実験の価値
《サイド:黒柳大悟》
…何故だ。
これは何の嫌がらせだ?
『コンコン』と部屋の扉をノックする音が聞こえた瞬間に。
激しくため息を吐いてしまっていた。
「…最悪だな。」
ようやく眠れると思った瞬間の絶望だ。
意識を失う寸前で叩き起こされてしまった現実に怒りさえ感じてしまう。
…とは言え。
無視をするわけにもいかないだろう。
限界を超えた体を引きずりながら扉に手をかけて来訪者を確認することにした。
「誰だ?」
問い掛けながら扉を開くと、
扉の向こうにいたのは見慣れた人物だった。
「おはようございます」
礼儀正しく頭を下げたのは御堂君だ。
先程の天城君に続いて今度は彼か。
流石の俺も今は話を断って寝てしまいたい気持ちになった。
だが、な。
数々の実験に協力してくれている彼に『眠たいから帰れ』などと言えるわけがない。
心の底からしんどい気持ちは山々なのだが、
ここは大人しく彼を室内へと招き入れるべきだろう。
「どうぞ、入ってくれ。」
「失礼します」
室内に入る御堂君をソファーへと案内する。
だが、これは危険な選択肢だったかもしれない。
彼と向かい合って腰を下ろすソファーの弾力が俺の睡魔を加速させるからだ。
…まずいな。
このままでは眠ってしまうだろう。
体力的な危機感を感じた俺は、
席を立ってお茶の準備を始めることにした。
…今更だが。
天城君と美袋君にお茶を出すのを忘れていたな。
だがまあ、いいか。
過ぎたことを言っても仕方がない。
それよりも今は完全に寝ぼけている頭を目覚めさせる為に、
熱湯を注いだお茶を一気に飲み干すことが優先だ。
それだけでかろうじて復帰する思考力。
万全とは言えないが、
まだ少しくらいは耐えられるだろう。
「まあ、お茶でも飲んでくれ。」
彼の前にもお茶を差し出した。
温度は標準だ。
飲めないということはないだろう。
「ありがとうございます」
素直にお茶に手を伸ばす御堂君が一息つくのを見計らってから大きく背伸びをしてみる。
ひとまず気持ちを切り替える事には成功した。
まだ30分程度なら頑張れるはずだ。
彼の話を聞くために体勢を整えることにした。
「さて、話を聞こうか。」
「ありがとうございます。色々とお疲れだとは思うのですが、力を封印した影響を知る為に、少し実験をお願いできないでしょうか?」
…実験だと?
彼は確かに実験と言ったな?
…困ったな。
準備だけでもそれなりの時間がかかるうえに、
測定と撤収までを考慮すれば、
午前中は完全に潰れてしまう発言だ。
もしも引き受けてしまえば必然的に、
俺が寝る事が出来るのは午後からということになるだろう。
はたしてそこまでこの体は持つのだろうか?
そんなふうに自分自身に疑問を感じるものの。
彼の希望を断る事は出来そうにない。
真面目に話をする御堂君に帰れとは言えない空気が俺の心を蝕んでいるからだ。
…仕方がないか?
諦めにも似た心境で、
彼の申し出を受け入れることにした。
「ふむ。実験は良いが、具体的にどう考えているのか聞かせてもらおうか?」
「今の自分の力でどれだけのことが出来るのか?それを確認したいと思っています」
まあ、そうだろうな。
そうとしか言いようがないだろう。
…さて、どうする?
顎に手をあてて僅かに思考してみる。
力を失った御堂君の測定となると、
重要な研究資料になりえるかもしれない。
少なくとも封印の影響がどこまで及ぶのかを知ることはできるだろう。
…天城君の考えを立証出来る可能性もある。
やってみる価値は十分にありそうだな。
「いいだろう。それでは実験室のほうへ移動しようか」
「はい」
席を立って部屋を出る俺と御堂君。
いつもの実験室へと向かうために。
ひとまず歩きだすことにした。




