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THE WORLD  作者: SEASONS
4月3日
31/192

乱入

《サイド:天城総魔》



翌日。


学園生活が始まって3日目の朝。


今日は検定会場に向かわずに、

食堂で朝食を済ませてから図書館に向かうことにした。



理由は幾つかあるのだが、

今後の方針を決めるために調べたいことがあるからだ。



…今のままではいずれ限界がくるだろうからな。



昨日の午後に翔子と話をしてから、

ずっと気になっていることがあった。



それは最上級魔術でもあり。


攻撃に属さない特殊な魔術でもある。



…まだまだ見たこともない魔術が数多くあるはずだ。



それでもホワイト・アウトがある限り、

ほぼ全ての魔術を防ぐことが出来るだろう。



現状でも誰にも負けない自信はある。


例え対戦相手が翔子であっても何とかなると思っている。



だがそれは『負けない』というだけであって、

勝てるという意味ではない。



どんな攻撃を受けても吸収出来る自信はあるが、それだけだ。


上には上がいることを考えれば、

いずれ破られる日が来るはずだ。



予想以上に優秀だった霧の結界にも欠点はある。


絶対的な防御能力はないからな。



相手が並の魔術師であれば魔力を奪い尽くせるとしても、

もしもそうでなければどうなるだろうか?



防御系上位に位置するシールドでさえ、

許容範囲を越えれば突き抜けることが確認されている。



それは『魔術では魔法には勝てない』という格差だ。



その事実が当然ホワイト・アウトにも影響する。


無条件で全ての魔術が吸収できるわけではないからな。


ある一定以上の攻撃を受ければ結界を突き抜ける可能性は十分にある。



…可能性はある、が。



すぐにどうこうという話ではないはずだ。


当面の間は問題ないと思っている。



だがそれはあくまでも、当面は、だ。


いずれ限界が訪れる。


だからこそ。


学園最強を目指す上で『火力不足』という問題は何としてでも補わなければならない最優先課題になっていた。



そもそも防御に自信はあっても攻撃に関しては他の生徒と変わらないからな。


今後の課題として防御の補強とは別に攻撃の決定打が必須と言えるだろう。



まずはそれらの欠点を克服する為に。


新たな情報を手に入れる方法として、

図書館にある幾つもの魔導書に目を通すことにした。



…とはいえ、だ。



求めるモノが漠然としすぎているからな。


何から手を付ければいいのだろうか?



昨日の夕刻から考え続けているのだが、

これといった方針はまだ思い浮かばない。



こうなると一度、教室で魔術の講義を受けるべきだろうか?


効率を考えるならその方が早いとは思う。


直接教師に質問出来るからな。


本来なら校舎内にある教室で、

まともな授業を受けるべきだ。



そう思う気持ちは確かにある。


ただ、同時に疑問も感じていた。



例えどんな授業を受けたとしても、

俺が望んでいる答えは得られないと思うからだ。



俺が扱うのは『吸収』という特殊な能力になる。


この魔術は現時点では他の誰にも扱えないとされている。



だとすれば、『吸収』という能力を説明出来る教師は学園中を探してもいないということだ。


理論上は不可能とされていたからな。



だから何らかの授業を受けたとしても、

知りたい事を学ぶことはできないだろう。



その結果として。


独学で知識を集めるしかないという現実に直面している。



もちろん、全く別の方法を模索するのであれば授業を受けることに異論はない。


吸収という力にこだわらないのなら授業を受ける意味はあるだろう。



あるとは思うのだが、

わざわざ講義に出なくても魔導書を調べて分かる事なら自分で調べる方が集中出来る。



時間も周囲も気にせずに済むからな。



今はまだ授業に参加せずに魔導書と向き合う方が良い。



…出来ることから着実に、だ。



調べるだけ調べて、それでも分からなければ授業に参加すればいい。


まずは自分自身で調べたい。



さしあたって今日の調査は魔法でいいだろう。


気になるからという理由ももちろんあるのだが、

単に魔法が使えれば良いと言うわけではないからな。


どんな力であっても使いこなせなければ意味がない。


それは翔子との話し合いによって理解しているつもりだ。


強くなる為には常に最善の策を考え続ける必要がある。



…ひとまずこれからどうするかだが。



午前中は調べ物に費やすつもりで数十に及ぶ書物を机の上に広げた。


これら全てが役立つかはわからないが、

いちいち探し回るのは面倒だからな。


一通り用意しておけば間違いないだろう。



「まずは翔子の言葉の裏付けから始めるか」



小さく呟きながら着々と調べ物を進めていく。



魔法が魔術を下回る可能性。


そして魔法の習得の難しさなど。


あらゆる面での調査を行うつもりだ。



時間を無視して様々な魔道書に目を通す。



一冊。


二冊。


三冊。



順番に読み進めていく。


すでに把握している範囲は読み飛ばし、

知らない単語は辞書で調べる。


そうして幾つもの魔導書を読み終えることで時間は刻々と過ぎていく。



…さすがに時間がかかるな。



今回調べているのは基本ではなく応用の部分だからな。


昨日よりも難易度は上がり複雑さが増している。



…今日は試合は無理かもしれないな。



調査だけで一日が終わるかもしれないと思いながら地道に作業を進めていく。



そんな最中。



調査を開始してから1時間ほどが経過した午前9時頃。



一人の少女が現れて、

勝手に向かいの席に腰を下ろした。



「やっほ~♪今日も元気してる?」



無駄に明るく元気な声が誰なのか?


答えは考えるまでもない。


声をかけられたことで視線を向けてみる。



…また来たのか。



正面の席に座っているのは昨日も遭遇した美袋翔子だ。



…満面の笑みといった雰囲気は相変わらずだな。



愛想あいそが良いというべきか。


愛嬌あいきょうがあるというべきか。



どちらにしても裏があるように思えてしまう。



「…またお前か。今日も助言に来たのか?」


「ううん。違うわよ。」



…違うのか。



わざわざ2日続けて何をしに来たのかを訊ねてみたのだが、

翔子は首を左右に振ってから俺の問いかけを否定してきた。



「話すことは何もないわ。」



話し合いが目的ではないらしい。


昨日と違って話があってきたわけではないようだ。



…だとしたら、意味が分からないな。



用がないのなら話しかける必要もないはずだ。


何か他に理由があるのだろうか?



「…だったら何をしに来た?」


「何っていうほどでもないんだけど…。他にやることもないし、とりあえず様子を見に来たのよ♪」



…様子見だと?



本当にそうなのだろうか?



言い方の問題というほどではないが、

どちらかといえば暇だから来たように思える。


どちらにしても迷惑なことに変わりはないが、

ここは図書館だからな。


誰でも自由に出入りできる場所だ。



どこにいようと咎められることもなければ、

文句を言うこともできない場所になる。



だから翔子も自由にすればいい。



それ自体は、構わない。



ただ。



来るのは構わないが、

俺の目の前にいて尾行は成立するのだろうか?



いや、この場合は監視というべきか?



どちらにしても調査が行える状況だとは思えない。



この状況で分かることがあるとすれば、

せいぜい俺が魔術の知識をほとんどもっていないという事実程度だ。



その事実によって何らかの判断が行われる可能性はあるが、

その程度のことが知られたところで何の問題もない。



そもそも魔術を学ぶために学園に来たのだからな。


知らないことは恥でもなんでもない。



「何を見に来たのかは知らないが、当分ここを動くつもりはない。暇ならどこか別の場所で時間を潰してきたらどうだ?」



翔子の目的は試合の調査のはずだからな。



「ここにいる必要はないだろう?」


「う~ん。そうなんだけど、それはそれで中途半端なのよね~。何かを始めた時に呼び出しがかかったりすると面倒じゃない?だったら最初から近くにいるほうが余計な気を使わなくて済むと思うのよね~」



…なるほど。



余計な気を使わなくて済む、か。


なおさら意味が分からないな。


俺の邪魔をすることに関しては何も思わないのだろうか?


出来ることならこの場で気を使ってもらいたいと思うのだが。



「ここに居座るつもりなのか?」


「そうなっちゃうかな~?まあ、私のことは置いておくとして、今日も勉強なの?」


「ああ、そうだが。結局、何が目的だ?」


「ん~。すごく警戒されてる感じがするけど、特に聞いてもらうほどの用はないのよね〜…って言うか、一応あるんだけど、今日も試合を観戦したいだけだから、ここにいるあなたに用はないわ。」



…はぁ。



やはり今日も試合を観戦するのは確定しているらしい。


それは構わないが、

用がないと断言するくらいならここにいる必要はないはずだ。


素直にどこかに移動してくれないだろうか?



「言いたいことは分かった。とりあえず用がないのなら他の所に行くんだな。さっきも言ったが、しばらくここを動くつもりはない。」


「…ホントに?まあ、試合の前に声をかけてくれるのならそうするけど。いつ検定会場に行くか分からないのに、あなたを放置するわけにはいかないのよね~。」


「次にどこに向かうのかは、すでに予想出来てるんじゃないのか?」


「まあね。それはそうなんだけど、一人っきりでただただ待ち続けるっていうのも寂しすぎるでしょ?」



それが監視というものではないだろうか?


いや、そもそも監視役が目の前にいること自体がおかしいと思うのだが、

翔子はそうは思わないのだろうか?



「このままずっと俺を見張っているつもりか?」


「一応、そういう事になるわね。」



どうあっても移動する気はないらしい。



「文句を言うつもりはないが、監視がしたいのなら離れた場所で好きなだけすればいい。」



監視そのものに文句を言うつもりはないからな。


好きなようにしろと告げたのだが、

それでも翔子は動かなかった。



「そんなに邪険にしないでよ〜。もちろん最初はね。こっそり隠れてるつもりだったのよ。でもね、何時間もただ待ってるだけって、結構キツイってことに気付いたのよ。」



………。



昨日の今日で、既に面倒くさくなったのだろうか?


言いたいことはわからなくもないが、

それは翔子の都合であって俺には関係のない話だ。


そんなくだらない理由で関わり合いになるつもりは一切ない。



「…だから、なんだ?」


「だから、どうせ近くにいなきゃいけないのなら、隣でもいいんじゃない?って思ったわけよ。名案でしょ♪」



…いや。



名案、だろうか?


個人的には疑問しか感じないが、

すでに一度接触したからだろう。


残念なことに姿を隠すという選択肢はないらしい。



「なるほど。要するに話し相手が欲しかったんだな」


「…ちょっとっ!!人を寂しがり屋さんみたいに言わないでくれる?単に隠れるのに飽きただけよ。」



それは堂々と宣言することだろうか?


本気で言っている様子だが、

その宣言によって『離れた場所から様子を見る』という考えがないことが明らかになってしまっている。



…こいつは本当に監視役を請け負っているのか?



色々と疑問に思う部分があるのだが、

隠れるという選択肢を捨てた翔子に離れた場所にいろというのはもはや無理のある話らしい。


それだけは理解できた。


もちろん互いの立場的にどうなのかとは思うが、

何を言っても無駄なのだろう。



翔子の距離感に関しては諦めるしかないようだ。



「…それで?」


「ん?」



首をかしげる翔子を放置して、

手元の書類に視線を戻しながら尋ねてみる。



「俺に何か用か?」


「何もないわ。」



本気で何もないらしい。


胸を張って答える翔子から悪意が一切感じられないあたり、

本当に用もなく姿を見せたようだな。



「…だったらもう一度言う。俺の邪魔にならない場所で好きなだけ監視すればいい。今は調べ物で忙しいからな。用がないのなら、気が散るから、他の場所に行ってくれ。」



はっきり邪魔だと言い切った。


友達でも何でもないからな。


遠回りな表現をする必要はないだろう。



ひとまず翔子を無視して調査を再開する。



目的は魔法の調査だ。


知らない単語を調べるために複数の魔道書を同時進行で読み進める必要があるからな。


ただでさえ集中力が必要になる作業だ。


翔子に関わっている暇はない。



机に並べている複数の魔道書を並行して調べ、

気になった部分を別の魔道書でさらに調査していく。



そんな単純な作業を黙々と進めているのだが、

翔子を無視して作業を再開してからホンの十数秒後に事態が急変してしまう。



「…ん~。あっ♪そうだ!」



突然の思いつきによって、

こちらの願いはあっさりと否定されてしまうらしい。


黙って何かを考え込んでいた翔子が不意に一つの結論に至ったようだ。



「せっかくだし、何か聞きたい事があったら教えてあげるわよ?意味が有りそうで無かったりする魔導書を読むより面白いかもしれないし~。それに、ほら、これでも私も一応先輩だしね♪結構、色々な事に詳しいのよ〜」



…ふぅ。



本当によくしゃべるな。


大人しく黙っていることができないのだろうか?


話しかけてくる翔子の笑顔からは構って欲しいという雰囲気しか感じられない。



こうなるともはや放置すら出来ないのだろう。



こちらとしては無視したくても翔子に諦める様子はないからな。



大人しく話を聞くか?


それとも無視し続けるか?



…どちらにしても面倒だな。



だからといってここでまた翔子との会話に時間を費やすつもりはない。


もしもここで妥協してしまえば、

今後も同じような状況が続いてしまう気がするからだ。



そうさせないためには断固として拒否し続ける必要がある。



「悪いが、興味ない。」



はっきりと伝わるように断言した。


話し合う気はないという意思を伝えたつもりだ。


それなのに翔子は引き下がらなかった。



「絶対有意義な時間を過ごせるはずだから!だから相談してみるべきだってば!ねっ?ねっ?」



しつこいくらいに食い下がってくる。


離れるのも放置するのも無理に思えてしまう。


俺が場所を変えた程度では問答無用で追いかけてくるだろう。


こうなると無視はできない。


この状況で調査に集中するのはさすがに無理がありすぎる。



…さて、どうしたものか。



翔子は話がしたいらしい。


あるいは一人にされるのが寂しいのだろうか?


無駄に明るい翔子の性格を思えば友人の数は少なくないと思うのだが、

どうあってもこの場を離れてくれるつもりはないらしい。



「何度も言うが話し合うつもりは一切ない。どうしても話し相手が欲しいのなら、他を当たってくれ。」



あくまでも翔子を無視して魔導書に視線を向け続けようと考えた。


だが、それでも。


わずか数秒後に邪魔が入ってしまう。



笑顔を浮かべながら殺気を放った翔子が有無を言わさずに実力行使に出たからだ。



「えいっ♪」



可愛らしい声とは裏腹に、

『ばさばさばさばさっ!!』と音を立てて、

全ての魔道書が薙ぎ払われてしまった。



「………。」



机の上にあったはずの魔道書が。


物理的に。


一つ残らず撤去されている。



非常に。


残念なことに。


綺麗に整理して順番に並べていたはずの魔導書が。


全て机の下にばらばらに散らかってしまった。



その結果を見て思うことは一つ。


もはや諦めるしかない、ということだ。



調査は失敗だ。



図書委員を呼び出せば翔子を強制退去させられるかもしれないが、

すでに俺の集中力は途切れてしまっている。



今更、ここでやり直そうという気にはなれない。



もう一度調べ直すにしても、

少し時間をおいて気持ちを落ち着けてからにするべきだろう。



決して自分に非があるとは思わないが、

図書館でなら有意義な時間を過ごせると考えていた自分が間違っていたのだとはっきり自覚出来た。



そしてさらに思う。



本来なら騒いでいい場所ではないはずだが、

翔子には通じないということだ。



それが可能ならすでに話はついているからな。



静かにすべき図書館で実力行使を行った翔子をとがめる人物が誰一人としていない。


それはつまり。


図書館でさえも学園の意向によって動いているということだ。



もちろん翔子の行動に驚いている生徒達はいる。


だが逆に言えば、翔子の行動に対して疑問を感じていない者達が翔子の協力者と言えるだろう。



…文字通りの包囲網だな。



見える範囲内だけでも思っていた以上に数が多い。


ざっと数えて10名以上の生徒達が翔子の行動を見守っているように感じられるからだ。



これが学園中となると100や200では数え切れないだろう。



だとすれば、考えを改めるべきかもしれない。



まさか俺の監視がこれほど大規模に行われているとは思ってもいなかったからだ。


ここだけでこの状況だとすれば、

学園内はどこまで監視の目が広がっているのだろうか?



少し興味が出てきた。



とは言え、翔子に聞いても答えては貰えないだろう。



黙らずにはいられない性格のようだが、

余計なことをべらべらと喋るような口の軽い人間には思えないからな。



今は聞くだけ時間の無駄になる。



それでも状況的には気になるな。


俺一人に対して動員するには大げさすぎるように思えるからだ。



一度、背後関係を調べてみるべきかもしれない。



何が目的なのだろうか?


今更だがその答えを調べる必要があるかもしれないと思えてきた。



「…ふぅ。」



現状を確認したことでため息を一つ吐く。


そしてもう一度翔子に視線を向けてみる。



「………。」



相変わらずの笑顔だった。


両手で頬杖えをつきながら、

ニコニコと微笑んでいる。


監視されているという事実さえなければ、

とても可愛らしい少女だ。



これまで見てきた生徒の中で間違いなく1、2を争うだろう。



翔子が側にいること自体に不満はない。


決して悪い気はしないからな。


だがそれはあくまでも通常なら、という前提があっての話だ。



監視役として接近してきた女を素直に信じるほどまぬけな性格ではない。



今ここで見せている笑顔の裏に何らかの思惑が感じ取れる以上。


不用意に関わるのは身の破滅を招くだけだ。



「一応確認するが、まだ俺に何か用か?」


「だ・か・ら!用はないけど、暇なのよっ!!」



………。



はっきり暇だと言いきっていた。


翔子の言葉に裏の事情があるようには感じられない。


おそらく本当に暇なのだろう。



「もう一度聞くが、本気で言っているのか?」


「当然でしょ!」



当然、なのだろうか?


そもそも監視が忙しいことなどあるのだろうか?


色々と疑問を感じるが、

全力で肯定する翔子を見つめながら何度目かのため息を吐いてみる。



そろそろ俺も疲れてきた。



これが翔子の作戦だとすれば実に有効的な妨害方法だと思う。



ただ暇だというだけの理由で笑顔で迫られているのだからな。


実力行使で追い払うこともできない。



「わかった。どうしても相手になって欲しいのなら話し相手になってやろう。」


「なによ~?その言い方だと、まるで私が友達のいない孤独な美少女みたいじゃない!」


「………。」



今更だが、話が噛み合う気がしない。


友達がいるかいないかは知らないが、

自分で美少女と言う必要はあっただろうか?



いや、そもそも翔子から話を聞いて欲しいと言っていたはずだ。


それなのに怒鳴られる理由は何だろうか?



わからない。



翔子の性格が理解できない。


こちらの意図が伝わることはないのだろうか?


もはや翔子の言葉を追求する気にもなれず、

ただただため息を吐いてしまう。



「まあ、いい。得るものは何一つとして無いと思うが、一応質問はさせてもらおう。」



話し合うだけ無駄だとあからさまに強調してみたのだが、

おそらくこれも伝わらないだろう。



「う~ん。なんだか気になる言い方ね~?」



こちらの意図に気づいたかどうかは不明だが、

話し合いが成立することには満足しているらしい。


機嫌を取り戻して笑顔を浮かべている。



「まあいいわ、何でも聞いて♪」



楽しそうに微笑む笑顔の裏側は分からないが、

こうなった以上は翔子が満足するまで話し合うしかないだろう。



…そうだな。



幾つか思い浮かぶことはあるが、

まずは昨日の試合に関してだろうか。



「昨日の最後の試合は見ていたか?」


「もちろん見てたわよ。」


「俺のホワイト・アウトの能力と、お前の能力を比較して、どちらが上だと判断している?」


「うわ~。ズバッと聞いてくるわね~。まあ、お互い駆け引きをしても意味はないでしょうし、その方が私も答えやすくていいんだけどね~。だけど、はっきり言うなら私の方が遥かに上ね。私の力ならホワイト・アウトを突き抜ける自信があるわ。」


「それは魔術と魔法の差だな?」


「そうよ。私の攻撃をあなたの結界が防ぐ事は不可能よ。」


「だとしたら、魔法としてホワイト・アウトを発現した場合はどうだ?」


「魔法としての戦いになれば、お互いの技術の差が結果として現れるから、現状で言えば答えは変わらず私の勝ちね。」



技術の差か。


なるほど。


ここまでの会話によって一つの結論を導くことができた。



「現状と言ったな?俺とお前の実力差はどの程度だと判断している?」


「昨日の試合を見た感想だけど。私の力を10だとすると、あなたの力は2か3くらいかしら?それでも入学したばかりの新入生と考えれば驚異的なんだけどね~」



2割から3割程度か。


悪くない評価だ。



「…やはりそうか。」



ここで確信を得た。


すでに翔子は恐れるほどの力の持ち主ではないということだ。



昨日の試合において俺はまだ全くと言っていいほど力を見せていなかった。


基本的には奪った力を叩き返していただけだからな。


俺自身の力はほとんど見せていない。



…だとすれば、実際の差はもっと小さいだろう。



3倍ではなく2倍程度だろうか。


それでも互いの差は十分すぎるほど大きいが、

予測が外れているという意味では翔子を出し抜くことに成功している。


そのうえでもう一つ。


翔子はまだ気付いていないようだが、

俺はすでに一部の魔術を魔法として使う事も出来るということだ。



こちらはまだ実験段階だが、

俺は魔法が使えないわけではない。


魔術に関する知識は初心者並だが技術だけは徹底的に練習を重ねてきたからな。



…14年だ。



5歳で魔術師として覚醒してから14年間。


生き抜くための手段として徹底的に魔術を使い込んできた。


まだまだ扱える魔術の種類は少ないが、

技量だけなら上級者を名乗れるだろう。



だからこそここまで勝ち進んでこれたとも言える。


魔法に関しては最後の切り札として当分の間は見せるつもりがない。


だから力を隠した状態で試合を勝ち進んできたことも事実だ。



翔子の予測は外れている。


読み間違えている部分がある。



それでも現段階での魔力量は翔子に大きく劣るからな。


その一点において反論の余地はないが、

それも現段階での話だ。



俺は吸収の力を持っている。



今までの試合で得た魔力と、

翔子に辿り着くまでの間に戦う生徒達から得る魔力。


そして俺自身の成長を考えれば、

翔子に追い付くのは不可能ではないはずだ。



もしも満足できなければ魔力の吸収の為だけに何度か試合を繰り返してもいい。


いずれ魔力の総量が上回れば、

ホワイト・アウトが翔子の魔力も食らい尽くすはずだからな。



…とはいえ。



他人の魔力を得ただけで強くなれると思うほど愚かでもない。


俺自身が強くなる必要はある。


そのためにここで調査をしていたわけだからな。



「…もう一つ聞きたい事がある。」


「なになに〜?」


「力の象徴と聞いて、お前なら何を思い浮かべる?」


「…力の象徴?」


「そうだ」


「う~ん?なんだろ~?曖昧過ぎて答えに悩むわね~」



うなり声を上げながら考え込んでいる。


本当にわからないのだろうか?


それとも分かっていて答えないのだろうか?



感情の変化が激しい翔子の表情からはどちらが正解なのかがわからない。



喜怒哀楽がはっきりとしすぎていて、

些細な変化というものがわかりにくいからだ。



「どう思う?」


「ん~。分からない…かな?」



具体的な何かを答えてくれることはなかった。


この言動が芝居なのか本気なのかもわからない。



もしも演技だったとすればかなりの役者だ。


俺では翔子の心理を読みきれないだろう。



だがもしも翔子の言動が本気だったなら、

裏を読み解くこと自体が無意味な気がする。



…どちらが正しいのだろうか?



付き合いの浅い俺ではわからない。


翔子の言動は一方的な部分が多すぎて判別しきれない。



これまで他人と関わる経験が少なかったとは言え、

翔子の行動は決して一般的ではないだろう。



監視対象を翻弄ほんろうさせるという意味ではまさしく適任だ。



決していい意味ではないが、

だからこそ翔子が監視役なのだと、

何となくだが理解できた。



これほど面倒な人物はそうそういないだろうからな。


悪意がないにもかかわらず全く会話が成立しない。


そんな翔子をまともに相手にするのは気苦労以外の何ものでもなかった。



「…分からないならいい。」



これ以上質問をしても無駄だろう。


話が噛み合わないからな。


もはや聞くべきことは何もない。


そう考えて話を打ち切ったのだが、

それでも翔子はしつこく問い掛けてくる。



「それで?答えは何なの?」



………。



自分からは情報を出さずに、

こちらの情報だけを求める翔子の行動に悪意が感じられないのが不思議だ。


もしかしたら、これが素の性格なのだろうか?


監視役として演じているのではなく、

純粋な性格なのだろうか?



…まあ、どちらでもいい。



翔子の性格に関して考えるのは時間の無駄だ。


どうせ試合で監視されるのなら答えを見せても結果は同じだからな。



「人それぞれに答えは違うと思う。だが、俺なら…」



…俺なら、そう。



これまでの人生を思い返せば答えは一つだ。



…先手必勝。



それが生きる手段だ。


相手に気づかれる前に狙い撃つ。


相手が動き出す前に制圧する。



…そうやって生き残ってきた。



それが答えだ。


難しく考える必要はない。


俺に出来ることはすでに分かりきっている。



『悪・即・斬』



俺が思う理想はこれしかない。



最初から答えは出ていた。


問題は理想を実現できるかどうかだ。



…今回もやってみるしかないな。



霧の結界と同じように。


理想を実現するために実験を繰り返すしかない。



「説明するよりも実際に見せた方が早いからな。会場に行くぞ。」


「…え?」



それ以上の説明は一旦保留にして、

ひとまず席を立つことにした。


戸惑う翔子を無視し、

散乱した魔道書を拾い集めてから手早く返却する。


そして早々に図書館の出口に向かって歩き出す。



「ちょっと…待ってよ~!」



返事も聞かないまま歩き出したことで、

遅れて席を立った翔子は慌てて後ろから追いかけてきた。



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