約束
《サイド:深海優奈》
…うわぁ~。
凄いですね。
所長室での話し合いのあとで、
実験室Sと書かれた部屋に案内されました。
ここはとても大きな部屋です。
とても地下にあるとは思えないほどしっかりとした場所でもあります。
本当にここは地下なのでしょうか?
…だとしたら。
どうやってこれほど大きな部屋を作り上げたのでしょうか?
研究所に来てから疑問が尽きることはありませんが。
みなさんのお話からすると、
ここで私の力を調べる為の実験が行われるようでした。
…広〜い。
改めて見てみると、
とても大きな実験室です。
既に集まっていた30人以上の職員さん達が慌ただしく駆け回っています。
この方々も実験の準備をしているのでしょうか?
すぐ側にいて話を聞いていたのに、
ほとんど何も理解出来なかった私としては、
正直今でも何をすれば良いのかが分かっていません。
機材の準備を確認する所長さんと西園寺さんが室内を歩き回っていて。
私と総魔さんは実験室の入口付近で待たされています。
こうして二人きりで立っていると、
それだけでドキドキと緊張してしまいました。
今日初めて会ったばかりで、
まだ全然話もしていないのに、
何故か総魔さんのことが気になってしまうからです。
どうしてなのでしょうか?
よくわかりません。
とても不思議な感覚だと思います。
この気持ちを、皆さんは何と呼ぶのでしょうか?
戸惑ってしまいます。
自分で自分が分からなくなるような、
そんな不思議な感覚だったからです。
これは、憧れですか?
それとも、尊敬ですか?
あるいは、別の何かなのでしょうか?
今はまだ分かりませんが。
いつか分かる日が来るのでしょうか?
…と。
自分でも分からない感情を考えている間に、
実験の準備が整ったようでした。
「待たせてごめんなさいね。」
謝りながら歩み寄ってきたのは西園寺さんです。
何度見ても羨ましくなるくらい素敵な女性だと思います。
入学式の時に見た理事長さんも凄く綺麗な人だと思いましたが、
西園寺さんも同じくらい素敵な人だと思います。
出来る女性という感じが凄くするんです。
堂々とした態度がとても羨ましく思えます。
「どう?心の準備はいいかしら?」
訊ねられてしまったのですが。
正直な気持ちを言うと。
準備も何も私自身がどうすればいいのかさえ分からない状況でした。
「えっと…その…。」
何も答えられない私の戸惑いを察してくれたのでしょうか。
「ふふっ。」
西園寺さんはとても優しい笑顔で微笑んでくれました。
「緊張しなくてもいいのよ。それほど大規模な実験ではないと思うから。あなたは気楽に付き合ってくれればいいわ。」
「…は、はい。」
西園寺さんに声をかけていただいたことで、
少しだけ緊張感から抜け出せた気がします。
「頑張ります…。」
「よろしくね。」
小さな声で答えた私に、
西園寺さんは優しく手を差し延べてくれました。
「それじゃあ、こちらに来てもらえるかしら?」
「はい。」
西園寺さんに手を引かれるまま大人しく付いていきます。
何気なく振り返ってみると、
総魔さんも私のあとに付いてきてくれていました。
「総魔さんも参加するですか?」
「ああ、一応な。」
「一応…ですか?」
一体、これから何が始まるのでしょうか?
不安だけがまだ消えずに残っています。
ですが。
「心配しなくても大丈夫よ。」
西園寺さんと繋ぐ手の温もりが、
私の心を落ち着けてくれました。
「この辺りでいいかしら?」
実験の為の測定位置を考慮しながら、
西園寺さんは私を実験の定位置に立たせました。
「ここにいてくれるだけでいいわ。あとは待っているだけで実験は終わるはずよ。」
「は…はい…っ。」
ここにいるだけでいいと言い残した西園寺さんは、
所長さんの待つ場所まで戻って行きました。
実験場に残されてしまったのです。
ですが、一人きりではありません。
すぐ側には総魔さんがいてくれるからです。
広い実験室の真ん中で二人きりです。
これからどういう実験が始まるのでしょうか?
「あ、あの…?」
「どうした?」
話しかけてみると、
総魔さんは静かに私と向き合ってくれました。
「その…私はどうすればいいですか?」
「これから優奈に向けて幾つかの魔術が放たれる。」
…え?
…えっ!?
…ええ〜〜〜〜〜〜!!
そんな話は聞いてないです!
「こ、攻撃されるということですか…っ!?」
「そうだな。その魔術に対してどこまで優奈の能力が対応出来るのかを調べるのが実験の目的になる。」
…ええ〜〜〜〜!?
不安を感じて尋ねた私に簡単に説明してくれたのですが。
実験内容を聞いたことで、
一気に不安が増してしまいました。
「そ、それって、かなり危険な気がするんですけど…?」
「不安か?」
「…ぁ、はい。かなり…。」
それが正直な気持ちです。
けれど総魔さんはほんの少しだけ微笑んでくれました。
「心配することはない。すでに結果を確信しているからな。どんな魔術を使ったところで、優奈には影響しないと思っている。」
「ど、どうしてですか…?」
「単なる勘だ。だが自信はある。」
勘だと答えた総魔さん。
そう言われてしまうと、
自信があると言われても不安は消えません。
「怯える必要はない。ここに俺がいるのはお前を守る為だ。万が一実験が失敗したとしても、俺が対処するつもりでいる。だから心配する必要はない。」
………。
どうなのでしょうか?
信じてもいいのでしょうか?
頂点に上り詰めた総魔さんがそう言うのなら、
私は本当に安全なのかも知れません。
ですが。
安全かも知れないと思う気持ちと、
それでも怖いものは怖いと思う気持ちが重なり合ってしまいます。
あまりの不安に倒れてしまうんじゃないかな?って自分でも思うくらいです。
それくらい緊張していました。
だからでしょうか?
そんな私を見ていた総魔さんが一言だけ約束してくれたんです。
「必ず守る。約束する。」
真剣な総魔さんの瞳。
その瞳を見つめるだけで、
何故か私の中にあった不安が消えていきました。
…安心しても良いのかな?
そんなふうに思えるくらい。
総魔さんは優しい目で私を見てくれていたんです。
「心を落ち着けて自分の力を信じろ。それが自らの力を知るということだ。」
「は、はいっ。」
総魔さんの言葉にしっかりと頷いたことで、
ようやく心の準備が整いました。




