少数派
図書館での調べ物を終えて、
再び第9検定試験会場に戻ってきた。
この会場での試合はこれで4回目になる。
早速、試合を行うために受付に向かったのだが、
さすがに顔を覚えられていたらしい。
「まだ試合をするんですか?」
一時的に会場を離れていたから実際には連戦ではないのだが、
受付の女性係員は呆れたような表情を浮かべながら話しかけてきた。
「先ほどの試合から少し時間が空いてますけど、あまり無理はしないほうがいいですよ?」
随分と心配されているな。
個人的には無理をしているつもりはないのだが、
ここまで忠告されるということは一日に何度も試合をするのは珍しいのだろうか?
…少し気になるな。
心配してもらえること自体に不満はないが、
気にしすぎだとも思うからだ。
「一応聞くが、連戦する生徒はあまりいないのか?」
「もちろんです。本来なら1試合にほとんどの魔力を消耗してしまいますので、2戦目以降はよほど調子の良い状態か、対戦相手が弱っている時を狙うようですね。ですので、あなたのように相手の状態を確認もせずに次々と試合を行う生徒は極一部の少数派だと思いますよ。」
「つまり、少数ならそういう生徒もいるんだな?」
「私の知る範囲ではいませんけど、もっと格下の初心者用の検定会場でしたらそういう生徒もいると聞いたことがあります。」
…ああ、なるほど。
新入生や格下の生徒は魔力の総量が少ないが、
使える魔術も初歩的な魔術ばかりだから後先考えずに無茶ができるということだろう。
逆に言えば上位を目指せば目指すほど魔力の消費量が増えて試合回数が減少していくということだ。
…より強力な相手を倒すためには、より多くの魔力が必要になるな。
そのせいで試合回数に制限が生まれて上位に上がりにくくなるのだろう。
美弥のようにそこそこの実力を持っていても、
この辺りでくすぶっている理由はそういうことなのかもしれない。
一時的に上位を目指すのは簡単だが、
手に入れた地位を守れるだけの実力がなければすぐに転落してしまうからな。
その危険性を回避する方法は確実に勝てる範囲内で徐々に成績を伸ばしていくのが一般的なのだろう。
…そういえば一度だけ言われたことがあるな。
自分よりも10番程度格上の相手と戦って成績を伸ばすのが基本だと、
二つ目の会場で言われたことを思い出した。
だからこそ美弥は自信をもっていたのだろう。
自分は絶対に負けない、と。
そう思える範囲での地位を維持していたからこそ、
試合を挑まれても負けないと信じていたのだと思う。
その考えが多数派だとすれば、
学園の成績は運や奇策に左右されない堅実な実力を持つ生徒が過半数を占めるということだ。
…となれば、やはり実力の底上げが必要だろうな。
上位陣に加わるためには今の実力では全く足りていないと思うからだ。
今はまだ魔力を温存した状態で試合を進められてはいるが、
それが出来なくなった時が最初の壁になるだろう。
自分自身の限界。
魔力を枯渇させるほどの戦いがどの段階で訪れるのか分からない。
だが今のように連戦できる日がこなくなるのは間違いないだろう。
このまま何の手も講じなければ、
いずれ魔力の底という限界が訪れてしまうからな。
その限界が訪れる前に今回の試合で完成させたいと思っている。
「休息は十分にとった。試合をするのに問題はないだろう?」
「え、ええ…そうですね。」
断られる可能性はないと思って問いかけてみると、
今回も素直に引き下がってくれた。
「何度連戦しても問題はありませんし、無理に止めはしませんけど、本当に試合をするんですか?」
「ああ、そのつもりだ。」
「はあ、そうですか。それではこちらをどうぞ」
まだ何か言いたそうな表情をしてはいるが、
何を言っても無駄だと感じているのだろう。
ため息混じりに参加者名簿を差し出してくれた。
「今回も番号の近い相手でよろしいですか?」
これまでの流れから聞いてくれたようだが、
今回の目的は経験よりも実験が優先だからな。
格上の相手と戦って試してみないことには意味がない。
「いや、次の相手はこの生徒だ。」
「………。」
今回は真逆の相手を指名した。
だから、だろうな。
名簿の最上段に記されている生徒の名前を指差したことが気に入らなかったのだろう。
今までの不安そうな表情が不満そうな表情へと変わり、
先程よりも大きな溜息を吐いていた。
「あの…本気ですか?」
「そのつもりだ。」
「え~っと…もう知りませんからね?」
これまでのやりとりによって忠告は無駄だと分かっているのだろう。
少し投げやりな態度になっていたが、
説得は諦めて素早く手続きを進めてくれた。
「もう何も言いません。生徒番号7033番、来宮俊司さんをお呼びします。試合会場はC-1になりますので頑張ってください。」
「ああ、感謝する」
呆れながらも応援してくれたことに礼を言ってから試合場に向かって歩き出そうとすると、
背後からもう一度だけ応援してくれた。
「あとで恨まれたくないので、ちゃんと勝ってくださいね。」
…ああ。
もちろんそのつもりだ。
試合で負けたところで誰かを恨むつもりはないが、
そもそも負けるつもりもない。
「勝って次の会場を目指すつもりだ。」
結果を宣言して受付を去る。
そうして試合場に向かって歩いていくと。
…当然いるな。
今回の試合にも監視がついている気配が感じ取れた。
一時的に会場を離れて図書館にこもっていた間は気配を感じなかったのだが、
会場に戻ってきてみれば当然の様に監視の目が戻ってきている。
図書館に入るまではついて来ているのを確認していたのだが、
その後はいなくなっていたからな。
おそらくどこかで時間を潰していたのだろう。
そもそも監視が学園の意向であり、
ここが学園の内部である以上。
あらゆる場所に尾行の協力者が存在しているはずだ。
食堂や、図書館や、あるいは各会場にも、
監視の包囲網が存在するだろう。
それらからの情報が途絶えない限り24時間追跡する必要はなく、
特定の状況時にだけ監視を再開すればいいのかもしれない。
…一時的に見失っても各地からの情報を集めて追跡を再開すれば問題ないからな。
そうでなければ常時追跡し続けなければならないことになる。
そんな面倒な監視を一人で出来るはずがない。
だとすれば。
直接的な監視は一人だけだとしても、
包囲網自体は学園中に広がっていると考えたほうが良いだろう。
…これからはどこに向かっても完全に隠れることはできないと判断して行動するべきか。
とは言え、隠れる理由もない。
何らかの状況の変化が訪れない限り、
これ以上の推測は不要だろう。
監視に関してはこれ以上気にしないでおく。
そんなふうに考えている間に、
目的地である試合場にたどり着いていた。




