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THE WORLD  作者: SEASONS
4月6日
218/1390

武装

《サイド:黒柳大悟》



「改めて話を聞かせてもらおうか…。」



まっすぐに天城君の目を見つめてみる。



彼は一体どんな疑問を投げ掛けて来るのだろうか?


そして彼はどこまで真相に近付けるのだろうか?



その回答を楽しみに感じていた。



間違いなく、彼との議論は決して無駄な時間にはならないだろう。



そんな直感が俺にはある。



だからこそ俺は持ち得る全ての知識を総動員して彼の問いに答えるつもりでいた。



「一体、何が知りたい?」



俺の言葉に反応するかのように、

彼は質問を始めた。



「聞きたいことは3つある。」



質問は3つか。


いいだろう。


聞かせてもらおう。



「一つ目は封印によるルーンへの影響だ。」



まずはルーンに関してか。


当然と言わんばかりに大きく頷いてみる。


この質問は必ずあるだろうと思っていたからな。


それは美袋君も同じようで、

別段驚くようなそぶりはなかった。



彼の話に興味があるのだろう。


美袋君は大人しく彼の言葉を聞いている様子だ。



「二つ目は、能力の多重化に関してだ。」



やはり気になるか。


この問いもくるだろうと予想していた質問だ。


力を封印して別の力を求める以上は必ず思い浮かぶべき疑問といえるからな。



すでに存在している力と異なる力を得るならば、

当然能力は『複数』になるはずだ。



「そして、最後に一つ。」



あらゆる予想を思考しながら、彼の言葉を待つ。



次に来る問いは何か?


待ち構える俺に投げ掛けられた問い。


それは俺の予想通りの言葉だった。



「三つ目はルーンの能力。その『多重化』が有り得るかということだ。」


「…え!?」



彼が発言した瞬間に美袋君の顔色が変わったのが見えた。



「ちょ、ちょっと待ってよ、総魔!!そんなの有り得ないわよ!だって、だってルーンはその人の特性が反映して発動する唯一の力なのよ!?ルーンの多重化なんて、理論上有り得ないわ!」



戸惑う美袋君の意見。


それはもっともな指摘と言えるだろう。



彼の考えそのものがルーンの定義をくつがえしかねないものだからな。



美袋君が否定したくなるのも当然だ。



確かにルーンは術者の能力を映し出す鏡のようなものであり、

唯一無二の存在だと言われている。



それがルーンの『定義』だ。



だが、本当にそうだろうか?



俺は思う。


いや、俺も思っていたと言うべきか。



彼の疑問であるルーンの能力の多重化。



それは本当に有り得ないことなのだろうか?



その疑問は俺も以前からずっと考えていた。



何かがおかしいと感じていたのだ。



だが、俺の感じる疑問は誰にも理解してもらえなかった。



俺の知る限りではもっとも有能な西園寺君でさえも有り得ないと言って考えることさえしなかった仮説だからな。



だがそれでも。


それでも俺はずっと考え続けてきた。



本当にそうなのだろうか?と。



とはいえ。


真相を解明するための研究は行えなかった。



能力を封印する者がごく少数であり、

新たなルーンを手にできたものはほとんどいないからだ。



俺の知る限りで言えば僅か数名だが、

その誰もが研究に参加できるほど時間に余裕のある者はいない。



そのせいで仮説に対する検証が行えずにいたのだが、

俺も考えていた仮説に彼もたどり着いている。



ただそれだけのことで、

俺の研究者としての魂に火がついてしまう。



「質問に答える前に一つだけ聞かせてもらいたい。」


「ああ」



どうしても確かめたかったからだ。



「何故、その仮説を考えた?」


「あくまでも可能性でしかないが、そうあることが自然だと思うからだ。」


「…だ〜か〜ら〜っ!!」


「まあ、待ちなさい。」



彼の言葉を遮ろうとする美袋君を手で制してから。



「話を聞こう。」



言葉の続きを待つことにした。



「最初は複合が正しい形だと考えた。だが、それでは『矛盾』が残る。」



…は?


…ははははっ!!



さすがだ!



彼の言葉を聞くうちに、

自分でも頬が緩んでいくのを感じてしまう。



やはり俺の勘に狂いはなかったのだ。



それが実感できた。



今まで誰も認めなかった俺の仮説と全く同じ考えを彼は持っているからだ。


その可能性を確信しながら、

話の続きを心待ちにしてみる。



「その矛盾とはなんだ?」


「極めて簡単なことだ。どんな能力を組み合わせて『一つの特性』だと言っても、それは一種の思い込みでしかない。複合した能力がどんな特性を持っているかに関係なく、元は『異なる能力』の組み合わせでしかないからだ。」



…よしっ!!



彼の言葉を聞いて、

笑顔を抑え切れなくなってきた。



やはり間違いない!



彼は俺と同じ仮説を打ち立てているのだ。



それも『寸分の狂いもなく』だ。



俺と同じ考えを持つ者の存在を実感して、

鳥肌が逆立つような感覚と共に心の中で歓喜した。



俺の仮説は正しいのではないか?


そんな期待すら感じてしまう。



「…どういうこと?私にはよく分からないんだけど?」



美袋君はまだ分からないらしい。


まあ、仕方がないだろうな。



だがこれは決して美袋君の理解力に問題があるわけではない。



西園寺君でさえも考えを放棄した話だからだ。


美袋君では理解が追いつかないだろう。



そう思ったことで、

美袋君に視線を向けてから分かりやすく説明し直すことにした。



「それでは美袋君。」



俺の呼び掛けに反応して、

彼女は俺に視線を向けてくる。



「最初に言っておこう。彼の仮説は現段階では実証不可能な話だ。だから確証といえるものは存在しない。故に実際にそうであるとは言い切れない。まずはそこを前提に聞いてほしい。」


「…は、はい。」



大人しくなった美袋君に説明を始める。



「そもそも魔術師ごとに異なる魔力の特性とは何か?きみはそれを正確に把握しているか?」


「え?特性ですか?い、いえ、正確にってなると、ちょっと…」



言葉を濁らせる美袋君だが、

その態度は仕方がないと思う。


正確なことなど誰にも分からないからだ。



それは俺にも分からない。



だが、分からないからこそ仮説を立てることができる。



おそらくこうではないかと考えるのだ。


そして実験を繰り返す。



実践し。


誤差や狂いがあれば修正を行い。


再び実験に戻る。



そうやって研究を繰り返すうちに少しずつだが真実へと近づいていけるようになる。



それが研究というものだ。



故に、翔子君のように理解が出来ていない魔術師がいるのは決して不自然なことではない。


だからこそ説明を続けることにした。



「例えばの話だが、きみのように『光』の能力を持つ場合を想定してみよう。」



仮説を説明するために、

書類の空白部分に文字を書いていく。



今回は一例として美袋君の能力である『光』を中心として、

周辺に適当に思いつく能力を書いていった。


これは何でもいい。


あくまでも可能性の話だからな。



「重要なのは『何か?』ではない。その考え方にある。」



最初に思い浮かんだ一つの能力を選んでみる。



「例えば『雷』だ。これは光とも相性が良く。翔子君にとっても潜在能力としての可能性が非常に高い能力と言えるだろう。今回は一例として、この能力が組み合わさったと仮定してみようか。」



二つの能力を丸で囲んで線を繋げてみる。



「この二つが組み合わさった時。光の特性である速度や熱に、雷の特性である帯電性や発火能力などが交わり合い。まさしく『電光石火でんこうせっか』とも言うべき特性が生まれるだろう。まさに目にも留まらぬ速さと言っても良い能力だ。」


「…あ、はい。」



美袋君は話を聞きながら何度も小さく頷いていた。


どうやらここまでは理解が進んでいるようだな。



「では次に別の可能性を考慮してみようか。例えば『炎』で考えてみる。炎と光。これも相性という意味では十分だろう。どちらも熱の特性を持ち、発火、速度、視界への影響などの幾つもの特性が考えられる。この場合でもっとも分かりやすい例を上げるなら『陽炎かげろう』や『蜃気楼しんきろう』と言えば理解しやすいかも知れないな。」



俺の説明を受けて、

翔子君は黙って頷いていた。


どうやらここも理解は出来たようだ。


だとすれば、ここからの説明は簡単だな。



「さて、ひとまず仮説はここまでにしよう」



紙とペンをテーブルに置く。


そして美袋君と向き合う。



「では聞くが、今の説明で何か思うことはあったか?」


「…え?」



問いかけてはみたものの。


彼女にはまだ難しかったらしい。



「…う~ん。…うぅ〜ん?」



頭を悩ませる姿を見て、

天城君が説明を続けた。



「さっきも言った通りだ。複数の能力を組み合わせた力を特性と呼んでいるが、それは思い込みでしかない。どんな結果が出るにしても、元は個別の能力だからな。」


「それはそうだけど…。だからって多重化とは違うんじゃない?」


「何故、そう思う?」


「何故って、だって特性は一人につき一つって教わったもの」


「何故それが『真理』だと言い切れる?それさえも仮説かも知れないとは思わないのか?」


「…えっ?」



彼の言葉を聞いて驚愕の表情を浮かべる美袋君だが、

その気持ちは俺にも十分理解出来る。



だがな。



研究者としての意見を言わせてもらうなら、

彼のように考えるのは決して不自然なことではない。



むしろ『そうかもしれない』と考える事こそが真理へと近付く唯一の方法なのだ。



だから彼の意見は間違ってなどいない。


少なくとも俺はその意見に賛同している。



「どんな特性だとしても、元となる力は術者の意志で操れるはずだからな。だからこその能力だ。だとすれば、能力の多重化という理論は正しいはずだ。」



確かにそうだ。


俺もそう考えている。



「俺も同じ意見だ。その上で言わせてもらうならば『複数の能力の複合化』を特性と呼ぶべきだと考えている。つまり、能力を統合せずに個別に発動出来るのなら二種類の…いや、複数の能力を持った別々のルーンを作り出す事も可能なはずだ。」



あくまでも仮説だがな。


だが俺も天城君と同じ仮説を立てている。



もしも力を封印した状態で新たなルーンが作れるとしたら?



封印の解除後に第二のルーンと第一のルーンの両方が使用できるはずだ。



それこそがルーンの多重化の理論になる。


もちろんこれはまだ可能性の話だ。



封印を解除した時点で二つのルーンが結合されて第三のルーンが出来上がる可能性もあるからな。



その可能性もあるのだが。


個別に発動できれば多重化の理論は否定できないだろう。



とは言え。


そこまで検証できた者は現時点では存在しない。



俺が知る限りで指輪を所持している人物は僅か7名だけだ。


そのうち、第二のルーンを手にした人物は2名しかいない。



その一人が美由紀だが、

もう一人は引退して隠居状態だと聞いている。


どちらも研究に参加してくれないために実験できずにいるのが現状だ。


それでもここまでの仮説を聞いたことで、

ようやく美袋君の理解も追いついてきた様子だった。



「つまり、一人で何種類ものルーンを扱えるということですか?」


「仮説でしかないが理論上はそういうことになるだろう。もっとも、ここで重要なのは複数所持ではなくて、単一のルーンであっても自由に能力を切り替えることが可能であるということにある。」


「能力の切り替え、ですか?」


「簡単に言えば翔子君のパルティアだが、現段階では『光』の属性を持っているはずだ。だが、能力の切り替えが可能であるなら『雷』や『炎』というふうに自在に使い分けが出来るはずだ。もちろん複合化した能力も発動できるだろう。」


「ん~。でもそれって意味があるんですか?」


「分からないか?これには大きな意味がある。」



再び紙とペンをにぎりしめて説明を続けることにする。



「ルーンに決まった形はない。つまり、どんな形状であっても良いと言うことだ。これを踏まえた上で説明を続けるが、仮に武器を作り出したとしよう。この武器は当然、相手を傷つけることが出来る。」



手始めに紙に人の形を書いて、

その手に武器を持たせてみた。



「次に服を作り出してみよう。仮に『吸収の能力』を持つとする。これによってあらゆる魔術が服の力によって吸収される。」



そして次に靴を描く。



「仮に『風』とでもしておこうか。この特性により、空を飛ぶ、あるいは加速できる等の効果を期待出来るとしよう。」



説明を続けながら、

次々と絵にルーンを加えていく。



その流れの中で徐々に顔色を変えていった美袋君は、

ようやく俺や天城君の意図するところに気付いたようだ。



「これって…まさか…?」


「分かるか?ルーンによる『武装』。それが可能になるということだ。これは単一の能力では有り得ないことだが、複数の能力が存在することを前提に考えれば極々自然な結果だとは思わないか?」


「確かに、実現出来るなら凄いとは思いますが…」



言いよどむ美袋君はまだまだ納得出来ていないようだな。


理解は出来ても受け入れるには突飛過ぎるというところだろう。



「あくまでも仮説でしかない為に実証は出来ない。これを実証出来るのは、おそらくきみ達だけだからな。」


「…どういうことですか?」


「先程も言ったが、現在この学園において封印の指輪を所持しているのはきみ達だけだ。米倉美由紀もそうだが、彼女は封印を解除するつもりがないからな。故に実験が出来ない。だから仮説を実証する為には、きみ達自身が能力を開発して複合化と多重化の理論を実証するしか方法がないということになる。」


「つまり、分からないということだな?」



天城君の指摘によって、俺は小さく頭を下げた。



「…すまない。俺も同じことを考えてはいたのだが、それだけの力を持つ者がここにはいないのだ。もちろん俺自身が検証を行えれば話が早いのだが、俺も常盤君同様に水晶玉が反応しなかったからな。指輪を使って実験することさえできないのだ。残念だが、その仮説に関してだけは手助け出来ないことになる。」


「そうか…。」



俺の弁明を聞いたことで、

天城君は僅かに肩を落としたように見えた。



「役に立てなくてすまないな。」


「いや、俺の仮説に賛同してくれただけでもありがたいと思っている。」


「そうか。そう言ってもらえるなら何よりだ。」



頭を上げて天城君と向き合ってみる。



「残念だが最後の質問には答えられない。だが、他の質問には答えよう。」



全てを解決することは出来ないが、

答えられる内容を伝えるために話を戻すことにした。



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