足りない部分
《サイド:深海優奈》
…はぅぅぅぅ~。
なんだか緊張してきました。
試合場に立つ私の正面には対戦相手の永瀬友香さんがいます。
今朝は美袋先輩から試合を挑まれましたが、
私から試合を挑んだのはこれが初めてです。
初めての挑戦なんです。
恐怖や不安や緊張。
色んなことを考えてしまって、
自然と体が震えてしまいます。
あうぅ~。
悠理ちゃん、助けて…。
心細くなって悠理ちゃんに振り返ってみると、
悠理ちゃんは全力で私を応援してくれていました。
「頑張れ、優奈~っ!!」
…ぅぅぅ。
応援してもらえるのは嬉しいです。
嬉しいと思うのですが、
それでも恐怖は消えません。
どうしても落ち着かないのです。
そのせいでしょうか?
自然と総魔さんに視線を向けていました。
そして。
総魔さんと目があったと思ったその時に、
総魔さんも応援してくれたんです。
「自信を持て。」
たった一言でした。
ですが。
その一言が私の心に残りました。
…自信を持つこと。
確かにそうです。
それが今の私に欠けていることだと思います。
…たぶん。
私に足りていないのはそういう部分だと思うのです。
試合の勝ち負け以上に大切なこと。
それは自信を持つことです。
…始める前から、諦めちゃダメだよね?
そんなふうに。
自分自身に言い聞かせてみました。
例え勝てなくても。
全力で戦うこと。
最後まで逃げずに頑張ること。
それが今の私にとって大切なことだと思うからです。
だからもう、振り返るのは止めました。
私は…いえ。
私も前を向いて進みます。
皆と同じ道を進みたいと思うからです。
目を閉じて。
一度だけ深呼吸しました。
次に目を開けた瞬間から、
私も歩きだそうと思います。
総魔さんや。
悠理ちゃんや。
先輩達のように。
私に優しくしてくれたみんなと同じように。
高みに続く道を…です。
そう思うことで心が徐々に落ち着いていきました。
私の中の不安が、
ゆっくりと消えていったんです。
そして。
目を開けた私はまっすぐに永瀬さんを見つめました。
恐怖はなくなりません。
不安もまだ消えません。
ですが。
逃げようとは思いません。
例え負けるとしても。
ちゃんと努力だけはしたいからです。
「よ、よろしく…お願いします。」
「こちらこそ…。」
お互いに見つめ合い、ぶつかり合う視線。
それでも視線を逸らすことなく、
永瀬さんと向き合い続けました。
もう怖がっている場合ではありません。
ここまで来たら、戦うしかないんです。
そんなふうに考えている間に、
審判員さんが進み出てきました。
「準備は良いですか?」
問い掛けられて頷きます。
私と永瀬さんの試合がついに始まるんです。
「それでは、試合開始っ!」
審判員さんが即座に後方に下がりました。
そして私と永瀬さんは、
ほぼ同時に魔術の詠唱を始めました。
…ですが。
自分でも本当にダメだと分かっています。
私は魔術の詠唱が早くないからです。
…というよりも。
とても遅いです。
普通の人の3倍は時間がかかっていると思います。
だから当然、相手の魔術が先に完成してしまいます。
「…詠唱が遅すぎるわよ!サンダー・ストーム!!」
永瀬さんの魔術が発動して、
私の周囲を雷撃の竜巻が包み込みました。
『バチバチッ!!』と、弾ける雷撃。
竜巻が徐々に幅を狭めながら、
私を押し潰そうとしてきます。
この竜巻に飲み込まれたら、
どれくらいの痛みに襲われるのでしょうか?
まともに試合をしたことがないのでわかりません。
魔術を受けたことがないから想像さえもできません。
だから。
「…こ、怖いです…っ。」
再び心の中で膨らむ恐怖。
本当に私の能力が吸収だったら害はないはずです。
でも。
もしもそれが間違っていたら?
そんな不安を感じながらも、
今は懸命に詠唱を続けました。
その間に。
竜巻が私の体を飲み込んでしまいます。
「……っ!?」
恐怖を感じて怯えてしまいましたが。
痛みはないまま、雷撃は消失しました。
なんとなくですが。
私に触れると同時に、
かき消されるかのように消失していったように思えます。
だとしたら。
やっぱりこれが吸収の能力なのでしょうか?
自分でもよくわかりませんが、
少しだけ魔力が増えたようなそんな気はします。
「い、痛くなくて良かったです…。」
痛いのは怖いです。
だから何も起きなくて良かったです。
ひとまず無事だったことで、
完成した魔術を永瀬さんに向けて発動させてみることにしました。
「ダンシング・フレアっ!」
発動の直後に現れるのは巨大な炎です。
美袋先輩から吸収して身につけた魔術でもあります。
荒れ狂う炎が。
永瀬さんの体を飲み込みました。
「え?いっ、いや~~~~~~っ!!!」
絶叫、というのでしょうか?
私の放った一撃で、
永瀬さんは倒れてしまいました。
「試合終了!勝者、深海優奈!」
審判員さんの宣言によって、
2度目の試合も終わりました。




