藤沢瑠美
「さて…」
平然とお茶を飲みながら資料を広げる所長さんですが、
私は資料よりも所長さんの手元が気になっていました。
何故か私達の湯呑みとは勢いの違う湯気が立っているような気がするからです。
…気のせいでしょうか?
そんな私の疑問に関係なく。
テーブルの上が資料で乱雑に埋め尽くされていきます。
「とりあえず、深海君の実験から検証していこう」
ごくごく自然に話を進めていく所長さんが、
藤沢さんに視線を向けています。
「解説を頼めるか?」
「はい。分かりました」
即座に返事をした藤沢さんは、
手にしていた湯呑みをテーブルにおいてから席を立ちました。
「改めて自己紹介をさせていただきます。私の名前は藤沢瑠美。分析班担当の責任者です。」
自己紹介を終えた藤沢さんが実験記録を手にとって説明してくれるようです。
「まず、今回最も重要となる深海優奈さんの能力の特定ですが、これは想定通り『吸収』で間違いないと思います。」
吸収の能力。
今まで何度も聞いた言葉ですが、
そもそもどういった能力なのか私には分かりません。
だからでしょうか?
そんな私の疑問を解決するかのように、
藤沢さんが私に視線を向けてくれました。
「それほど難しい考えではなく、単純に魔術を吸い取る能力だと思っていただければ良いと思います。」
「魔術を吸い取る、ですか?」
「ええ、そうです。具体的な説明はややこしくなるので省略しますが、簡単に言えば『吸血鬼』のようなもの…と言うと聞こえが悪いですね。ですが、それが最も分かりやすい例えでしょうか。」
吸血鬼…ですか?
確かにちょっと不気味な響きがありますね。
「深海優奈さんに放たれた魔術は『全て』深海優奈さん自身に吸収されるようです。これは天城総魔さんとは決定的に異なる部分があり、吸収という能力に関しては天城総魔さん以上の能力者であることは間違いありません。」
「私が、ですか?」
「はい。あなたの場合、天城総魔さんの分析結果とは根本的に異なっています。彼は『魔術を分解してから魔力を奪い取る』という理論を構築しているのに対して、あなたの場合は『魔術を直接吸収する』ことに成功しているからです。」
魔力を吸収するのではなくて、魔術を吸収している。
それが私と総魔さんの違いだそうです。
私にはどちらも同じように聞こえるのですが?
全然違うものなのでしょうか?
「二人の能力は根本的に異なります。魔術の分解という技術は魔術そのものを『分解するだけの能力』が必要です。当然相手の魔術を上回っていなければ吸収は失敗します。ですがあなたの場合は、相手の魔術や自分の実力に左右されることなく、あらゆる魔術が吸収可能だと判断しています。」
…あ〜。
そういう違いがあるのですね。
そこまで説明を受けたことで、
ようやく私にも理解出来ました。
私と総魔さんの違いを、です。
言われてみれば確かにそうなのかもしれません。
いえ、まだ何となくなのですが。
私と総魔さんでは同じ『吸収』の能力でも違いがあるということは理解出来ました。
そしてようやく私は自分の力が何なのかを知ることが出来たんです。
今まで何度も図書館に通って、
毎日のように能力に関して調べていたのですが。
答えが出ることはありませんでした。
学園へ入学する以前からも今と同じような現象を経験していましたので、
何とか自分のことを調べようと思って試合も行わずに毎日調べ物ばかりしていたのです。
そして他にも同じような人が居ないかと期待して、
検定会場を見学に行っていたのですが。
その努力が実を結ぶ前に。
総魔さんの協力によってようやく私は私の力を知ることが出来るようになったのです。
もちろんまだ具体的にどんな効果があって、
どういうことが出来るのかはまだまだ分からないことばかりなのですが。
それでも自分を知る為の第一歩は踏み出せたと思います。
そういう意味では総魔さんについてきてよかったのではないでしょうか。
こうして私の能力に関する一通りの説明を終えたことで、
藤沢さんは再び席に着きました。
話を終えてお茶に手を伸ばす藤沢さんは満足気です。
一仕事を終えた充実感さえ感じられます。
だから、でしょうか。
西園寺さんの時にも感じたことですが、
藤沢さんも大人の女性という雰囲気があってとても素敵な方に見えました。
私も西園寺さん達のように堂々と行動して、
しっかりとした大人の女性になりたいです。
…なりたいんですけど。
理想は理想です。
すぐには無理そうです。
まずは自分に自信を持つことから始めなければいけないと思うのですが。
それがすでにものすごく難しいと思うのです。
どうすれば自分に自信が持てるのでしょうか?
私にはわかりません。
一度、総魔さんに相談するべきでしょうか?
今は話し合いの最中なので無理そうですが、
私が悩んでいる間にも、
話はどんどん進んで行きました。




