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THE WORLD  作者: SEASONS
4月2日
30/185

報告

《サイド:美袋翔子》



…ふう~。



ここ数日、ため息が尽きないわ。


朝からず~~~~~~っと仕事なのよ。


それも早朝から夕暮れまでの12時間労働って何!?


私って職員じゃなくて、学生よね?


お給料を貰うどころか、

学費を払ってる立場なのよ!?


なのにどうしてこんなに働かされてるの!?



…あぁ〜〜〜〜〜!!


…もう無理〜。


…帰って寝たい〜〜〜!



お布団に飛び込んで一日中ゴロゴロしたいのよ!



切実にそう思うんだけど。


今日のお仕事はまだ終わってないのよね~。



…でもでも、あとちょっとで終わりだし。



もう少しだけ頑張るしかないわ。



残された仕事はあと一つ。


これさえ終われば今日は解放されるんだけど。



…はぁ。



階段を上るのが地味に辛いわ。


校舎の7階って遠すぎるのよ。


ただでさえ学園は広いのに。


あっちこっちに移動して。


校舎に戻ってからも7階まで徒歩。



これはもう文句の一つも言いたくなるわよね。



体力的な限界。


精神的な疲労。


色々と言いたいことはあるけれど。


今は黙々と歩みを進めるしかないの。



「うう〜。やっと着いた〜~」



時計の針が午後6時を過ぎた頃。


ようやく校舎の最上階にたどり着いたわ。



「…お待たせしました。美袋です。」


「どうぞ」



コンコンと扉を叩いてから入室する。



「失礼します。」


「ふふっ。おかえりなさい。」



笑顔で出迎えてくれたのは理事長よ。


室内には一人しかいないみたい。


まあ、当然よね。


ここは理事長室なんだから。


とりあえず入室の許可をもらえたから入ってみたんだけど。



…う〜ん。



仮にも国家の代表と同室っていうのは緊張するわね。


現在、理事長室にいるのはたった二人。


学園の理事長であり、

共和国の代表でもある米倉美由紀理事長と、

学園の一生徒でしかない私の二人だけなのよ。



「どうぞ、座って」


「はい。ありがとうございます。」



小さなテーブルを挟んで、

互いに向かい合うソファーに座ってみる。


地味に夕日がまぶしいけれど、

これはこれで眠気覚ましにはいいかも?



「とりあえず、今日の報告ですけど…。」



気持ちを落ち着けるために小さなため息を交えながら今日一日の出来事を報告したわ。



午前中の試合内容や、午後からの出来事。


10回に及ぶ試合の詳細を覚えている限り全て説明したの。



話の流れの中で『ホワイト・アウト』に関する報告も順次していくんだけど、

全てを説明しようとすると思っていた以上に時間がかかりそうだったわ。



…まさか、ここまで成績を伸ばしてくるなんて予想してなかったしね~。



本来なら一日に1回か2回の試合を行う生徒しかいないのよ?


全力で試合をすれば魔力が底を尽くからそれが当然なんだけど、

総魔は魔力の底を感じさせずに全ての試合を勝ち続けていたの。


だから通常よりも5倍くらい説明の内容が増えちゃったのよ。



…ホントに、意味不明よね?



自分で確認しておいてなんだけど、

説明してる内容が自分でも信じられなかったりするわ。



1000番飛ばしは当たり前。


各会場のほとんどを1試合で突破。


さらに一度見た魔術は即習得。



そんな例外中の例外としか言い様のない出来事があまりにも続いていたの。



…こんなのあり得ないわよね?



少なくとも私には真似できないし。


私が知る範囲で考えても、

真似できる人なんてたぶんいないわ。



だからね。



直接見ていた私でも理解できないのに、

話を聞いているだけの理事長には信じてもらえないんじゃないかな?って思ってしまうくらい異常だったのよ。



「…とまあ、今日のところはそんな感じでした。」


「………。」



一通りの報告を終えてみたけれど。


理事長は何も言ってくれなかったわ。


いわゆる絶句ってやつよ。


その気持ちはすっっっごく分かる。



ただでさえ入試の結果がぶっちぎりなのに。


たった一日で半分の検定会場を突破。


成績も4986番で熟練者級の仲間入り。


それもたった10回の試合で。



…うん。



説明してる自分でも意味が分からないわ。



霧の結界がとんでもない性能だから、

中盤で一気に成績が伸ばせてしまったのは仕方がないのよ。



…仕方がないっていう言葉で片付けちゃいけない問題なんだけどね。



だけど実在する以上は、

否定なんてできないからどうすることも出来ないわ。



だけど。


あれはもう反則よね?


魔術を防ぐだけなら便利な魔術で良いな〜って思うだけで終われるのよ。


でも実際にはそんな生易しい魔術じゃなかったわ。


防いだ魔術から魔力を奪うだけじゃなくて、

魔術師自身からも強制的に魔力を奪っちゃうのよ?


さすがにあれはないわ。


凄いとかそういう話じゃなくて、

ただただ引いちゃう。



もうドン引きって感じ?



使い方によっては大惨事になりかねない凶悪な能力なのよ。


天城総魔本人がどこまで考えてるのか知らないけれど。


一方的に魔力を奪われるとか怖すぎるわ。


出来れば関わりたくないくらいなのよ。



…まあ、監視の任務があるから関わらないわけにはいかないんだけど。



とりあえず総魔の試合を調査していたから、

さっきの対すみれ戦も当然観戦していたんだけど。


試合を終えたあとに会場を出た総魔は、

次の会場じゃなくて図書館に移動して調べ物を始めたの。


だから今日はもう試合に出ないと判断して監視を終了したのよ。



…で。



理事長へ報告するためにここまで来たんだけど、

今日一日の出来事を報告しただけで理事長の表情は引きつっているように見えたわ。



…まあ、当然よね。



対応に困っちゃうくらい、

本当に、霧の結界は異常なのよ。



「…うう~ん。マジック・ドレイン・フィールドね~」



報告を受けた理事長は戸惑いながらも、

どことなく微笑んでるようにも見えるわね。



…こういう時の理事長ってきっとあれよね?



多分だけど。


今は驚きよりも興味が上回ってるのかもしれないわ。


まあ、私も同じなんだけど。


吸収という能力自体には興味があるからよ。



「魔力の吸収結界なんて、とんでもない魔術を考えたものね。」


「…ええ、そうですね。」



国家の代表でさえ困惑してしまう魔術。


これだけは本当に理解できないわ。



「魔術師なら誰もが理想とする究極の魔術だけど、今まで誰一人として実現できなかった技術よ。それを使えるなんて、羨ましいというよりも正直に言って簡単には信じられないわ。」


「そうですね。私も実際に経験したわけではないので絶対とは言い切れませんが、魔力の吸収という現象はこの目で確認しました。それでもまだ信じられないくらいですけど…。」


「でしょうね〜。」



報告を聞いた理事長は小さく頷いてた。


理解できないのは理事長も同じみたい。



「事実確認はこれから行うとしても、もし彼の魔術が本物だとすれば色々と面倒なことになるでしょうね。」



…確かに。



単純に魔術の格付けをするなら間違いなく禁呪に位置するはずよ。


結界に触れただけで全ての魔力を吸い取られるとなると対魔術師戦では無敵の魔術になってしまうから。



「魔術を奪い取れるだけでも異常なのに、強制的に魔力を吸収するなんて、共和国の歴史上初めての出来事よ。」



…ですよね〜。



「一体、彼は何者なのでしょうか?」


「…さあ?何でしょうね?」



当然の疑問を感じるけれど、

その問いに答えられるのは本人だけ。


何も知らない私達がここで話し合っていても答えが出ないのは分かってる。


だから理事長は笑顔を絶やす事なく、

当然のように宣言してくるのよ。



「それを調べるのが、貴女の仕事でしょう?」



…いやいや。


…そんな仕事知らないんですけど?



「他はともかく、私は探偵ではありませんし、そういった職業についているつもりもありませんけど?」


「…あら?そうだったかしら?」



あからさまに何かを企んでいるかのような笑顔で小さく首をかしげてる。


こういう仕草って、

割と本気で殺意が湧いてくるわよね。



「貴女には学園の治安を維持するための役職と、学園内の暗部を統括する諜報部門の全権を委ねていたと思うけれど?」



…ええ~?



好きでやってるわけじゃないのに?



…すっっっごく不本意なんだけど。



だけど理事長は本気で私を探偵役に考えてるみたい。



…はぁ。



普段は笑顔を絶やさない私だけど。


さすがにこの理事長の前でだけは、

ため息が尽きる事がないわ。



「…その辺りに関しては色々と言いたいことがありますし、個人的に面倒なことはしたくないと何度も言ってるはずなんですけど?」


「あらあら?だったら親友に丸投げしてみる?現状で翔子の代わりができるのは沙織くらいじゃないかしら?」



…あぅ。


…いや。



「それは、ちょっと…。」


「でしょうね~。あの子の自由を約束する代わりに、翔子が頑張るという条件だったはずよね?だから、ちゃんと、与えられた役目を果たしてもらわないと困るわ~。」



…あぁぁぁ。


…うぅぅぅ。



理事長の指摘に関しては反論出来なかったわ。


ここで仕事を放棄するのは簡単なんだけどね。


それをしてしまうと大切な親友に迷惑がかかってしまうから。



…というか。



それどころかもっと切実な問題まで発生しかねないわ。



…まあ、色々とね。



十分に理解してるから、

個人的な事情で理事長の指示に逆らうことはできないのよ。



「…はぁ。弱みを握られてる以上、仕方がないですね。」


「ええ、わかってくれて嬉しいわ。」



抵抗を諦めて大人しく従う私を見て嬉しそうに微笑む理事長。


そんな悪魔の笑顔に冷たい視線を向けてみるけれど。


当の本人は一切気にしてないみたい。



「ちゃんと働いてくれれば、みんな幸せになれるのよ。」



…しあわせ?



それってどこにあるの?


少なくとも私の平穏はどこにもないのに?



…はあ。



あっさりと無責任なことを言ってくれるせいで、

ちょっとだけ抵抗したくなってきたわ。



「それは…どうでしょうね?」


「あら?沙織を見捨てるの?」


「まさか、それはないですよ。」



それはない。


それだけは絶対にないわ。



…でもね?



「…ただ、弱みが強みに変わることもあるんですよ?」


「沙織にその選択肢はないんじゃないかしら?」



まあ、そうね。


沙織はきっと選ばない。


自分の幸せよりも、

誰かの幸せを願ってしまう優しい子だから。


自分から選ぶことはないわ。



だけど、ね。



選ばないとしても、

選ばせる方法はあるのよ。



「私が一緒に行動するとしても、ですか?」


「う…。」



私の反撃によって理事長の表情が一気に青ざめていく。



「理事長に沙織を拘束することはできません。すでに向こうからは推薦状も来てますから」


「そ、それは、ちょっと…」



切り札を失いかけていることに戸惑いを見せる理事長にここぞとばかりに微笑み返す。



「私を、鎖で、繋げるなんて、思わないでくださいね?」


「え、ええ…。そ、そうね…。」



手駒として考えていた私に何も言えなくなってしまった理事長を見て、

少しは気持ちが晴れた気がするわ。



…だから今はここまで。



つまらない駆け引きは放棄して、

大人しく身を引くことにしたのよ。



「まあ、『理事長』に対して逆らうのは簡単ですけど、『共和国代表』に逆らったところで良い事があるとは思えませんから、今のところは大人しく言うことを聞いておきます。」



「…そ、そうよね!そうしてくれると助かるわ。」



安心してほっと息を吐いているけれど。


私としても一矢報いることができたから、

少しは気持ちが楽になったわ。



「それで、明日もまだ観察を続けるつもりですか?」


「それはもちろん、当然でしょう。」



はっきりと逆らうつもりはないと宣言したことが良かったのかな?


一片の迷いも見せずに満面の笑顔でうなずいていたわ。



「たった一日で半数以上もの生徒を乗り越えた実力と、独自の技術と発想力。それらを踏まえた上で考えれば、おそらく数日中にはルーンに辿り着くはずよ。まずは彼のルーンを確認する事。それが現段階での最優先事項ってところかしら?」



…あ〜。


…うん。



それもあるのよね〜。



総魔のルーン。


それは私も気になっているわ。


ただ、それ以前の問題があることも忘れるわけにはいかないのよ。



「天城総魔の力がただのアンチ・マジックではなくて、マジック・ドレインである事を考えれば、明日中にはフォース・ステージまで上り詰めるかもしれません。」



…フォース・ステージ。



それはつまり二桁台の成績ということよ。


そしてそれは1万2千人以上いる生徒の中で、

上位99人に到達するということでもあるわ。



「…その可能性もあるわね。その場合は数日どころか明日か明後日。そのどちらかで彼の能力の全貌が判断出来そうね。」



報告を聞いた理事長は機嫌良く微笑みを浮かべてる。



「…というわけで、明日もよろしくね♪」


「はぁ…。わかりました。」



ため息混じりだけれど、

一応首を縦に振っておくことにしたわ。


その結果として。


明日も総魔の観察を続行する事になってしまったのよ。




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