使用不可能
《サイド:御堂龍馬》
うーん。
これまでに何十回この場所に来たのかな?
数え切れないほどの実験を重ねてきたからはっきりとは覚えていない。
だけど。
…いや。
だから、かな。
見慣れた場所だと思ってしまうんだ。
ルーン研究所の最奥にある最重要機密実験室。
通称『特殊実験室』だけど。
入口には実験室Sって書かれてる。
Sの意味はシークレットだね。
天城総魔と初めて出会ったのもこの部屋になるんだけど。
色々と思い出のあるこの場所で、
今回は僕自身の意思で実験をお願いすることにしたんだ。
…と言っても。
調べたいことは一つだけなんだけどね。
一言でいうなら、今の僕の力がどの程度なのか?という現状になるかな。
ただそれだけなんだ。
僕は指輪の影響で『支配』の力を失ってしまった。
その結果としてエンペラーソードが使えなくなって、
特性に関するいくつかの魔術も使えなくなった。
詳細はまだ分からないけれど。
天城総魔の言葉を信じるなら、
僕の特性である支配に関連するしないに関係なく、
独自の魔術は全て使えないということになるはずなんだ。
その事実がどの程度まで影響しているのか?
それが知りたかった。
…と、同時に。
現在残っている力でどの程度のことまでなら出来るのかも調べておきたかった。
今の僕に何が出来るのか?
以前よりも強くなる為にはまず、
僕自身を知らなければいけないと思うんだ。
「よし。実験準備が整ったぞ」
「ありがとうございます」
黒柳所長の声を聞きながら、
実験室の中を進んでいく。
目的地はいつもの場所だ。
実験室の奥。
防御結界の向こう側になる。
「礼は良いんだが、まあ、人手が足りてないからな。それほど大規模な実験は出来ないぞ?」
「あ、はい。それは構いません。あまりご迷惑をおかけするわけにはいきませんから」
「いやいや、迷惑だとは思わないが、大半の職員が休憩に入っているからな。今はこれが手一杯になる。」
周囲に視線を向けた黒柳所長の周りには数人の職員がいる。
彼らはここで本来の業務を行っていた職員なんだけど。
彼等を見つけた黒柳所長は強制的に僕の実験に巻き込んでしまったんだ。
そのことに申し訳ないと思う気持ちはあったけれど。
彼等がいてくれたおかげで最低限の人員が揃ったのも事実だからね。
手伝ってくれる人達がいてくれるおかげで、
僕の実験は思った以上に早く進みそうだった。
「まあ、ここで話していても仕方がないからな。さっそく実験を始めようか」
黒柳所長が実験機材を操作し始める。
「まずはきみの力を測定する為に、魔力の流れから調べさせてもらうとしよう」
「はい。お願いします」
「ああ、任せてくれ」
実験の方針を定めたことで、
黒柳所長が簡単な説明をしてくれた。
「まずは魔力の測定だが、そもそもの前提として封印の影響によって発動出来ない魔術があるとすれば、それは魔力そのものが反応していないと思われる。これは一応、過去の実験で結論づけられているからな。考え方は間違っていないはずだ。」
なるほど。
能力を封印したことによって、
封印された能力に関する魔術は発動できなくなってしまったわけだけど。
今の説明から考えると。
魔術が使えないというよりは、
魔力そのものが反応していないみたいだね。
例えて言うなら。
何らかの器を用意しなければ水をすくい上げることが出来ないのと同じように、
何らかの能力がなければ魔力を行使することができないということだと思う。
まあ、もっと分かりやすく言うなら、
知らないことはできないっていう感じかな?
現状でいうなら能力が欠如してるわけだからね。
存在しない能力で魔力を操作できないのは当然だ。
「まあ、それ自体に害はないがな。それでも魔力の動きを基準とすれば、きみに使える魔術と使えない魔術が何なのかがはっきりするだろう。」
たしかに。
それが一番手っ取り早い方法だと思う。
「そこで、だ。」
黒柳所長の案内を受けて、
僕は所定の位置に立たされた。
「きみにはここで魔術を発動してもらう。発動出来なければそれまでのことだが、一応、安全の為に結界は用意させてもらう。だからきみは周りを気にせずに全力で魔術を使ってくれれば良い。」
「はい!分かりました。」
説明を聞き終えたことで、僕の準備も整った。
「やってみます。」
「うむ。まずはこの実験結果を元にすることできみの魔術の傾向が分かるだろう。どのような魔術が使用不可能になって、どのような魔術が使用可能なのか?まずはそこを知ることから始めてみようか。」
「お願いします。」
「ああ。それでは、始めよう。」
説明を終えた黒柳所長が僕に背中を向けて歩きだす。
そして数十メートル離れた場所で立ち止まってから僕に振り返った。
「全員、準備はいいか!?」
6人いる職員に指示を出しながら、
黒柳所長が次々と実験機材を起動していく。
と、同時に。
指示を受けた職員達が次々と返事したことで、
ようやく全ての準備が整ったようだね。
「よし。実験を始めるぞ!」
僕に視線を向けた黒柳所長が実験開始の合図を出す。
「結界を起動する。思う存分、魔術を使ってくれ」
「はい!」
即座に返事をしてから意識を集中させていく。
そんな僕の周囲を半径50メートルを越える大きな結界が取り囲んでいった。
これは検定会場で見慣れた魔術結界だね。
今までの実験では僕の力を抑えきれなかったけれど。
ルーンを失った今の僕の力なら昨日の試合のように結界を崩壊させてしまうことはないと思う。
封印の影響で最も得意とする能力が失われてしまったからだ。
たぶん今の僕では全力で攻撃したとしても結界を破壊するのは無理だと思う。
その事実だけでも、失った力の大きさを証明してると言えるんじゃないかな?
だから遠慮することなく、
両手をかざして全力で魔術を発動させようとしてみた。
「ジャッジメント!!」
魔術名を宣言したんだけど。
予想通り魔術は発動しなかった。
もちろん失敗したわけじゃない。
そもそも何も起こらなかったんだ。
まあ、この結果はすでに分かっていたことだから落ち込むようなことではないけどね。
まるで存在そのものが消えてしまったかのように発動の兆しすら感じられなかったんだ。
「やはり、ジャッジメントは使用不可能か。」
呟く黒柳所長の言葉が聞こえたような気がした。
だけどそれでも気を緩めることなく次の魔術を詠唱してみる。
「グランド・クロス!!!」
直撃すれば天城総魔でさえ倒せる威力を秘めた魔術だ。
この魔術が発動できれば結界を突き抜けることができるはず。
だけど。
この魔術も予想通り発動する気配すら見せなかった。
「…ダメか。」
黒柳所長が落胆した様子を見せている。
予想していたとは言え。
学園全体で見ても最高峰と言える二つの魔術が使用不可能という事実が発覚したわけだからね。
ただ静かにため息を吐いている様子だった。
…でも、ね。
それは僕も同じなんだ。
実験前から分かってはいたけれど。
いざこうして思い知らされるとどうしても気持ちは落ち込んでしまう。
ジャッジメントとグランド・クロスはどちらも僕にとって思い入れのある魔術なんだ。
支配の能力を起点として自分自身で理論を組み上げた魔術だからね。
使えなくなることはすでに予測していたけれど。
それでも心のどこかでは使えれば…と思う気持ちがあったと思う。
だけど。
現実として魔術は使えなくなった。
今はその現実を受け入れるしかないみたいだ。
「…続けます。」
自分の両手に視線を向けて力を込め続ける。
まだ、終わりじゃないからね。
確かめるべきことはまだまだ沢山あるんだ。
だから今は、今まで以上に強くなる為に。
僕はまだまだ諦めない!




