ミルクレープ
《サイド:常盤沙織》
家族と一緒に夕食を終えました。
今日も平穏で、とても安らかな一時を過ごせたと思います。
やっぱり翔子がいてくれると、
それだけで賑やかな時間を過ごせますね。
両親が笑ってくれて。
成美が元気でいてくれて。
私も笑顔でいられるのです。
この幸せな時間がいつまでも続いて欲しいと心から思います。
「少し休みましょうか。」
夕食のあとで、翔子と成美を連れて自室に戻ることにしました。
そして小さなテーブルを囲んで3人で座ります。
テーブルの中央には紅茶のセットを用意しているのですが、
私達の前にはそれぞれ違うケーキがあります。
成美の前にあるのは苺たっぷりのミルフィーユです。
翔子はいつもと同じミルクレープですね。
私は今日はチーズケーキを選びました。
両親がケーキ屋を営んでいるので、
余ったケーキがあれば私達の為に毎日持って帰ってきてくれるのです。
在庫は全て処分するしかありませんので、
捨てるくらいならということで頂いています。
そのせい…という表現が正しいかどうかは分かりませんが。
翔子が家に来た当初は「勿体ないから」と言って、
「食べ放題〜♪」と喜んで幾つも食べ続けていた時期がありましたね。
その食べっぷりに両親も満足だったようで、
両手一杯にケーキが用意されたことがあったくらいです。
ただ、それも数日の話ですぐに終わりました。
「…体重が増えるから。」と言って食べる量が減ったのです。
実際に私の目から見ても少しふっくらしたように見えるほどだったので、
数字と言う結果は翔子を絶望させるに相応しい何かを表示していたのではないでしょうか?
もちろん今では体重を落として本来の数字に戻しているようですが、
再び体重を増加させることを恐れて自粛を続けています。
ただ。
翔子が自粛したことによって両親は味が落ちたのではないか?と、
本気で心配していたこともありましたね。
決してそういう意味ではなかったのですが。
遠慮する翔子が最終的に「ダイエット!」と口に出すまで、
延々とケーキを出されるということもありました。
今となっては良い思い出と言って笑える話ですが。
一日一個だけと決めた翔子は毎日のようにミルクレープだけを食べるようになりました。
味がどうこうよりも、幾重にも重なった生地を一枚ずつめくって食べるのが好きなようですね。
その食べ方だとミルクレープの存在価値が失われてしまう気がするのですが、
翔子の好みなので余計な口出しはしません。
そう言えば以前に理事長からバウムクーヘンを貰った時にも、
一枚ずつめくって食べようとしていましたね。
さすがにそれは難しいと思ったのですが、
無駄に器用な才能を発揮した翔子は完璧と言えるほど綺麗にめくり取りながらバウムクーヘンを食べていました。
そんな翔子は今日も当然のようにミルクレープを一枚ずつフォークでめくり取りながら口に運んでいます。
「幸せ~」
本当に幸せそうにとろけた笑顔を見せています。
美味しいのは私も知っていますが、
毎日食べ続けて飽きないのでしょうか?
私としては毎日違うケーキを味わうほうが楽しみがあっていいと思うのですが、
翔子は他のケーキに目を向けようともしません。
何がそこまで翔子の心をとらえたのかは分かりませんが、
ミルクレープさえあれば他には何もいらないようですね。
そんな翔子から視線をそらして隣に視線を向けてみると。
右手にフォーク。
左手にお皿を支えながら。
ゆっくりとした仕種でミルフィーユを食べる成美がいます。
落とさないようにと気を使いながら食べる仕種はとても愛らしく感じてしまいます。
まるで小動物のよう…と言ってしまうと成美は怒るでしょうね。
「大丈夫?」
心配して声をかけてみると。
「うん♪平気!」
成美は笑顔で頷いてくれました。
美味しそうにケーキを食べています。
そんな二人の笑顔を見ているだけで、
私の心も幸せな気持ちで満たされていく感じがしました。
食後のデザート。
静かな一時が私達の幸福を象徴しているような気がするのです。
この素敵な時間が、
いつまでも続くように心の中で願います。
どうか、いつまでも。
いつまでも。
この幸福な日々を過ごせますように。
ひとまずここで日常パートは終わりです。
次から本編を再開しますが、
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