれだけ負けても挫けないというか、めげない根性だけは尊敬に値すると思うけどね〜。」



もちろん悪い意味で、だけどね。



…で。



ついでに私達のことを説明するなら、

私と優奈ちゃんと総魔の3人は次の会場に向かったけど、あっさりと勝ち上がったわ。



まあ、当然の結果よね。



2時間近い時間を費やして次々と会場を巡って、

気が付けば8千近い番号を駆け登っていたのよ。


一気にセカンド・ステージ中盤までたどり着いたわ。


最終的な私の生徒番号は4619番で、

総魔の番号は4032番。


優奈ちゃんの番号は4673番よ。


本当ならもう少し上を狙いたかったんだけど、

夕食の時間を考慮して途中で切り上げたの。



それでもね。



あっと言う間に駆け上がったことで、

気が付けば残りの会場は限られているわ。


次の会場は3000から3999番だし、

その次が2000から2999番よ。



ここには美春がいるはずなのよね~。



総魔に負けて落ちた分をちゃんと勝ち上がっていれば、だけどね。



で、その次が1000から1999番。



前回総魔と行った時は、

ほどよい相手がいなかったから素通りした検定会場よ。


そしてその次がサード・ステージとなる100から999番の会場になるわ。



一応、ここまで勝ち上がるのは比較的簡単だと思ってる。



私達の実力を考えれば、

ここまでは勝って当然だからよ。



問題はその次ね。



最後の会場になるフォース・ステージ。


一桁までいければフィフス・ステージになるけれど。


真哉と沙織を含む、

1から99番の生徒が集まる会場よ。



ここでどこまで戦えるのかが、

私達の本当の戦いだと思うわ。



残る会場は、あと5つ。


だけど本当の戦いは最後の一つだけ。



総魔の勝利は揺るがないと思うけどね。



覚醒した総魔の実力は、

この目で確認してきたから確信を持って言えるわ。



力を失う以前よりも、

確実に強くなってるからよ。



それはもう、頑張れば勝てるかも?なんて思えるような話じゃないの。



どう頑張っても勝ち目の見えない圧倒的な実力だったわ。



操作という力は私が思う以上に桁違いの能力だったからよ。



はっきり言うなら今の総魔がどうやって頂点を目指すのか?じゃなくて、

真哉や沙織がどうやって今の地位を守り抜くのか?っていう戦いだと私は思ってる。



それにね。



優奈ちゃんの実力も認めないといけないわ。



総魔以上の吸収という能力を、よ。



沙織達のルーンがどこまで通用するのかが勝負の行方を左右すると思うのよね。



だから、私も人のことを心配してる余裕はなかったりするわ。



龍馬と同じように、

いまだに自分の力に気付けていないからよ。



今の私がどこまで勝ち上がれるの?


正直不安に思う気持ちがあるわ。



龍馬は今どうしてるのかな?


まだ問題児の側にいるのかな?



悠理ちゃんはどうしてるのかな?


泣いてないかな?



色んなことが頭をよぎってしまうの。



「…これで、良かったのかな?」



不安が言葉に出てしまうわね。


次々と離れていくみんなのことを思うと色々と考えてしまうのよ。



私の判断は正しかったのかな?



ため息を吐いてしまう私を沙織が心配してくれてた。



「気にしてるの?」


「え、あ、 うん。まあ、ね」



曖昧あいまいに答えてしまう私を見て、

沙織はいつもと変わらない微笑みを見せてくれていたわ。



「大丈夫よ。私も翔子の判断は正しいと思うわ。それに彼もそう思ってくれていたんでしょう?」


「う、うん…。」



沙織は同意してくれたわ。


総魔も私の意見が正しいと言ってくれたしね。



だから、間違ってはいないと思うのよ。


だけど、ね。



それでも考えてしまうの。


私のしたことは本当に正しかったのかな?ってね。



「総魔は正しいって言ってくれたわ。」


「だったら落ち込むことはないわ。私も、彼も、翔子が正しいと思うから。だから翔子はもっと自信を持つべきじゃないかしら?だって、そうでないと…」



沙織は笑顔を消してから、

真剣な表情で私をみつめたわ。



「そうでないと彼女達が可哀相よ。どういう事情があったのか私は何も知らないけれど。翔子が迷っていたら引き裂かれた彼女達の方が可哀相よ。だから翔子は自分の判断を信じて毅然きぜんとした態度を見せるべきよ。私はね、そう思うわ。」



…うん。



そうかもしれないわね。


そうしなければいけないのは分かってる。



沙織の言葉はもっともだと思うわ。



だけどね?



泣き崩れる悠理ちゃんの姿が、

今も頭の中に焼き付いていて消えないの。



私は私の責任を果たしたわ。


だけど同時に悠理ちゃんの心を傷付けたのよ。



その『罪悪感』が残っているの。



だから悠理ちゃんの涙を忘れることなんて、

私には出来なかった。



「…ねえ、翔子。」



沙織は足を止めてから私に振り向いてくれたわ。



「…ん?」



私も足を止めて沙織に振り向く。



その瞬間に。


沙織が私の体を抱きしめてくれたのよ。



そしてとても優しい声で…



「お疲れ様」



たった一言の言葉で労ってくれたの。



だけどその一言を聞いただけで。


沙織の優しい一言によって。



ずっと我慢していたのに。



私の心の壁は瓦解したわ。



「わた…し…っ。」



涙が止まらなかった。



悠理ちゃんと優奈ちゃんにしたことが、

本当に正しいのか自信がなかったからよ。


だけどあの時はそうするしか思い付かなかったの。



でもね?


もっと別の方法があったかもしれない、って。


そんなふうに心の中でずっと考えていたのよ。



だけど何も思い付かなかったの。


私にはそうするしかなかったの。



今でもはっきりと覚えてる。



絶望する悠理ちゃんの涙を。


涙を流しながら訴え続ける優奈ちゃんの表情を。



今でもはっきりと覚えてる。



「…私…っ! 」


「大丈夫」



涙する私の頭を優しく撫でてくれる沙織の優しさが…今は辛かった。



私には沙織がいる。


だけどあの二人は離れてしまったのよ。



もう二度と会えないわけじゃないけど。


仲良くできる雰囲気にはなれないと思う。



だからきっと。


一緒にご飯を食べることさえできないと思う。



お互いに気まずくて。


お互いに慰めあうことも出来なくて。


笑いあうことさえ出来ないと思うの。



それなのに。



二人を引き裂いておきながら。


私だけは幸せを感じてしまってる。



それが…。



それが何よりも辛かったわ。



だから…。



だから、かな。



私も沙織から離れるべきかもしれないって思ったの。



あの二人への罪悪感を抱えている限り。


沙織と一緒にはいられないわ。



私だけが幸せでいることはできないから。



そう思うから、私は決心したの。



あの二人の為に。


そして私自身の成長の為に。



私も歩きだそうと思うから。



「ごめんね、沙織。」



涙を拭って沙織と向き合う。



「私、甘えてた。でも、これじゃダメだよね…。」


「…翔子?」



悲しそうな表情を見せる沙織はもう気づいてるみたい。



だけど、私は…ううん。


私も覚悟を決めようと思うの。



「ねえ、沙織?」


「………。」



きっと沙織は気付いてる。


私の覚悟に気づいてる。



今にも泣き出しそうな沙織の表情が私の言葉を拒絶してる。



でもね。



それでも私は自分の行動と向き合わなきゃいけないの。



「ごめんね、沙織。私、今のままじゃダメだって気付いたの。だから私もね。頑張りたいと思うの。あの二人にちゃんと向き合えるように…ね。」


「…しょう、こ?」



沙織の頬をこぼれ落ちる涙を見てしまったわ。


だけど今は、その『言葉』を口にするしかないの。



「今までありがとう、沙織。でも、ここでお別れ。私はもう誰にも甘えないって決めたの。彼女達にしたように、私自身も…ね。」


「翔子…っ。」


「…ごめんね。」



再び溢れ出す涙を拭ってから、

最後に一度だけ沙織の体を抱きしめたわ。



「ごめんね、沙織。しばらく会えないと思うけど、だけど必ず帰って来るから。強くなって皆の所に辿り着いてみせるから。だから、その時まで…」



強く抱きしめる沙織の体はすごく温かかった。


だけど沙織の体を抱きしめる私の手は小さく震えてた。



「その時まで…ばいばい。」



別れの言葉を告げてから、沙織から離れる。



「翔子…。」



向き合う沙織も泣いてた。


だけど、ちゃんと私の気持ちを理解してくれたみたい。



「…待ってるわね。」



小さく呟いてから、

沙織が私に背中を向けたのよ。



「だから、お願い。これから何があっても、自分を責めることだけはしないで。それだけが、私のお願いよ。」


「…うん。」


「さよならは言わないわ。またすぐに会えると信じているから、だから…」



沙織は振り返る事もなく、

いつもの道を歩きだした。



「だから…またね。」



涙を拭う沙織を眺めてから、

私も沙織に背中を向けて歩きだす。



今来た道を戻るために。


学園を目指して歩き出す。



「沙織。また今度、ね。」



別れではない挨拶。


それが私と沙織の交わした言葉。


家路に着く沙織と離れて、

私は学園に戻ることにしたわ。



この1年の間。



ほぼ毎日のように通っていた沙織の家だけど、

その日課も昨日で終わり。



今日からは、私も一人だから。



第2話も終盤です。


ここから一気に進んでいきます

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