最大の特徴
こうして一通りの自己紹介を終えた私達は、
今までのいきさつを交えながら少しの時間ですがお互いのことを話し合いました。
…と言っても。
彼は自分自身のことは何も語りませんでしたけどね。
翔子はしきりに尋ねていましたが、
彼は沈黙したままで一切語ることがありませんでした。
何か口に出すことの出来ないような事情でもあるのでしょうか?
詳しいことは分かりませんが、
彼に関すること以外は会話が弾んでいたと思います。
私の話で言えば、
妹がいることや両親がケーキ屋を営んでいることなど。
翔子の話で言えば、
特風での思い出や失敗談なども場を盛り上げる要素だったと思います。
それとは別に。
近藤悠理さんが学園長のお孫さんであることや、
深海優奈さんのお家がお花屋さんという話もありました。
他にも私と龍馬が他国から亡命してきたという話も出ましたが、
あまり深くは追求されませんでした。
それでも私や龍馬が学園の治安維持に力を注ぐ理由を理解してもらえたと思います。
「へぇ~。じゃあ、翔子先輩はどうして特別風紀委員に入ったんですか?」
尋ねたのは悠理さんです。
翔子は手をパタパタと振りながら照れ臭そうに答えていました。
「別に特別な理由はない…っていうか、考えたこともないというか…。まあ、何となく面白そうだから、かな~?」
恥ずかしそうに笑う翔子ですが、
本心は違うはずです。
決して何も考えていないわけではないと思います。
わざわざ言葉にはしませんでしたが、
私のために協力してくれていると思うからです。
「まあ、でも、一番の理由は『居心地が良いから』かな?」
「居心地ですか?」
不思議そうに首を傾げる悠理さんに、
翔子は少しだけ思い悩むような表情で説明を続けました。
「最初はね。沙織に誘われて始めたのよ。一緒にどう?って聞かれてね。それで沙織のためなら、って感じで参加したのよ。それからはまあ、何て言うか、それなりに結構楽しいし、みんなで馬鹿やってるのも私の性格に合うし、やってて悪くないな~っていう感じなの。まあ、それが理由ね。」
よく分からない説明ですが、
翔子は翔子なりに特風での活動を楽しんでいるということでしょう。
皆が皆、世界平和を願っているわけではないことも事実です。
ですが。
そこまで考えなくても。
誰かの役に立ちたいという気持ちさえあるのなら。
どんな考えであってもいいと私は思っています。
全員の意思を統一することは出来ないのですから。
歩むべき道は違っても。
方向さえ同じならそれで十分ではないでしょうか?
私はそう思っています。
「まあ、私のことはどうでもいいんだけどね~。」
曖昧な説明のまま、
翔子は深海優奈さんに視線を向けました。
「それよりも…」
「どうかしましたか?」
疑問を浮かべる優奈さんを、
翔子はまじまじと見つめていました。
「優奈ちゃん。今朝会った時と比べると、かなり魔力が上昇してるみたいだけど。何があったの?」
「…あ、あ〜、はい…。」
翔子の発言をきっかけとして、
話が本題へと移り始めました。
「えっ…と…。」
説明に悩む優奈さんは、
助けを求めるかのように彼に視線を向けています。
その視線に気付いたのでしょうか?
ようやく彼が話し始めました。
「今の優奈の魔力は研究所での実験過程で吸収した結果だ。」
天城君の言葉をきっかけとして静まり返る室内。
一体、研究所で何があったのでしょうか?
私も魔術研究所にはいたのですが、
部署が違うので何も知りません。
…地上と地下という距離もあるけれど。
最も近くにいながら、
最も情報がないのです。
だからこそ。
彼の話に思考を集中させることにしました。
「優奈の特性の真偽を確かめる為に、研究所で実際に魔術を受けさせて吸収の能力が実在するかどうかを確かめた。」
話し始めた彼に、
悠理さんが問い掛けました。
「その吸収って、結局どういう能力なの?」
「えっと…。」
疑問を感じる悠理さんの問いかけには、
優奈さんが答えていました。
「魔術の核となる魔力を吸収する能力…ですよね?」
「ああ、そうだ。」
優奈さんの言葉に頷いた彼は、
より分かりやすく説明を続けてくれました。
「どんな魔術だろうと元は『魔力』という一定の力だ。」
そこには善も悪も、上も下もありません。
だからこそ。
元となる力を操る術があれば、
どんな魔術も意味を成さなくなるのです。
「つまり吸収という力は、その能力によってあらゆる魔術を『無効化』することが出来るということだ。」
魔術の無効化。
確かに、表面上はそうかも知れませんね。
ですが。
それだけでは終わりません。
吸収した魔力は彼や優奈さんに残るからです。
消費しない限り。
減ることのない魔力です。
充電式、と言っても良いのではないでしょうか。
吸収して溜め込んだ魔力の残存量が、
優奈さんから感じる魔力の正体ということです。
吸収した魔力を『自在に使える』ということ。
それが吸収の能力の最大の特徴になります。
だからこそ。
全属性という能力を持つ私でさえも、
吸収に関してだけは手が届かない特殊な能力なのです。
想定外であり、
規格外といえる特別な力だからです。
それほどの特殊な能力を扱える人物が、
今は二人も私の目の前にいます。
その事実が驚異的であると同時に、
興味とも言える感情が私の中には確かにありました。
もしも私にも吸収の能力があれば…と、
思う気持ちがあることも事実だからです。
素直に羨ましいと思える力なのです。
私だけではなくて、
きっと他の人も同じように願うと思います。
『魔力の吸収』
それは魔術師にとって最高峰の能力です。
魔術戦においては無限にも等しい魔術が使えるわけですから。
吸収の能力は魔術師であれば誰もが欲する力だと思います。
…と。
考え事をしている間に、
翔子が話を続けていました。




