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THE WORLD  作者: SEASONS
4月2日
29/186

10人目

翔子との会話を終えた後。


受付で登録を済ませてから、

今までと同じように試合場に立つことにした。



今回の試合相手は『武野たけのすみれ』


生徒番号は4986番だ。


それほど番号に差はないのだが、

4000番台は生徒全体の3分の1にあたるからな。


十分に上位と言える範囲だろう。



…今回も調査が優先だ。



今までと同様に会場内で一番強い生徒を選んでも良かったのだが、

わざわざ姿を見せた翔子の忠告を受け入れて

少しだけ様子を見ることにした。


その結果として選んだのがすみれだが、

今回のすみれとの試合が丁度10人目の対戦相手になる。



気がつけば、もう10人と戦ったことになるらしい。



始めてしまえばあっという間だった気もするが、

だからと言って圧勝と言える試合ばかりだったわけではない。



…まだまだ油断はできないな。



本番はここからだ。


これまでは下位争いだったが、

これからは上位争いになる。



今はまだ5000の壁を越える程度だが、

1000番の壁を超えてからさらに100番の壁を越えるまでにどれほどの試合が必要になるかわからない。



それでも全ての壁を乗り越えなければ翔子にたどり着くことはできないだろう。


もちろんその上にいるであろう1位の生徒にも届かないままだ。



今の俺がどこまで勝ち上がれるのか?


その限界を知るための第一歩といえる試合になる。



…今は目の前の試合に集中しよう。



すでに対戦相手も試合場に来ているのだが、

すみれは俺に視線を向けながら何かを考え込んでいるようで、

ぶつぶつと独り言を続けていた。



「5011番かぁ。ここで5千をきるつもりで挑戦してきたのね~。でも、昨日入学式があったばかりなのに、こんなところにもう新入生がいるなんて、一体どうやって勝ち上がってきたのかしら?」



俺が新入生であることには気づいている様子だな。


だからこそ、目の前の現実が受け入れられないらしい。



「運か実力か…。まあ、戦えば分かるわね。」



独り言を続けるすみれは俺に話しかける事もないまま試合場に立った。


そんなすみれの様子は気にせずに試合場で向き合うと、

審判員が足早に中央へと歩みを進めてくる。



「それでは準備は良いですか?」



確認を取る審判員だが、

ここへ来て試合を止める理由はない。



「よろしいようですね。それでは、試合開始!!」



開始の合図を出して即座に後退する審判員が身を退いた直後に二人揃って詠唱を開始したのだが、

今回もこちらの魔術が数秒早く完成した。



「ホワイト・アウト」



試合を繰り返す毎に練度が増していることもあるのだろう。


詠唱から発動までに10秒とかからなかった。



とはいえ。


対戦相手のすみれもかなりの実力者のようだな。


結界の発動とほぼ同時に魔術を発動させている。



「ヘイスト!!」



魔術が発動して、

すみれ自身を緑色の光が包み込む。



「加速魔術の性能を見せてあげるわ。」



光に包まれたすみれの体は重力から解放されたかのようにすばやく動き出した。



…強化魔術か。



身体強化の魔術もあるらしい。


ついさっき翔子からも聞いていたが、

魔術には様々な使い方があるようだ。



…見た目で言えば、速度を向上させる魔術のようだな。



何らかの特別な訓練をして体術を身に付けているようには見えないが、

瞬発力と走力が常人よりも増している為に撹乱としての効果は高いかもしれない。



おそらく対戦相手の死角に回り込んで、

魔術を打ち込むのがすみれの戦い方なのだろう。



こちらが相手の動きを予想している間にも、

すみれは高速で走り抜けて更なる魔術を詠唱している。



…なかなかの速さだ。



詠唱そのものの速度は変わらないが、

死角に回り込む走力は馬鹿にできない。



便利な魔術だと思える。


覚える価値はあるだろう。



そんなことを考えている間にも、

すみれの魔術が完成して発動したようだ。



「サンダー・レイン!!」



雷撃を帯びた小さな水飛沫が背後から雨のごとく降り注ぐ。



威力も申し分ない。


結界さえなければ驚異的な魔術だったはずだ。



だが霧の結界があるために、

すみれの魔術は届かない。



降り注ぐ雷撃の雨は霧の結界と衝突しあってすぐに姿を消してしまうからだ。



…やはり結界に影響はないようだな。



もちろん俺に対しても効果はない。


当然のように霧の結界に変化はなかった。



「くっ!アンチ・フィールドなの!?やっかいね」



再び詠唱を始めて別の魔術を発動させる。



「プレス・ウインド!!」



すみれの放つ魔術によって周囲の重力が急激に増していく。


その影響によって試合場が重圧で沈み込む…が、そこまでだ。


霧の結界によって魔術は消失してしまい、

試合場を沈ませた以上の変化は起きないまま、

あっけなく消滅してしまった。



「…なら、これでどう!?バウンド・アッシュ!!」



先程の魔術によって沈み込んだ地面が新たな魔術によって再び動き出す。


沈んだはずの地面が一瞬にして盛り上がり、

剣山のごとく床が隆起した…が、やはりそれだけだ。



「く…っ。」



魔術が消失するのを確認したすみれは小さなうめき声をあげている。


隆起した大地が数秒と経たずして崩れ落ちてしまったからだ。


もちろん結界の内部に被害はない。



…いや。



それ以前に結界の内部において、

すみれの魔術は発動すらしていなかった。


大地が変化していたのは結界の外側だけだったからだ。



「ちょっとムカついてきたわっ!メガ・ウイン!!」



過去最大級の暴風。


これまでに見てきたどんな強風や突風よりも

遥かに強力な暴風が霧に結界に襲い掛かる。



だが、それでも効果はない。



「そんな…!?これでも通じないなんて…っ」



暴風を受けてもなお微動だにしない霧の結界をにらみ付けるすみれは最後の手段に出ようとしていた。



「こうなったら直接魔術を叩き込んでみせるわ!!」



ヘイストの効果によって速度には自信があるのだろう。


一気に駆け出して霧の結界の内部に飛び込んで来た。



その直後に、事態が激変してしまう。



「…そ、んな、まさか…っ!?」



最後の選択が最大の失策だと悟ったようだな。



キラキラときらめく霧の結界。


すみれの体を取り巻く霧から青い光が放たれていく。



その青い光を見つめるすみれは、

苦悶の表情を浮かべながら動きを止めてしまった。



「この結界、ただのアンチ・フィールドじゃなかったのね…。」



…そう。



霧はただ魔術を吸収するだけではない。


すみれを覆うヘイストを『分解』すると同時に、

すみれ『自身』からも強制的に魔力を奪い取っているからだ。



「…マジック・ドレイン・フィールド。それが、この結界の正体、だったのね…。」



強制的に全ての魔力を奪い取られたすみれは、

俺にたどり着けずに崩れ落ちた。



「………。」



全ての魔力を奪われたのだろう。


動く気配はない。


完全に意識を失っているようだ。



…いや。



これは魔力欠乏症と言うべきか。


単純な気絶ではなく、

魔力の枯渇による昏倒だ。


こうなると当分の間は目を覚さないだろう。



「これで実験は完成だな。」



魔力の吸収という理論が実証されたことで、

霧の結界の真の力が確認できた。



…これでまた一歩、上位に近づける。



試合を監視している翔子にも霧の結界の全貌を知られてしまったかもしれないが、

大きな問題ではないだろう。


知られたとしても対策できるかどうかは別問題だからな。


そう判断してすみれに背中を向けると、

審判員が即座に試合終了を宣言した。



「勝者、天城総魔!!」



これで10人だ。


10人の生徒を撃破して5000台を無事に乗り越えた。


そして新たに4986番の生徒番号を手に入れたことで、

今日の戦いを終えることにした。


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