模倣
「予定よりも早いが実験は終了だ。今の実験で、きみの仮説は実証されたと言っても良い。」
「やはり俺とは違ったのか?」
「ああ」
確認するように尋ねてきた天城君に頷いてから答える。
「観測、分析、そして結論。俺達もきみと同じ仮説にたどり着いた。」
「そうか…。」
何故か思い悩むような表情を見せる天城君は真剣に何かを考え込むような仕種を見せている。
…ふむ。
まだ何かあるのだろうか?
疑問を感じながらも、
ひとまず問題の深海君に視線を向けてみることにした。
「大丈夫か?」
先程よりも落ち着かない様子の深海君だが、
不安というよりも驚きの方が大きいようだな。
「あ、あの、私、何が…?」
未だに自分の力を理解出来ていないようだが、
それはこれからゆっくり話をすれば良い。
そう判断して実験終了を告げることにした。
「実験は終了した。もう気を抜いていいぞ。」
「…え?あ、はい…。」
理解が追いついていない感じはあるが、
今はそっとしておいたほうがいいだろう。
無理に説明しても余計に混乱するだけだろうからな。
それよりも今は天城君だ。
一体、何を考え込んでいるのだろうか?
再び天城君に視線を向けてみる。
………。
どうも彼の様子がおかしいな。
表情に変化は見えないが、
何か真剣に考えているように思えるからだ。
何か問題でもあったのだろうか?
一瞬そう思ったが。
…どうだろうか?
実験そのものに問題はなかったはずだ。
…いや。
待てよ?
何か大切なことを見落としているんじゃないか?
そんな気がしてきた。
なんだ?
何か大事なことを見落としている。
そう。
それは無視できない何かだ。
そこまで考えてからようやく俺も疑問点に気づいた。
「…ちょっと待て。この実験結果はおかしくないか?優奈君の能力が吸収であるとすれば、きみの力は何なんだ!?」
俺の言葉を聞いて、
深海君は心配そうな表情で天城君の顔を覗き込んでいる。
そして彼は、天城君は俺の目を見据えながらようやく口を開いた。
「俺もそれを考えていた。初めて優奈の力を目にした時から自分の力に疑問を感じていたからな。優奈の力が吸収という能力であり、本当の意味での特性であるとしたら、俺の力はその模倣でしかない。」
「…だとすれば答えは出たのか?」
尋ねたことで、彼は小さく頷く。
「それさえもまだ仮説でしかないが、一つの可能性を考えている。」
「聞かせてくれるか?」
彼の言葉を待つ。
天城君は言葉を選ぶように、
ゆっくりと話し出した。
「俺は今まで自分の能力として吸収を使えると思っていた。だがそれが間違いであるとして、他に考えられることは何か?それを考えてみた。」
彼の言葉に耳を傾ける。
一字一句聞き漏らさないように、
聴覚に意識を集中させていく。
「魔術の分解。魔力の吸収。そして魔力の供給。これらの事象を引き起こし、それにもっとも相応しい『何か』。それを解決出来る便利な言葉が一つだけある。」
…まさか!?
彼の話を聞いて、
俺もようやく答えにたどり着いた。
「…なるほどな。そういうことか。」
おそらく天城君と考えは同じだろう。
それしか思い付かないからだ。
天城君が口にだす前に、その言葉を口にした。
「『魔力操作』だな!」
「ああ、そうだ。魔力を操る力。それが俺の力だと思っている。」
…魔力を操る力か。
それこそ研究者に真っ向から対立する理論だ。
もしも彼が本当にその力を持っているとすれば?
そしてもしも本当にその力が存在するとすれば?
それはありとあらゆる魔術の定義と理論に反する力と言えるだろう。
その理由は考えるまでもない。
【定義】と【理論】によって魔術は魔術として存在しているからだ。
だが彼は全ての定義と理論を超越して、
魔術の存在そのものに干渉出来る力を持っているということになる。
そういうことになってしまうのだ。
「それを実証出来るか?」
「今は難しいな。」
彼は素直に答えた。
だが、出来ないとは口にしなかった。
「吸収という力が欠落している現状で実証することは難しい。だが、操作そのものは実証不可能ではないはずだ。」
「ならば見せてもらいたい。存在そのものに干渉する力を…。」
「どうするつもりだ?」
「そうだな…。」
全力で頭を振り絞ってみる。
力の一部が欠落しているとは言え、
特性そのものが崩壊したわけではないからな。
ならば、その片鱗程度は発動出来るはずだ。
「放たれる魔術に対して、別の魔術に変換する。という実験はどうだ?」
「面白い実験だな。」
彼は笑顔を浮かべながら新たな実験への協力を申し出てくれた。
「やらせてもらおう。」
「よし。ならこの実験は俺が直接参加させてもらうぞ。」
直接、自分の目で確認したいからな。
まずは西園寺君に呼び掛けることにした。
「西園寺君!話がある!」
俺の呼び掛けに即座に反応して動き出す西園寺君は、
ものの数秒で俺の側へと駆け付けてくれる。
「今度はなんですか?」
不満げな表情だが、怒っているわけではないだろう。
実験が中断している状況だからな。
続行か終了かの判断を待っていたのかもしれない。
「悪いが新たな実験に移る。西園寺君。きみには申し訳ないが、実験の指揮をとってもらいたい。」
「…はぁ?」
戸惑う…というよりは驚きに近い表情を見せる西園寺君だが。
俺は簡潔に説明してから西園寺君に指示を出した。
「次の実験は俺が直接行う。きみ達は実験の記録さえとってくれればそれでいい。」
「それは構いませんが、何をするつもりですか?」
「そうだな。それは見てからのお楽しみとでも思っておけばいい。」
説明を後回しにして、
西園寺君に戻るように指示を出す。
「しっかりと見届けて欲しい。」
「はぁ…。」
渋々戻っていく西園寺君。
この実験は説明よりも実際にその目で確認した方が早いからな。
今の天城君だからこそ出来る実験。
その結果を俺は一刻も早くこの目で確認したくて、
焦る気持ちで準備が整うのを待つことにした。




