解読不可能
《サイド:御堂龍馬》
ようやくこの時が来た、っていう感じかな。
天城総魔と直接話し合う機会だ。
この状況は僕自身が望んでいたことなんだけど。
いざ実現するとなると何から話をすれば良いのか悩んでしまうね。
一応、僕が質問をする立場だし。
順序よく話を進める為に、
まずは頭の中で質問を整理してみようと思う。
先ず最初に聞くべきことはシークレット・リングについて…で、いいはず。
もちろん過去の力がどうとか、
そういうことじゃないよ。
単に具体的な内容を知っておきたいだけなんだ。
自分が今置かれている状況くらいは理解しておきたいと思うからね。
それに。
研究所で聞いたルーンに関しての情報も気になる。
彼はどこまで考えて、
今後どうしていくつもりなのかな?
その辺りも聞いておきたいと思う。
そして最後に一つ。
彼に特風に参加する意志があるかどうか?という質問だ。
まずはこの3つを確認しておけば、
今後の方針を立てやすくなるんじゃないかな。
そこまで判断してから、
彼に話し掛けることにした。
「それじゃあ、早速だけど話を聞いてもいいかな?」
「ああ、俺に答えられることなら何でも答えよう」
出来る限りの笑顔で問いかけてみると。
彼は表情を変えることなく頷いてくれていた。
どうやら素直に聞き入れてくれるみたいだね。
それが分かっただけでも少し安心できるかな。
拒絶された場合はどうしようか?なんて考えていたから、
素直に話が進むのは有り難いと思うんだ。
「それじゃあ、最初の質問なんだけど。指輪の封印に関して知っている範囲で良いから教えてもらえないかな?」
まだ僕の知らないこともあるかもしれないからね。
一応、聞いておきたいんだ。
「…そうだな。」
一つ目の質問を問いかけてみたことで、
彼は制服のポケットから一冊の手記を取り出してくれた。
あれは昨日の夜に理事長が用意してくれたものかな?
僕だけじゃなくて、この場にいる全員に見覚えのある物だから間違いないと思う。
その手記をテーブルの上に置いてから、
彼は僕の手元へと押し出してくれたんだ。
「まずは一度、目を通してみるといい。」
勧められたことで素直に手記に手を伸ばしてみる。
だけど。
…んんん?
何だこれ?
何をどう読めばいいのかさえも分からない。
というか。
読み方そのものが分からないというべきかもしれない。
…これは難解だね。
専門的な知識がどうこうという感じじゃないんだ。
それ以前の問題というか。
謎の暗号文にしか思えなかった。
…そもそもこれは読むために書かれたものではないのかもしれない。
正直に言って僕に理解できるような内容じゃないんだ。
というよりも。
まともな研究記録じゃないと思う。
覚え書きって言うのかな?
ありとあらゆる情報をただひたすらに書き続けた感じに思えるからね。
これを理解できるのは書いた本人だけじゃないかな?
そんなふうにさえ思ってしまう。
だから、かな?
隣に座ってる沙織も真剣な目つきで手記を覗き込んでいたけれど。
その瞳には明らかな戸惑いが感じられるんだ。
たぶん、沙織でさえも手記の内容を把握しきれないんだと思う。
それでも一応、沙織に手記を手渡してから様子を見ることにしてみた。
その間。
ほんのしばらくの間だったけど、
沙織は真剣に手記と向き合って何とか解読しようと試みていたようだ。
だけど。
沙織の表情には困惑しか感じられなかった。
「…ごめんなさい。私には解読出来ないわ。簡単なところから順番に読み進めようとしてみても途中で理解できない部分が出てきて繋がりが分からなくなってしまうの。この手記を完全に解読する為には、本格的な準備と解読用の資料が必要だと思うわ。」
…だろうね。
僕も無理だと思う。
少なくとも手記を読んだだけで理解するのは不可能だと思うんだ。
なのに。
それでも悔しかったのかな?
解読を断念した沙織は、
少しうなだれた様子で手記をテーブルに置いていた。
そしてそのあとも残念そうな表情で手記と睨み合っている。
うーん。
もしかしたら僕が思っている以上に落ち込んでいるのかもしれないね。
…だけど。
僕にも全く理解できない内容だったから沙織を責めるつもりはないよ。
そもそも読めないのが普通だと思うからね。
「ごめん。悪いけど、僕にも理解出来そうにないよ。」
沙織だけじゃないってことを示すために素直に謝ってみたんだけど。
「ふふん♪」
何故かその瞬間に翔子が微笑んでいた。
その理由は語らないけれど、
どことなく誇らしげな態度に見える。
これはどういう意味だろうか?
もしかしたら。
翔子はこの手記が解読出来たのだろうか?
そんな疑問を感じたんだけど。
「…そうか。」
僕が尋ねるよりも先に彼が話を進めてしまった。
「沙織なら読めると思っていたんだが、無理だったか…。」
「ん~まあ、当然よね~。」
小さく呟いた彼の横で自信たっぷりに頷く翔子。
その自信が何なのかがすごく気になるんだけど。
「読めなかったのは私だけじゃないってことよ。やっぱり、これを読める方がおかしいのよ。」
僕が理由を問いかけるよりも先に、
翔子は自分から自白してくれたんだ。
だけど、これってどうなのかな?
自慢げに語ってるけれど。
今の発言を考えるなら、
翔子も読めなかったということだよね?
それなのに勝ち誇ったような笑顔を浮かべる意味が分からない。
もしかして読めなかったことで何かあったのかな?
その辺りの話も聞いてみたい気がするけど、
今は話を進めることが優先だと思う。
こういう言い方は失礼かもしれないけれど。
翔子の話は彼がいなくても聞けるからね。
だから今は余計なことは言わないし、
黙って話の続きを待ってみることにしたんだ。
「指輪に関してはここに書かれていることが全てだ。どの程度の効果があり、どういう現象が起きるのかも含めてな。」
「きみはこの手記を解読出来るのかい?」
「ああ。完璧にとは言わないが、前後の流れや全体の情報を整理して行けばおおよその内容は読み進めていくことが出来る。」
「だったら教えてくれないかな?」
全部とは言わないけどね。
「ある程度、僕達に理解出来る範囲だけでも良いんだ。」
「ああ。」
僕の願いを聞き入れてくれた彼が再び手記に手を伸ばした。
そしてゆっくりとした手つきでページをめくっていく。
「要点だけをまとめるなら重要なことは一つだけだ。」
複数のページの項目を指差してから話してくれた。
「指輪の効果は『特性や能力を問わず』に、自分が望んだ力だけを封印することが出来るという部分になる。」
…ん?
…あれ?
彼の言葉を聞いた瞬間に微かな疑問を感じた気がする。
それが何なのか、はっきりとは分からなかったけれど。
だけど確かに何かが気になったんだ。
それなのに。
それが何なのかが分からない。
とても大事なことのような気がするのに。
重要な何かを見落としているような。
そんな気がするのに。
何が気になったのかが分からないんだ。
まあ、彼に質問をすればいいだけの話なんだけどね。
だけど何を聞けばいいのかがわからないんだ。
自分でも何が気になったのかが分からないわけだしね。
何を質問すればいいのかも分からない。
だから、かな。
僕が何も言わないことで、彼の説明は続いてしまう。
「すでに気づいているかもしれないが、封印の効果は能力だけに留まらないらしい。間違いなく理論の構築にまで影響してしまう。そしてその結果として、独自の魔術が使えなくなる可能性がある。」
ああ、うん。
確かにね。
「それは僕も研究所で実験したけど、ほぼ全てと言っていいほど魔術が発動しなかったよ。」
「だろうな。力を失う影響によって魔術の理論やルーンの構築にズレが生じてしまったために使用不可能になるようだ。だが、そのズレを修正することさえ出来れば再び使えるようになる可能性はある。ただ、全く同じとはいかないはずだ。根本的に異なる理論になるから似たような別の何かになると思われる。」
そうだね。
「そこまでなら僕も理解してるかな」
「そうか。ならいいが、指輪に関して言えばその程度のことでしかない。指輪そのものにたいした意味はないからな。」
…ん?
意味はない?
「…え?そうなの?」
彼の説明を聞いていた翔子も驚いていた。
…ということは。
この辺りに関しては翔子も知らなかったのかな?
もちろん僕も知らない部分だけど。
翔子が驚く様子を見た彼は、
今度は僕じゃなくて隣に座っている翔子に説明を始めたんだ。
「重要なのは『これからどうするか?』ということだけだ。」
「それはまあ、そうなんだけど~」
「指輪の影響そのものは考える必要がない。」
「え〜?そうかな~?」
どうだろうね。
確かに彼の言うことはもっともな意見だと思うよ。
だけど翔子の戸惑いも理解できるんだ。
だからこそ確認しなければいけないとも思う。
僕達はこれからどうしていくべきなのかをね。
「指輪に関しては分かったよ。だから聞きたい。きみがこれからどうしていくつもりなのかをね」
僕の問い掛けに対して、
彼は少しだけ黙考してから話しだした。




