それぞれの方角
《サイド:常盤沙織》
学園の校門に到着しました。
今は翔子と二人きりです。
家から歩いて学園に帰ってきたのですが、
校門をくぐり抜けてから校舎に向かう途中で翔子が足を止めてしまいました。
「どうしたの?」
「え~っと…」
翔子は照れ臭そうな表情を見せながら、
寮がある方角を指差しています。
ですが、そちらは私達の部屋がある女子寮ではありません。
龍馬達が住んでいる男子寮の方角です。
…と、言うことは。
どうやら翔子は男子寮に行きたいようですね。
「彼に会いに行くの?」
「うん。色々と話したいこともあるしね。」
…ああ、うん。
そうね。
確かにその方が良いかも知れません。
私はともかく、
翔子や龍馬が天城君と話がしたいと思うのは当然です。
指輪の件があるからです。
翔子は天城君に会いに行くつもりのようですね。
そうなると、私も翔子について行くべきでしょうか?
挨拶くらいはしたいと思うのですが、
他にこれといった用事はありません。
それなのに意味もなく押しかけるというのも変な感じですよね?
今日は監視も試合もありません。
翔子も彼も今日一日は休暇扱いなので何も出来ないからです。
ですから、翔子についていくのは諦めました。
…それに。
私も気になっている人がいます。
天城君と同じように力を失った龍馬は今どうしているのでしょうか?
それを確かめたいと思うからです。
時間的に考えれば天城君はまだ寮にいるかも知れませんが、
龍馬はすでに校舎にいる可能性が高いと思います。
龍馬は毎朝、校舎の屋上にある特風会に向かうからです。
毎日送られて来る報告書に目を通すのが日課になっていますので、
今から寮に向かってもおそらくいないと思います。
だから私達は別行動をとることにしました。
「私は一度校舎に向かうわ。たぶん龍馬はそちらにいると思うから」
「あ~、確かに。龍馬なら向こうっぽいよね?じゃあ…」
翔子は校舎と男子寮がある方角の両方を交互に見比べてから私に振り返りました。
「私は向こうに行くね。一度見失うとなかなか会えそうにないし。」
ええ、そうね。
私もそう思います。
ため息を吐きたくなる翔子の気持ちは私にも分かるからです。
彼の行動は読めません。
一度見失うとなかなか会えない気がします。
実際に捜索したことがありますので、
翔子の気持ちは私にも分かります。
一度でも機会を逃せば、
一日中でも会えない可能性がありえるのです。
「彼に会いに行くのはいいけれど、そのあとはどうする?今日も集合するの?」
「う~ん…。」
確認のために尋ねてみたのですが、
翔子は首を傾げながら小さく唸っていました。
どう見ても困っているようにしか見えません。
…まあ、仕方がないわね。
翔子が何を悩んでいるのかは聞くまでもないからです。
「総魔がどうするか分からないから、約束は出来そうにないかな~?」
「ふふっ。そうね。」
やっぱりそういうことでした。
天城君に関して私達が予定を組むのは難しいと思うからです。
はっきりと拒絶されることはないかもしれませんが、
こちらの意図通りに動いてくれるとは思えません。
「それじゃあ、お昼にでも時間が合えば食堂で会いましょう。」
「おっけ~♪」
元気よく返事をしてから、
翔子は私から離れて行きました。
「じゃあね~!」
「ええ」
お互いに手を振りながら、
それぞれの方角へと歩きだします。
駆け足で去っていく翔子。
その後ろ姿を見送りながら、
私も校舎へと急ぐことにしました。




