本来の性格
《サイド:御堂龍馬》
…ふう。
時間が過ぎるのが早いね。
気がつけば午前11時になっていた。
会場に戻ってきてから約2時間。
何度も試合を繰り返してきた僕達は、
一旦受付の前で集まることになった。
「さて、と」
現時点での試合結果だけど。
僕は25戦25勝。
翔子は21戦20勝。
悠理は13戦5勝になる。
翔子は深海さんとの試合以外は全勝しているし。
悠理は武藤慎吾君との試合も含めて5勝になる。
僕と翔子の手当を受けながらとはいえ。
これだけ連戦しているんだから、
少なからず成長へと繋がっているんじゃないかな?
何かきっかけさえあれば悠理も一気に成績を伸ばせると思う。
まあ、今すぐにとはいかないだろうけどね。
しばらくは様子を見るしかないと思ってる。
そんなことを考えながらキリの良いところで少し休憩しようとしていた僕達なんだけど。
「ん?」
会場の入口の方からドタバタと足音を立てながら近づいて来る生徒の姿が視界に入ったことで、
3人揃って振り返ることになったんだ。
「あれって、確か…?」
「さっきも見たわよね?」
「うわぁぁぁぁ…っ!?」
3人揃ってすぐに気づいたよ。
見覚えのある生徒だからね。
一度しか会ったことはないけれど。
なかなか忘れられる人物じゃないと思う。
「はぁ…。一日に2回も見たくないんだけど…?」
激しくため息を吐いた悠理がもっとも嫌っている少年。
彼の名前は武藤慎吾だ。
武藤君は勢いよく僕達の所まで駆け寄ってきた。
「悠理ぃぃぃぃぃ!!!!!!」
「うあ~最悪ぅ…。」
遠慮無く近付いてくる武藤君を見て頭を抱える悠理は、
泣き出しそうな表情で僕の後ろに回り込んできた。
そして助けを求めるような視線を向けてくる。
「先輩ぃぃ…。」
うーん。
どうしようかな?
いっそのこと次の検定会場へ移動した方が話が早いかもしれないね。
だけど。
僕と翔子はともかくとして。
悠理はまだ次を目指せるほど強くはないと思う。
この会場で見ても平均以下だからね。
次の検定試験会場はまだまだ早いはずだ。
…はぁ。
何だかややこしくなってきたね。
…と言うか。
さすがに僕も疲れてきたよ
泣き出しそうな悠理のため息が僕にも移ったかのような、
そんな心境になってしまうけれど。
ここで悠理を見捨てるわけにはいかないからね。
一応、年長者として武藤君に話し掛けることにしよう。
「やあ、武藤君。随分と元気になったみたいだね。怪我の調子はどうだい?」
当たり障りのない話題から尋ねてみると。
「あ、ありがとうございます。もう大丈夫です。」
武藤君は僕の予想に反して、
礼儀正しく頭を下げてから挨拶をしてくれたんだ。
悠理に対する態度とは全然違うね。
ものすごく礼儀正しくて愛想もいいんだ。
もしかして。
これが本来の武藤君の性格なんだろうか?
今日初めて出会った少年だから、
まだよくわからない部分はあるけれど。
思ったより悪い子ではなさそうな気がする。
「そうか、無事でよかったね。」
「はい!すみません。ご心配をおかけしました。」
深々と一礼する武藤君の態度はすごく好感が持てる。
ずっとこうなら何も問題ないんだけど。
悠理に対する態度を見ているせいで、
彼をどう評価すればいいのがかわからない。
だからもう少しだけ話してみることにしたんだ。
「ひとまず元気そうでなによりだよ。」
無難な会話を心がけつつ。
武藤君の対応を眺めてみると。
「ありがとうございます。」
武藤君は照れくさそうにはにかみながら、
もう一度深々と一礼してくれたんだ。
…うーん。
やっぱりよくわからない。
どっちが本当の武藤君なんだろうか?
目の前にいる武藤君は礼儀正しい少年だ。
だけど悠理を見つめる瞳は暴走状態の変質者だ。
どうしてこうも態度が変わるんだろうか?
僕に対しての実害はないけれど。
悠理にしてみれば迷惑この上ない存在なのは間違いないと思う。
この状況をどう収めればいいんだろうか?
とりあえず力ずくで排除…というのは無理だと思う。
さすがにそれは武藤君が可哀想だ。
実害がないからね。
それに二人の関係を何も知らない僕があれこれ口出しするのはどうかと思う。
とは言え。
悠理が嫌がっているのは事実だ。
そして助けを求める人がいれば手を貸すのが風紀委員としての僕の役目でもある。
ここはひとまず。
武藤君にお引き取り願うことにしようかな?
「悪いけど武藤君。僕達は色々と予定が合って忙しいんだ。特に用がなければそっとしておいてくれないかな?」
控えめにお願いしてみたんだけど。
武藤君は思い悩むような表情を浮かべてから、
僕に対してまっすぐに視線を向けてきた。
「用ならあります!!僕も真剣なんです!お願いです!ご迷惑でなければ僕もご一緒させてください!!」
僕のお願いをあっさりと聞き流した武藤君は何故か同行の許可を求めてきた。
礼儀正しいとは思うけれど。
何を言っても引き下がらない雰囲気を感じてしまうね。
こういう時はどうすればいいんだろうか?
どう説得してもダメな気がする。
…うーん。
この状況からの解決の糸口が見つからない。
やっぱり話がややこしくなってきた気がしてきた。
だんだん面倒になってきたなと思いながらも、
さりげなく視線を悠理に向けてみると。
「………。」
悠理は今にも泣き出しそうな表情で僕を見上げていた。
…困ったね。
これはどうあっても僕が解決しなければいけないようだ。
…はあ。
武藤君をなんとかしないとダメらしい。
だけどどうすればいいのかが分からない。
交渉や説得なら翔子の方が得意だと思うんだけど。
肝心の翔子が動いてくれそうには見えなかった。
きっと僕が頼んでも、
面倒くさいの一言で断られてしまう気がする。
だとすれば出来ることは限られてくる。
まずは彼の話を聞いてあげるべきかな?
力ずくで彼を放り出すことはたやすいけれど、
真面目な対応をしてくれる彼に対して力で解決というのは気が引けるからね。
せめて話しくらいは聞いてあげようと思うんだ。
それから判断しても遅くはないはず。
そう考えたことで、
武藤君に話しかることにした。




