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THE WORLD  作者: SEASONS
4月2日
26/185

完全実力主義

実験を成功させて圧勝した後。


更なる実力者を探すために次の検定会場へと移動した。



ここは第8検定試験会場だ。


6000から6999番までの生徒が所属しているらしい。


さすがにここまでくると学年がバラバラだな。


前年度や前々年度。


さらにはその前にいたるまで、

制服の色分けによって様々な学年の生徒が混在しているのが分かる。


だからこそ年数だけで実力が決まるわけではないという証拠にもなるだろう。



長期間在籍しているからといって必ずしも強いとは限らない。



年数による実績に差は出るとしても、

年数で実力が決まるわけではないからだ。



完全実力主義の学園の方針。


それがはっきり認識できる状況と言える。



だからこそ。


上を目指せば目指すほど強敵と戦えるということでもある。



…どこまで追いかけてくるつもりか知らないが、今は好きなだけ監視を続ければいい。



その間に頂点へと歩みを進めていくだけだ。


今もどこかに隠れている監視者の存在を感じながら会場の受付へ歩みを進める。



「試合がしたい。今、この会場で一番強いのは誰だ?」


「え、と、一番、ですか?」



名簿を見ようともせずに一番強いのが誰なのかを問いかけたからだろう。


受付の係員は質問の意味を理解しかねたらしく、

一瞬だけ戸惑うような表情を見せてから名簿の一番上の欄に視線を向けていた。



「今のところ、会場内におられるのは6064番の遠山栄治とおやまえいじさんですね。各所の試合を観察しながら格上の対戦相手が来るのを待っているそうです。」


「…そうか。」



名簿を確認しながら説明してくれたので、

いまさら自分で確認する必要はないだろう。


対戦相手が判明しているのなら、

問題は試合が出来るかどうかだけだ。



「その生徒とは試合が出来るのか?」


「あ、はい。それは大丈夫です。1時間ほど前からおられますが、まだ一度も試合をされていませんので挑戦は可能です。」


「それなら、試合がしたい。」


「番号が離れていますが、よろしいのですか?」


「ああ、問題ない」


「そうですか、それでは相手の方と連絡を取りますので、試合場A-1へどうぞ。」


「わかった」



今までと同じように試合場に向かって対戦相手の到着を待つ。



それから数分後。



対戦相手の遠山栄治が試合場に現れた。



「あんたが挑戦者か?聞いた事のない名前だが、ネクタイの色からして新入生だよな?」


「ああ、そうだ。」


「入学式は昨日だったっていうのに、もうそこまで順位を上げてるのか。大したものだとは思うけど、そろそろ無謀な挑戦はやめた方がいいんじゃないか?」



番号が1000番も離れているからだろう。


これまでの生徒達と同様に、

遠山も自分が指名されたことに対して不満を感じている様子だった。



…どこへ行っても反応は同じだな。



着実に成績を上げていくという基本的な流れを無視しているからな。


何を言われても仕方がないが、

今更この程度の忠告に耳を貸すつもりはない。



「忠告はありがたいが、すでに聞き飽きた台詞だ。今までに何度も同じ言葉をかけられたが、俺を止められた生徒は一人もいなかったからな。」



話し合いは必要ないと態度で示しながら開始線に立つ。


対する遠山は深々とため息をきながら試合場内に歩みを進めている。



「単に運が良かったとは考えないのか?」


「運も続けば実力だろう。」


「まあ、そういうものかもしれないけどね…」



言いよどむ遠山の表情からは隠しきれない不満が見えるが、

ここで話し合うよりも実際に試合をしたほうが遥かに話が早い。



俺の目的はまだまだ先だ。


こんな所で立ち止まるつもりはない。



「不満があるのなら、言葉ではなく実力で俺を止めて見せろ。」


「うわー、その言い方だと僕達の事は眼中にないって感じだよね?随分と自信があるようだけど、初心者がまぐれで勝てるほど、この会場は甘くないんだよ。」


「それが本当なら、ここでお前に勝てれば俺の実力がまぐれではないと証明できるということだ。」


「ったく、口の減らないやつだな…」



これ以上の会話は口論にしかならない。


ただただ不毛だと判断したのだろう。


再び大きな溜息を吐いた遠山からは諦めにも似た雰囲気が感じられる。



「…もういいや。」



話し合いを放棄して、

試合を行うために集中し始めた。



「とりあえず返り討ちにするだけだからね。」



自分の勝利に自信を持っているようだが、

そんなやり取りさえもすでに飽きるほど繰り返している。


いまさら反論する気にさえならない。



…言い争う意味はないからな。



結果が全てだと考えながら黙っていると。



「…本当にもう何を話しても無駄って感じだね。」



呆れたと言わんばかりの表情を浮かべている遠山も開始線に立った。



「だったら実力の差を思い知るといいよ」



ようやくやる気になった遠山の言葉をきっかけとして、

試合場の中央に歩みを進めていた審判員が試合開始を宣言する。



「それでは試合始めっ!!」



即座に後退する審判員の動きに合わせて遠山が動き出した。



「早めに棄権することを勧めるよ」



流れるような動きで魔術の詠唱を開始している。


だが、初手から強力な魔術を展開しようとしているのだろう。


発動までの時間がわずかに遅く感じられた。



…実力はともかく、戦術という点では美弥に劣るな。



遥かに格下である古原美弥でさえも魔術の構成を考えて様々な状況に対応できるように戦術を組み立てていた。


だが遠山からはそういった気配が一切感じられない。



こちらを見くびっているのか、

それともそんな小手先の技術さえ必要としないほど魔術を身につけているのかは知らないが、

どちらにしても魔術の発動が遅すぎる。



…もう手遅れだ。



遠山の行動を視線で追いつつ、

最速の詠唱で霧の結界を展開した。



「ホワイト・アウト!」



発動と同時に周囲に広がる白い霧。


先ほどの試合と同様に真っ白な霧が全方位に広がっていく。


相手の魔術よりも先に対魔術用の防御結界が完成した。



…さあ、見せてもらおうか。



格上の実力を。



「なんだ?霧の魔術?」



白い霧を見た遠山は一瞬だけ戸惑いの表情を見せたものの。



「まあいいや」



すぐに気持ちを切り替えたようだな。


霧の結界がどういうものなのかを考えもせずに魔術の詠唱を継続している。



「まずは先制だ。コールド・アロー・レイン!!」



展開された魔術は氷の雨だった。


ただし雨として降り注ぐのは氷柱よりも遥かに大きな氷の矢だ。


言うだけあって魔術はたいしたものだな。


数え切れないほどの量だ。


数百本におよぶ氷の矢が上空から降り注ぐ。



「霧なら氷とは相性が悪いはず!」



属性の基本として判断している遠山だが、

その考えは間違っている。


霧の結界は形状が霧という姿を持っているだけでしかない。


決して水の属性として水分を持っているわけではないからだ。



放たれた氷の矢。


それらは全て霧の結界に接触すると同時に、

まるで吸い込まれていくかのように青い光を放ちながら霧の中へと消えていく。



「なっ!?」



魔術が通じなかったことに驚く遠山だが、

間違った認識による攻撃で霧の結界を突き抜けることはできない。



「一応聞いておくが、お前の力はこの程度か?」



もちろんそんなはずはないと思っているのだが、

それでも念の為に問いかけてみると。



「…どういうことだっ!?」



期待とは違う答えが返ってきた。



「魔術が消えただとっ!?」



戸惑いの表情を浮かべる遠山は、

小さな声で疑問を呟いてから再び魔術の詠唱を開始した。



「くそっ!だったらバースト・フレアだ!!」



遠山の両手から紅蓮の炎が生まれ、

再び結界に向けて放たれる。



結界に迫る紅蓮の炎。



相当な熱量を持っているであろう真紅の炎は結界に激突する一歩手前で爆発した。




「これなら吹き飛ばせるはず!」



…なるほど。



結界の外周部で勢いよく飛散した炎。


爆裂魔術によって霧を吹き飛ばそうと考えたのだろう。



期待を込めた遠山の一撃によって激しく燃え盛る炎は周囲の酸素を燃やし尽くすかのように急速に勢いを増していく。



ホンの数秒。



ただそれだけの時間で炎は広範囲に広がって結界の周囲を火の海へと変えていった。



「これなら!!」



誇らしげな様子の遠山だが、

残念ながら炎が結界を突き抜けるには至らなかった。



霧の結界に影響はない。


燃えることも拡散することもなかったからだ。



広範囲に広がった炎も全て、霧に吸い込まれるように消滅していく。



「なっ!?また消えただと!どういう事だっ!?」



再び驚愕を露わにする遠山だが、

どうと聞かれても説明する義理はない。


わざわざ説明する必要はないからな。


知りたければ自分で解明すればいい。



「もう一度だけ聞く。お前の力はこの程度なのか?」


「なっ!?ふっ、ふざけるなぁぁぁぁっ!!」



こちらの質問によって逆上したらしい。


遠山は残り全ての魔力を振り絞って魔術の詠唱を開始していた。



「コールド・ストーム!!」



霧の結界ごと全てを凍結させるつもりなのだろうか。



「結界ごと凍り付けっ!!!!」



怒りと気迫を込めて放たれる強力な冷気。


それは今まで見てきたどの魔術よりも凄まじい勢いだ。



…これまでで最も強力な攻撃だな。



竜巻のように渦を巻く猛吹雪が結界を目掛けて吹きすさび、

極寒とも呼ぶべき圧倒的な冷気が霧の結界に襲いかかる。



「これが僕の本気だっ!!」



…確かに、これは脅威だ。



文句なしに最強の一撃だと認めよう。


これまで見てきた魔術の中で最も危険度が高いと思わせる強力な冷気。


結界をまるごと凍結させようとする遠山の一撃は十分すぎるほど賞賛に値する大魔術だった。



…悪くない一撃だな。



素直に思う。


現状で扱える魔術ではまともに対処できなかっただろう。


もしも霧の結界がなければ、

今の俺の実力では遠山には勝てなかったはずだ。



…結界がなければ、だ。



これまで見てきた中で最も強力な魔術。


それでも結界を破壊するには至らなかった。



猛吹雪を受けても霧の結界は凍結しなかったからだ。


それどころか吹き付ける吹雪と共鳴するかのように青い光を放ちながら全ての吹雪を飲み込み続けている。



その結果として。


吹雪は消え去り。


揺らぐことのない結界だけが残った。



「ば、ばかな…っ!?これでも、通じないなんて…っ」



よほど信じられないのだろう。


魔術が通じなかった事実をうけとめきれずに動きを止めてしまっている。



そんな遠山に向けて、静かに左手を掲げた。



素晴らしい魔術だったと思うからだ。


その事実は心から称賛したい。



…だが、それだけだ。



「その程度の実力では俺を止める事が出来なかったということだ。」



淡々と事実だけを告げてから反撃のための魔術を展開する。



「コールド・ストーム」


「なっ!?ばけものか…っ!?」



これから放たれる魔術に恐怖を感じたのだろう。


怯えるような目でこちらを見つめる遠山は、

叫ぶ事すら出来ずに猛吹雪を浴びて試合場に倒れた。



「勝負あり!勝者、天城総魔」



審判員の掛け声によって試合が終了する。


やはり霧の結界は有効的だった。


吸収した魔術によって遠山を氷漬けにしたことで今回の試合も余裕で勝ち抜けられたからな。



この結果を考えれば次の試合も勝てるだろう。


この会場の実力を考慮すれば次の検定会場も苦戦するとは考えにくい。



霧の魔術さえあれば上位陣に食い込めるはず。


絶対的な魔術とは言えないが、

現状では十分な効果がある。



仮に防御結界を突き抜けるほどの実力を持つ生徒がいるとすれば、

それはおそらく1000番を切る上位陣くらいだろう。



実際のところどうなるかは戦ってみなければ分からないものの。


5000前後や数千番の生徒の中にそこまで強力な生徒がいるとは思えない。



これまでの流れや今後の予想から考えると、

少なくとも次の試合やその次くらいは余裕で勝ち抜けられるはずだ。



…油断は出来ないが、上がれるところまで上がり続ける。



霧の魔術による限界を感じさせるほどの生徒と対戦しない限り、

さらなる成長を目指すのは難しいからな。



乗り越えるべき壁を見定めなければ、

壁を乗り越える方法は見つからない。


今よりももっと強くなるためには、

より強力な相手と戦う以外に方法はない。



そう思うからこそ次の検定会場を目指すことにした。



…魔術にはまだ俺の知らない可能性があるはずだ。



多くの可能性を掴み取るために、

さらなる戦いに挑む。



…ホワイト・アウトの実験は成功した。



霧の実験に成功した今なら誰にも負ける気がしない。



炎による影響は皆無。


冷気による凍結もない。


霧状の姿をしているとはいえ、

性質は全く異なる為に雷による被害もないだろう。



そして霧とはいえ結界だからな。


風で吹き飛ぶような生易しい魔術でもない。


あらゆる魔術を無効化する結界。


それが俺の生み出した魔術、ホワイト・アウトだ。



これは単純に相手の魔術を無効化するだけのものではない。


シールドの長所である『魔力の遮断』を改良して新たな力に変えている。



全ての魔術を分解して、

力の根源である魔力に強制的に戻す力があるからだ。



それにより如何なる形状を持っているかに関係なく、

全ての魔術は結界に触れると同時に本来の魔力という形に分解されてしまう。



その結果として。


魔術の属性に関係なく、

魔力の遮断という現象が起きる。



これが第一の能力。



だがこれだけでは通常のシールドと変わらない。


だから俺は更なる力を求めて分解した魔力を『吸収』する方法を考えた。


誰が魔術を使うかに関係なく元は同じ魔力だからな。



魔術を分解すれば魔力が残る。



その魔力を流用すれば自身の魔力を減らすことなく魔術を展開することができるはずだ。



そのための理論を構築して魔力を吸収するという能力を結界に付与した。



これが第二の能力だ。



さらに術者を包み込むシールドと違って霧状にした事にも意味がある。


霧は自在に形を変える事が出来るからな。


特定の形状を持たないからこそ自身の行動に制限をかける事もない。


そのおかげで結界の内外を問わずに自由に動けるのが霧の利点だ。



これが第三の能力。



他者により実行された魔術は全て魔力として吸収される。


これは魔術を使用不可能にする為の一種の支配領域と考えていい。


そしてシールドとは根本的に異なる最大の長所がある。


それはシールドに追随するほどの防御性能を実現しながらも、

結界に遮られずに攻撃が出来るという点だ。


霧の結界は俺の支配領域だからな。


他者の魔術は分解するが自身の魔術は通過する。


この特徴によって攻撃と防御を併用することが可能になった。


ただ、その反作用として絶対的な魔術ではなくなったことも事実だ。



シールドとは異なり、

魔力の『完全遮断』を行うわけではないからな。



結界の限界を越える攻撃を受けた場合。


ホワイト・アウトは消滅して魔術が直撃するだろう。



『魔術の通過』および『魔力の吸収』



この二つの能力を付加したことによって、

遮断できる魔力の限界値が引き下げられたのは事実だ。



それでも学園で学ぶことのできる上級魔術がいともたやすく遮断吸収出来た事実を踏まえれば当面の間は恐れる必要がないだろう。



何より今回の実験の感触で言えば、

最上級魔術ですら吸収できる自信がある。



だからこそ今は、一気に上を目指す事にした。


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