本質
《サイド:美袋翔子》
で、次にやってきたのは試合場Dー3よ。
総魔に連れられて着いた試合場には、
すでに対戦相手の横山瑛太が待っていたわ。
受付で手続きを終えた総魔は私達と合流してから試合場に向かったから相手の方が先に着いたみたいね。
総魔が選んだ相手は10011番よ。
番号だけで見れば、
優奈ちゃんと龍馬に次ぐ会場内3番目の実力者になるわ。
現在最下位の総魔と比べると軽く1000番以上離れてるけど。
その程度の差には何の意味もないわよね?
戦えば勝つことが目に見えているからよ。
だけど。
覚醒した総魔の実力の片鱗だけでも見れるのなら、
試合そのものには意味があると思う。
そんなふうに考えた私は試合場に向かう総魔を応援しながら試合が始まるのを心待ちにしていたわ。
もちろん真剣な瞳で総魔を眺めてる龍馬や、
初めて見る総魔の試合に興味を感じてるっぽい悠理ちゃんの気持ちも何となくは理解できるけどね。
でもね?
たぶんだけど。
私と優奈ちゃんだけはちょっぴり違う目線で総魔を見てると思う。
勝つことが分かってる試合なのよ?
それも圧勝と言えるはずの試合に対して何の心配もないわ。
ただ単純に実力を見届けるだけの試合だからそれほど興味はないのよ。
だからね。
たぶん優奈ちゃんは私と同じように別のことを考えてるはずなの。
それはね。
自分の『好きな人』が試合をする、っていうこと。
そしてその人が勝ち上がっていくことの喜び。
単なる興味じゃない感情を、
きっと優奈ちゃんも感じてるはずなのよ。
…まあ、あくまでも推測だけどね。
そんなことも考えながら試合場に視線を向けてみる。
向かい合う総魔と横山瑛太の間に、
審判員が歩み出てきたところよ。
「準備はよろしいでしょうか?」
形式的に尋ねる審判員に対して、
二人は無言で頷いてた。
「それでは、試合を始めます。試合、始めっ!!」
合図と同時に動き出す二人…じゃなくて、
魔術の詠唱を始めたのは横山瑛太だけだったわ。
総魔は身動き一つ見せないし。
詠唱を行う様子さえなかったのよ。
どうする気なのかな?
私は疑問を感じるけれど。
優奈ちゃんは平然と眺めてる。
心配するわけでもなく。
気にした様子さえもないわね。
総魔の実力を誰よりも先に知っている優奈ちゃんからしてみれば、
総魔が動き出さないことさえ当然なのかもしれないわ。
「余裕のつもりか!?なめるなよっ!アイシクル・ランス!!」
横山瑛太の両手から巨大な氷柱が現れて、
総魔に向かって真っ直ぐに放たれる。
効果そのものは尖った氷を飛ばすだけの簡単な魔術だけどね。
その速度は油断できないのよ。
風を切りながら一瞬で総魔へ迫る巨大な氷柱。
その氷柱に向けて、
総魔は無防備に左手を突き出してた。
ただそれだけの動きなのに。
左手に突き刺さるはずだった巨大な氷柱が一瞬にして消滅したのよ。
その光景を見た次の瞬間に。
総魔の左手の上に燃え盛る炎が姿を現していたわ。
「なっ!?」
驚愕の表情を浮かべる横山瑛太は、
何が起きたのか理解出来ずに戸惑っているようね。
でもね?
だけどね?
それは私達も同じなのよ。
総魔と優奈ちゃんしか知らない事実。
総魔の特性が発動してることは何となく理解出来るわ。
だけど、それだけなの。
氷を炎に『変換』して、
なおかつそれを手の上に維持している理論までは理解出来ないのよ。
吸収とは全く違う力だけど。
根本的な本質は同じなのかな?
自分の魔力に出来ないだけで、
魔力を操るという本質は同じなんだと思うの。
「あれが、総魔の能力なの…?」
驚く私達の視線を浴びながらも、
総魔は変換した魔術を横山瑛太に向けて発動させてた。
「ファイアー・ランス!」
槍を模した巨大な氷柱に対抗するかのように作り出されたのは炎の槍よ。
属性は真逆だけど、威力は同等ね。
一直線に伸びる炎が横山瑛太に向かって放たれたわ。
一瞬で迫る炎を何とか回避しようとして動き出す横山瑛太だけど。
回避が間に合うことはなかったわ。
無詠唱で反撃を受けてるわけだしね。
初心者同然の横山瑛太に回避能力を求めるのは酷だと思う。
「くっ!?」
文句なしの直撃。
そして着弾した炎が勢いよく燃え上がったのよ。
「う、うわーーーーっ!?」
炎に飲まれて叫び声をあげる瑛太が逃げ惑っているけれど。
そんな簡単に炎は消えないわ。
「う…う…あ…」
全身に負った火傷のせいで、
横山瑛太は気を失ってしまったようね。
あっさりと試合場に倒れてしまったのよ。
「試合終了!勝者、天城総魔!」
審判員の宣言のあとで即座に救命医療班が瑛太に駆け寄ってく。
見た感じはそこまで重傷ではなさそうだけど。
全身に広がる火傷だから。
放っておけば死に至る可能性もあるでしょうね。
回復魔術ですぐに治せるんだけど。
火傷はあまり見たくない怪我の一つだと思うわ。
結構、エグいからよ。
溶けた皮膚とか…考えるだけで鳥肌が立つわ。
まあ、今回はそこまでひどくないけどね。
そんなことを考えている間に、
試合場を離れた総魔が私達の側に帰ってきてくれたのよ




