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THE WORLD  作者: SEASONS
4月7日
290/1378

弟子入り

「えーっと、武藤君」


「はい!」



御堂先輩に素直に返事を返す馬鹿。


その素直さで私の意見も聞いてほしいわね。



「一つ聞きたいんだけど、どうしてきみはそんなに悠理と敵対しようと思うのかな?他にも沢山生徒はいるだろうし、悠理にこだわる必要はないんじゃないかな?」



どう説得するべきか思い悩みながらも、

馬鹿と話し合おうとする先輩。


その努力にはとてつもなく称賛を贈りたいと思う。



だけど。


馬鹿は止まらないみたい。



「いいえ!!悠理でなければダメなんです!!」



一歩も引く事のない馬鹿。


何でそこまで私にこだわるのかが分からないのよね~。



他にも戦った生徒は沢山いるはずだし、

負けた回数は両手で数え切れないほどに溢れているはずなのよ。



だからどうせ再挑戦を希望するのなら、

他のところに行ってくれればいいのに。


そうすれば私は逃げ回らなくて済むのに。



なんで私なの?



心底、疑問を感じるけれど。


事態は私にとって最悪の展開へと進んでしまうみたい。



「どうしようかな…。」



困った表情で馬鹿と向かい合う御堂先輩。


果てしなく困っている先輩の表情を見ていると、

なんだか申し訳なくなってくるわね。



…あぁ。



御堂先輩、ごめんなさい。



面倒なことを押し付けてごめんなさい!



何度でも謝ります。



だから、お願いします!!



あの馬鹿を一刻も早く異次元にぶっ飛ばしてくださいっ!!



なんて。



祈りに祈って祈り続けてみたわ。



だけど最悪の展開が私に襲い掛かってくるのは止められなかったのよ。



「どうしてそこまで悠理にこだわるんだい?」



先輩が馬鹿に尋ねると。



「悠理のことが『好き』になったんです!だから他の女ではダメなんです!!!」



馬鹿が少し照れ臭そうに答えたの。



「「「………。………。………。」」」



…嘘でしょ?



まさに驚異の発言だったと思うわ。



馬鹿の告白を聞いた私だけじゃなくて。


巻き込まれた御堂先輩と美袋先輩も言葉をなくして固まってしまうくらいだから、

馬鹿の馬鹿っぷりはどこまでも底なしだったということよ。



…だけど。



あの馬鹿が。



私のことを?



ねえ。


今、何て言ったの?



私の聞き間違いでなければ、

世界で一番聞きたくない発言だったはずよね?



最も恐ろしくて。


最も聞きたくない発言だったんじゃないかな?



私は人生『最初の告白』を、

とてつもない馬鹿にされてしまったのよ。



じんわりと溢れ出る涙が止まらない。


あまりの絶望に直面してしまって、

人目を忘れて泣き出してしまうくらいだったわ。



…うぅ…っ。



さすがに声はださないように努力したけれど。


泣いてることは隠しきれなかったでしょうね。



この絶望的な状況に陥ったことで、

さすがの美袋先輩も気を使い始めてくれて、

そっと私の体を抱きしめてから優しく頭を撫でてくれたわ。



「…ん~、色々と大変ね~。」


「助けてくださいぃぃぃぃ…。」



本気でお願いしてみたわ。


だけど馬鹿は納得できなかったみたい。



「なんで泣くんだ、悠理っ!?」



戸惑う馬鹿が勝手に騒ぐ。


その行動の全てが私に嫌悪を感じさせてるのよ。



お願いだから、黙って消えてっ!!



心の叫びさえも力尽きそうになる。



というか。


なんだかもう色んなことがどうでもよくなってきたわ。



いっそのこと。


私が消えた方が早い気がするかも?



何もかも忘れて、どこか遠くへ行きたい気持ちになったのよ。



…そう。



一言で言うなら。



馬鹿のいない世界へ!!



そんな世界に旅立ちたいの。


まあ、そんな世界があれば、だけどね。



果てしなく絶望する私を慰めてくれる美袋先輩。


どこまでも空気の読めない馬鹿と困り果てる御堂先輩。



もう収集がつかないわ。


本気でそう思ったの。



だけど。



御堂先輩はまだ諦めてないみたい。


果敢に馬鹿に話しかけてくれたのよ。



「あの、さ。武藤君?」



呼び掛けられて振り返る馬鹿に御堂先輩の説得が続く。



「きみの気持ちは分かったけどね。だけど悠理には悠理の気持ちもあるわけだから、ここは一度出直した方がお互いの為だと思うんだ。」



必死に説得しようとする先輩なのに、

あの馬鹿は一歩も引かないのよ。



「いえ!この想いは止まりません!!悠理にOKを貰うまでは諦めません!!」



…うあっ。



どこまで馬鹿なのよ、こいつは!



私がこの馬鹿と付き合う!?


そんなの絶対に有り得ないっ!!!!



もしも世界中でこの馬鹿と二人きりになってしまったとしても!!!


その時は喜んで死を選ぶわっ!!!!!



それくらい私はこの馬鹿が『大嫌い』なの!



何故って?


答えは一つ!!



うっとうしいからよ!!



私の理想はもっと優しくて。


配慮という言葉を理解していて。



空気の読める素敵な男性なのよ。



例えて言うなら御堂先輩ね。



だから決してあの馬鹿じゃないわ!!


何度でも言うけど、断じてないの!!



例え世界が崩壊したとしても!


その選択肢だけは有り得ないっ!!



だからどうか神様お願いします!!


この馬鹿を私から遠ざけてくださいっ!!



心から真剣に神様に祈りを捧げてみると。



「はあ…。仕方がないね」



私の願いが通じたのかどうかは知らないけれど。



「だったらはっきり言おうか。」



御堂龍馬という名前の神様に等しい存在の先輩が最後の手段に出てくれたのよ。



ずっと困り果てていた先輩だったけど。


それでも諦めずに馬鹿を説得してくれたわ。



「きみの気持ちは分からなくもないけれど、悠理にそのつもりはないんだよ。それに、悠理は近いうちに次の検定会場に向かうことになる。そうなれば残念だけど、きみと関わることはもうないと思う。」



…そ、そうよ!



この馬鹿と私では、

すでに300以上の差があるんだから!



さっさと逃げきって次へ向かえばこの最弱馬鹿に追いかけ回される心配から解放されるのよっ!!!



何て素敵な解決策!!


今の私には御堂先輩が神様に見えるわ。



「………」



御堂先輩の言葉を聞いて黙り込む馬鹿。


さすがに現実という言葉くらいは理解出来るみたいね。



いまだに一勝も上げられない馬鹿とは違うの。


私も敗北を繰り返してはいるけれど。


少しずつ順位を上げているのよ。



その差は日ごとに広がるし、

確実に馬鹿から遠ざかっていけるでしょうね。



だからこのままうまくいけば。


あるいは私が努力すれば。


この馬鹿からさよなら出来るはずなのよっ!!



そんな小さな希望を胸に抱いたけれど。


馬鹿が再びしゃべりだしてしまうの。



それも。


更にありえない発言をしてしまうのよ。



真剣な表情で御堂先輩に視線を向ける馬鹿。



困っている先輩の意見なんてお構いなしに。


馬鹿が突然、土下座しだしたのよ。



「お願いしますっ!!」



そのあまりの勢いに、

周囲の野次馬達の視線が馬鹿に集まってる。



注目の的となる私達。


1秒でも早く、

この場所から逃げ出したくなったわ。



だけどそんな私の気持ちさえ気にする様子もないまま。



「お願いします!僕を弟子にしてください!!!」



馬鹿が全力で叫び続けたのよ。



「「……はぁっ?」」



私だけじゃなくて、

御堂先輩も驚いたみたい。



突然の展開に御堂先輩もどう答えていいか分からずに戸惑ってる。


だけど馬鹿の暴走は止まらなかったわ。



「お願いします!!」



人目を気にせずに全力で頭を下げ続けてる。


その努力というか根性はダメな意味ですごいと思う。



最弱の馬鹿が学園最強の先輩に弟子入りなんて、

馬鹿が馬鹿を言うにも程があるでしょ!?



いい加減、私達の前から消え去って!!



そんな切実な願いを、

馬鹿は全く気付いてくれなかったのよ。



だからこそ。



あまりの馬鹿っぷりを見てため息を吐く美袋先輩が同情の眼差しで私を見つめてくれてた。



これはあれよね?



有り得ない展開だって美袋先輩も思ってるってことよね?



それなのに。



「武藤君」



御堂先輩は馬鹿に手を差し延べてから、

土下座を続ける馬鹿の体を引き起こしたのよ。



どうするのかな?


何故か哀愁漂う先輩の表情。



どう見ても疲れているように見える表情で、

御堂先輩はため息混じりに馬鹿に話しかけてた。



「分かった。このままだと収拾がつかない気がするから、きみに手を貸そう。弟子入りはともかく一度きみの実力を見せてもらうよ」



馬鹿の返事も聞かずに、

御堂先輩は馬鹿を引きずって受付へと歩きだしたのよ。



その後ろ姿を黙って見送ったんだけど。



これってどうなの?



先輩は馬鹿に手を貸すんですか?



さりげなく思い浮かんだ疑問だけど。



私の疑問を感じとったのか、

美袋先輩がようやく口を開いてくれたわ。



「さてさて。これでやっと解放されたわね」



解放?


言われて私は気付いたの。



ここまでの流れはともかくとして。


馬鹿がいなくなったってことにね。



あの馬鹿が本当に強くなれるかどうかは永遠の謎だけど。


ひとまず私は馬鹿から解放されたのよ。



その一点は間違いないわ。



「まあ、龍馬がどうするつもりかは知らないけど、これで本当に実力を付けたら手に負えなくなるわね」



………。


………。


………。



えっ!?



…って、うわっ!!



一瞬で鳥肌が立っちゃったんだけど。


全く考えてなかったわ。



というか、有り得ないって思い込んでたのよ。



…だけど。



確かにその意見は無視出来ないわよね?



あの馬鹿が私に追いつく可能性がないとは言い切れないのよ。



ど、ど、ど、どうしよう?



今ならまだ差があるわ。



だけどこの差を守りきって逃げ切る為には、

私も強くならないといけないのよ。



万が一にもあの馬鹿に負けるようなことがあれば…


私はもう一生立ち直れないかもしれない。



そんな恐怖が込み上げてくるの。



嫌よっ!!


そんなの絶対に嫌っ!!



あの馬鹿にだけは絶対に負けたくないわ!


だから絶対に守りきってみせる!



そして今よりも強くなって、

馬鹿から逃げ切ってみせるのよ!!



「追いつかれる前に逃げ切ってみせますっ!!」



拳を握り締めて誓ったわ。


そして涙を拭ってから美袋先輩の瞳をまっすぐに見つめたの。



「美袋先輩、お願いします!私に協力してくださいっ!!」



全力でお願いしてみると。



「私のことは翔子でいいわよ。」



先輩は静かに立ち上がってから私に手を差し延べてくれたの。



「まあ、どこまで強くなれるかはあなた次第だけど、やる気があるなら手を貸してあげるわ。ただし、私は龍馬と違って優しくないわよ?」



優しくないって言いながらも微笑んでくれた先輩の笑顔は、

十分過ぎるくらいの優しさが感じられたわ。



何て言うのかな?


頼れるお姉さんっていう感じ?



だから私も精一杯の笑顔を浮かべてから、

先輩の手をとったの。



「お願いします!」



気合いを入れてから立ち上がって翔子先輩と強く握手を交わす。


そして気持ちを引き締めた私は次の戦いへと挑むことにしたのよ。



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