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THE WORLD  作者: SEASONS
4月7日
268/1390

全く同じ

優奈ちゃんにとっては初めての試合。


初戦ということでいくつかの注意事項が審判員から説明されていたわ。



私にとっては聞くまでもない話なんだけどね。



優奈ちゃんは真剣な表情で聞き入ってる。


そんな初心者感丸出しの様子を眺めながら何度目かのため息を吐いてしまったわ。



…ホントに大丈夫なのかな?



すっごく不安なんだけどね。


説明を聞き終えた優奈ちゃんは何度も深呼吸をしてから私と向き合ってくれたわ。



「が、頑張ります…っ。」



………。



ガッチガチに固まってるわね。


どう考えてもまともな試合になる気がしないわ。



こうなるとね。


さすがにね。



私の目標は勝つことよりも優しさが最優先されてしまうわ。



…絶対に泣かさないように。



限界まで手加減を心がけるしかないのよ。



「準備はよろしいですか?」


「…は、はい…っ。」


「いつでもどうぞ。」



声を震わせる優奈ちゃんが可哀想すぎるんだけどね。


そうは思うんだけどね。


返事をした以上、もう止めることはできないのよ。



「それでは、試合、始めっ!!」



審判員の合図と共に、

即座に魔術の詠唱を始めてみる。


対する優奈ちゃんはあたふたと慌てふためきながら魔術の詠唱を開始していたわ。



…だけど。



明らかに遅すぎるわね。



詠唱と言うよりも暗唱って言うのかな?



ただ単にね。


覚えてきた詠唱を。


たどたどしく読み上げてる感じなのよ。



もうね。


緊張感がどうのこうのっていう問題じゃなくて、

どうして詠唱も出来ないのに試合に来ちゃったの?っていう感じなの。



まあ、それでも一応、ね。


緊張と不安もあるとは思うんだけどね。



明らかに混乱状態の優奈ちゃんの詠唱は一言で言うと鈍足級?



聞いてるこっちが頭を抱えたくなるくらいにとんでもなく遅くて、

まだまだ試合で戦える実力じゃないのよ。



だからね。


手早く終わらせることにしたの。



…詠唱が終わるまで待ってられないわ!



「ごめんね。フレア・アローっ!!」



ちょっぴり申し訳ない気持ちで放つ炎の矢。


数十本の炎の矢が優奈ちゃんの頭上から降り注ぐ。



「…あ…っ! ?」



優奈ちゃんの表情が恐怖に染まっていく。


ただでさえ遅かった詠唱も途切れてしまったし。


感じ逃げる余裕もなさそうに見える。



動きを止めてしまった優奈ちゃんに私の魔術を回避するすべはないでしょうね。



だから当然のように複数の炎が優奈ちゃんを飲み込んだのよ。



「…ぅ、ぁ…っ!?」



次々と降り注ぐ炎の矢。


ほとんどの炎が直撃したはず。


衝撃を受けて後方に吹き飛ばされた優奈ちゃんは試合場に倒れ込んで苦しそうに何度も咳込んでいたわ。



…うわ~。



これでもまだやりすぎだったのかな?



手加減しきれなかったことで戸惑ってしまったんだけど。



「…え、っ!?」



…は?


…嘘でしょ!?



ゆっくりと体を起こした優奈ちゃんの姿を見た瞬間に、

確かな『恐怖』を感じてしまったのよ。



ふらつく足取りで立ち上がる優奈ちゃんの様子がおかしいの。



吹き飛ばされた影響で

軽い擦り傷は負ってるみたいだけど。


何故か炎による影響が一切感じられなかったからよ。



「…何で!?」



炎を浴びたはずなのに。


それなのに。



火傷一つないのよ!?



…どういうことなの?



戸惑う私に答える余裕すらない優奈ちゃんは、

精一杯の力を込めて必死に魔術の詠唱を再開してる。



…けれど。



やっぱりその速度は呆れるほど遅いわ。


とても魔術の相殺なんて出来るはずがないのよ。



だから間違いなく断言出来る。



優奈ちゃんは私の魔術の直撃を受けたはずなのよ!



それなのに炎の影響がないの。



…どういうこと?



さっぱり意味が分からないわ。



何が起きたのか分からないけれど。


私の放った炎が何の影響も与えなかったのは間違いないでしょうね。



…だったら、もう一度!!!



確認の為に次の魔術を発動させてみる。



「ライトニング!!」



優奈ちゃんの魔術が完成する前に私の魔術が襲い掛かる。



私の右手が光を放ち。


放たれた光が一筋の雷撃となって優奈ちゃんを襲ったわ。



「ぃ、や…ぁっ…!?」



怯える優奈ちゃんの体に雷撃が直撃したのよ。


一瞬の放電。


私の放った魔術は確実に優奈ちゃんに直撃したはずなの。



今度こそ間違いないわ!



自信を持って断言できるのよ。



だけど。



雷撃を受けた優奈ちゃんは何故か倒れなかったの。



それどころか。



今回は衝撃がそれほどでもなかったのか、

吹き飛ぶことすらなかったわ。



だけどね?



だからこそ。


再び驚愕してしまったのよ。



「う、うそ、でしょ…っ?」



恐怖に怯える優奈ちゃんからは全く想像も出来ない現象なのよ。


私の放った魔術が全く影響していなかったの。



…どうしてなのよっ!?



驚き戸惑う私が動きを止めている間に、

優奈ちゃんの魔術が発動したわ。



「ファイアー!!」



単純な炎の魔術ね。


初心者でも扱える一番簡単な魔術なのよ。


とても小さな炎が私に迫り来る。


だけど、この程度なら相殺する必要もないわ。



「邪魔よっ!!」



理解できない現象に苛立ちながら、

向かい来る炎を叩き落としてから新たな魔術を発動させる。



「ダンシング・フレア!!!!」



放ったのは炎系最強の魔術。


踊り狂う膨大な炎が優奈ちゃんの小さな体を飲み込んでいく。



「…ぃ、いやぁ~~~~っ!!!」



…あっ!!



うわっ!


しまった!?



やり過ぎたわっ!!



優奈ちゃんの叫び声が聞こえた瞬間に理性を取り戻したんだけど。


すでに手遅れだったのよ。


発動した魔術は止められないわ。



後悔を感じてすぐに優奈ちゃんに駆け寄ろうとしたんだけど…ね。



「…そんなっ!?」



僅か数歩だけ踏み出してから動きを止めてしまったわ。



自然と唇を噛み締めてしまう。



彼女が…優奈ちゃんが、

無傷のまま炎の中で立っているからよ。



「…ありえないっ!」



戸惑う私と同じように、

近くにいる審判員も驚愕の表情を浮かべていたわ。



…嘘でしょ?



こんな…こんなことってありえるの!?



恐怖で震える体。


そんなはずはないと思いながらも、

私の体は『その事実』に気づいて震え出してる。



…認めたくない!!



そう思う心に反して、

私の体は『恐怖』を覚えているのよ。



「こんなのありえないわっ!!」



必死に思い込もうとしても、

体が言うことをきかないの。



体が…心が…魂が…。



その全てが事実を訴えているから。



ゆっくりと歩みを進めてくる優奈ちゃん。



恐怖に怯える優奈ちゃんの表情からは想像も出来ない事実を私は知ってる。



彼女の力の『正体』を。


私は知っているのよ。



…ありえない。



ガクガクと震える体。



優奈ちゃんが感じている恐怖以上の絶望が私の心を包み込んでいく。



…う、嘘でしょ?



まさか。


まさか!


まさかっ!?



…他にもいたなんて!!



総魔の他にも…いるなんて。



絶望を感じてしまって、

怯えながら総魔に視線を向けてみると。



「………。」



総魔は真剣な眼差しで試合場を見つめていたわ。



だけど。


総魔の目は私を見てなかったのよ。



視線の先にいるのは優奈ちゃん。



予想もしていなかった事実に驚いているのは、

もしかしたら総魔も同じなのかも知れないわ。



そう思って優奈ちゃんに視線を戻してみると。


すでに優奈ちゃんは魔術を完成させていたのよ。



「じ、冗談…でしょ…っ!?」



完成した魔術は優奈ちゃんの実力で扱えるようなものじゃなかったわ。



「えっと…?ダンシング…フレア…?」



恐る恐る魔術を発動させる優奈ちゃんの両手から、

私が放った魔術と『全く同じ』荒れ狂う炎が放たれたのよ。



炎系最強の魔術が私に襲い掛かってきたの。



「う、ぁ、しまっ…た…!?」



総魔に振り返って動きを止めていたせいで、

回避が間に合わなかった。



今から魔術の詠唱をしても間に合うわけがない。



その事実に気づいた私は。


再挑戦の第1試合目において、

ぶざまな敗北をさらすことになったのよ。



「ああああああ~~~~~っ!!!」



炎にのまれて倒れてしまったの。


そんな私を優奈ちゃんは戸惑ったままの表情で不安そうに見つめてる。



…くっ。


…うぅ。



「…総、魔…ぁ。」


「………。」



助けを求めるように視線を向けた私を、

総魔はただただじっと見つめてた。


感情の読めない瞳で私を見ていたのよ。



「…ごめんね…総魔。」



…私、負けちゃた。



急速に失われる意識。


全然届かない距離にいる総魔に手を伸ばしたまま。


そのまま力尽きてしまったのよ。


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