ホワイト・アウト
今回はまだ来ていないようだな。
美弥の時とは違い、
今回の対戦相手はまだ到着していなかった。
…少し待つか。
同じ会場内にいるはずだからな。
何十分も待たされるわけではない。
対戦相手が到着するまで大人しく待とうと考えていたのだが。
待機してから2分と経たずに、
対戦相手である来宮がやや駆け足ぎみに近付いてきた。
「あー、やっぱりきみなのか。まさかきみと戦うことになるとは思ってなかったよ。今日は試合の見学だけして帰るつもりだったからきみの試合も見てたんだけど、これでもう4戦目じゃなかったかい?」
「ああ、そうなるな。」
午前中も含めれば7戦目になるが。
説明する必要はないだろう。
「今回は前回の試合で思い付いた魔術の実験が目的だ。」
「勝敗よりも実験が大事ってことかな?」
「そうなるな」
「ふ~ん。なるほどね。」
試合よりも実験が目的だと宣言したからだろうか。
来宮はそれ以上追求せずに、
さっさと俺から離れて試合場に立った。
「見せてもらうよ。きみの魔術を」
「ああ」
互いに開始位置に立つ。
そして静かに深呼吸をすると、
審判員が試合場の中央に歩みを進めてきた。
「それでは、よろしいですか?」
「はい。お願いします。」
「ああ、いつでもいい。」
審判員の問いかけに答えてから対戦相手の来宮に視線を戻す。
来宮も俺を見つめながら静かに気持ちを落ち着かせている様子だ。
どうやら率先して攻撃する性格ではなさそうだな。
そんな感想を抱いた直後に。
「試合始め!!」
審判の掛け声が試合場に響き渡ったのだが。
「………。」
予測通り、来宮から攻撃を仕掛けてくる気配はなかった。
「攻撃しないのか?」
「何かの実験がしたいんだよね?とりあえずはその様子見かな。」
…なるほど。
それなら遠慮なく始めさせてもらおう。
警戒しながらも様子を見る来宮の行動を気にかけながら、
実験のための魔術の詠唱を開始する。
「光と闇の狭間に有りて、原初であり基盤である、根元なる力…。」
来宮に動き出す気配は全くない。
本気で様子を見るつもりなのだろう。
ただじっとこちらの魔術を観察しているようだ。
「我と汝の名の下に、全ての魔力を無に還さん…。」
基礎的な理論を元にしてはいるが、
独力で考えた新たな魔術の構成だからな。
おそらく来宮には理解できないだろう。
詠唱を聞いただけでは魔術の内容まで把握できないはずだ。
これからどんな魔術が展開されるのかは審判員ですら理解できないだろうな。
だからこそ言える。
この状況なら監視している人物にも魔術の構成を勘付かれる可能性は低い。
離れた場所から見ているだけでは魔術の解析など出来ないからな。
周囲の状況を観察しながら生み出す新たな魔術。
…これが俺の理想だ!
「ホワイト・アウト!!」
『フワッ…』と真っ白な霧が、
周囲を包み込むように発生した。
…発動は成功だな。
まずは理想としていた通りの形で具現化させる事に成功した。
…これが実験の第一段階だ。
試合場全域に霧を生み出したウォータ・ミストとは違い。
それほど範囲は広くない。
目測で半径5メートル程度だろうか?
やろうと思えばもっと広範囲にも展開できるが、
実験の目的を考えれば範囲を広げる意味はないだろう。
今はこの程度で十分だ。
そして肝心の霧だが、密度は薄い。
薄っすらと靄がかかっているような印象だな。
それでも前後左右上下に至るまで全周囲に広がっている。
「…よく分からないけれど、それがきみの切り札かい?」
「ああ、その予定だ。」
「………。」
一見、ただの霧でしかない。
そんな見た目のせいだろうか。
来宮は戸惑いの表情を見せている。
…だが、これでいい。
「理論上は最高位の結界だ。」
「…最高位、ね。」
全く信じていないようだが、
正直に言えば自分でもどの程度の効果があるのかは分からない。
通常の理論では不可能とされていた魔術を独自の理論で可能にしようとしているからな。
…今は自分自身を信じるしかない。
発動した以上は論より証拠。
実際に魔術を受ければ結果が出る。
「好きなだけ攻撃すればいい。魔術を防げれば実験は成功。防げなければ実験は失敗。ただそれだけの事だ。」
「なるほどね。どんな効果を持った結界かは知らないけれど、そうと聞かされたら油断はしないよ!ファイアー・ボール!!」
来宮の生み出した炎の玉が結界目掛けて放たれた。
これまでの試合でも目にした強力な炎だ。
実験が失敗すれば直撃。
その時点で俺の敗北は確定するだろう。
だが。
結界に衝突した炎の玉は、
俺に直撃する前に霧に飲み込まれて消滅した。
「…な、なにが起きたんだっ!?」
来宮は驚いて動きを止めてしまっている。
攻撃のために放った魔術が消え去ったからだが、
霧の結界の一部で煌めく微かな青い光にも目を奪われているようだ。
…実験は成功だな。
煌めく青い光を見つめながら密かに微笑む。
どうやら実験の第2段階も成功だったらしい。
…このまま第3段階も試しておこう。
驚き続ける来宮に向かって右手を突き出す。
「『貰った力』をそのまま返す!ファイアー・ボール」
「な…んだとっ!?」
打ち返した炎の玉は霧の内部を突き進んで来宮を目指す。
「ちっ!」
状況が把握できずに戸惑いながらも、
来宮は全力で炎の玉を回避してすかさず反撃に出た。
「サンダー・ネット!!」
巨大なクモの巣のような形状をした雷撃を帯びた大きな網だ。
この網で俺を包み込むつもりなのだろう。
上空から範囲攻撃が迫りくる。
…だが、無駄だ。
一歩も動く必要はない。
ただ冷静に雷の網を見据える。
数秒。
『バリッ…』と小さな音がした。
その瞬間に魔術は消え去った。
雷の網はあっさりと消滅した。
「バカなっ!?一体何が…!?」
驚愕する来宮だが説明する義理はない。
魔術を無効化したことで再び反撃を開始する。
…さあ、遊びはここまでだ。
「ライジング・スパーク!!」
『吸収した魔力』を変換して別の魔術を放つ。
来宮の魔術と似て非なる雷撃。
以前の試合で覚えた魔術を放ってみると。
「ぐ…あっっ!?」
混乱から抜け出せなかった来宮は拡散する雷撃に対処する間もなく、
魔術の直撃を受けて倒れた。
「勝者、天城総魔!」
予想以上の圧勝だ。
新魔術を完成させた満足感を感じながら、
試合場を離れることにした。




