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THE WORLD  作者: SEASONS
4月2日
19/185

連戦1

先ほどの試合からおよそ2時間後。


次にたどり着いたのは第9検定試験会場だ。



「8001番の天城総魔だ。試合がしたい」



これまでと同様に受付で申請する。


そして差し出された参加者名簿を係員から受け取った。


当然だが今回も会場内にいる生徒全員の名前が書かれているようだ。



この会場には7000から7999番までの生徒が集まっているらしい。



「あ~。新入生の方ですね。それなら少しだけ説明させていただきます。」



生徒手帳と制服の色によって気づかれたのだろう。


受付の男性係員が笑顔で対応してくれた。



「この会場から5番までの会場が中級となり、本格的な試合が経験できると思っていただいて問題ありません。その上となる第2から第4会場は上級者用となります。第1会場は最上級でこの学園の精鋭といったところですね。」



現状は初心者を抜けただけの中級の入り口ということだ。


ここから上級に向かって進み、

目標となる最上級にたどり着くためにはどれほどの努力が必要になるのだろうか。



「先は長いな。」


「ははっ。そうですね。まずはここでしっかりと実力を磨くことをお勧めしますよ」



警告ではなく忠告。


純粋な努力を勧められてしまった。



「ここからが本番だと思ったほうがいいでしょうね。」



…なるほど。



事実そうなのだろう。


ここまでの試合のすべてが楽勝だったわけではないが、

ここから先は十分な実力を持つ生徒が相手だと思うべきだ。



「忠告に感謝する。」


「いえいえ、頑張ってください。」



にこやかに微笑む係員に感謝しながら受け取った一覧に再び目を通す。


対戦相手の全ての生徒が格上のため、

受け取った参加者名簿には会場内にいる全ての生徒の名前が記されている。



現時点ではどの生徒でも選べるわけだが、

ここは素直に係員の提案を受け入れるべきだろう。



まずは少しだけ番号が上の生徒を指名することにした。



「7978番、佐野下恵さのしためぐみさんですね。本日はまだ下位対戦を行われていませんので挑戦を許可します。試合場C-1へ移動してください」


「ああ、わかった。」



受付で指示を受けてからすぐに試合場に向かおうとすると。


再び誰かに見られているような気がした。



…やはりいるようだな。



一時的に離れていた監視役の人物だったが、

おそらく昼食を終えて戻ってきたのだろう。


予想はしていたが迷うことなくこの場所にいるということは、

やはりこちらの行動を先読みして試合だけを監視するつもりなのかもしれない。



そしてあくまでも実力の調査が目的だとすればそれほど気にする必要はないだろう。



試合を見られるだけなら周囲にいる生徒達と何も変わらないからな。


観察の対象が特定の人物か不特定の人物かという違いがあるだけで見られることに違いはない。


そう考えれば特に気にならなくなってくる。


それに現時点での推測が正しければおそらく学園の寮には監視がないはずだ。


同様の理由によって食事中や学園内を散策中も監視の目が弱まっているのだろう。



試合だけが目的だとすれば実力の調査くらいは好きにさせておけばいい。


尾行は放置して目的の試合場に向かう。


その移動途中でちょっとした変化に気づいた。



…なるほど。


…だからこそ中級ということか。



各生徒の実力が上がっているからだろう。


今までよりも試合場が広くなっている。


これまで40メートルほどだった試合場が、

60メートルほどに広がっているからだ。


目測ではあるが1.5倍になる。


これまで以上の魔術が使用されることを前提にしていると感じさせる規模だった。


少なくともこれだけの広さがあれば、

大規模な魔術を使用しても自滅する可能性は低そうに思える。



その分、試合場の数は減ってしまっているのだが、

それでも50近くはあるようだな。


縦横に7つずつ。


合計49の試合場がある。


一斉に試合を始めても100人近い生徒が対戦できることを考えれば決して少ない数ではないだろう。




すでに待機していた審判員と共に対戦相手の到着を待っていると、

しばらくしてから佐野下恵が現れた。



「佐野下恵です。よろしくお願いします。」



それほど番号が離れていないからだろうか。


今回の対戦相手となる恵はこれまで戦ってきた篠田や江利香とは違って、

こちらを見下すような話し方はしてこなかった。



とはいえ、制服を見ればお互いの学年がわかるからな。


向こうは俺が新入生だと気づいているだろう。



それでも成績が重視される学園の方針のせいか険悪な雰囲気は感じられない。



「………。」



黙って試合場に立つ俺と控えめに歩みを進める恵。


二人が試合場で向き合うと、最後に審判員が歩み出てきた。



「それでは試合を始めます。両者共に、準備はよろしいですね?」



最終確認をとる審判員に向かって二人揃って頷く。


審判員は堂々とした動きで右腕を頭上に掲げた。



「試合、始めっ!!」



勢いよく右腕を降り下ろしながらの号令。


その合図によって恵は即座に魔術の詠唱を開始していたが、

こちらからは攻撃せずに相手の様子を見る事にした。



…まずは実力を見せてもらう。



相手の実力を見定めつつ、

自らの実力を底上げすることが目的だからな。



今は一つでも多くの魔術を覚えることに集中するべきだ。



そのために。



試合が始まっても自分からは動かないでいた。



ただじっと様子を見て相手の動きを観察する。



その間に恵の魔術が完成したようだ。



「アイス・クラッシュ!!」



氷の魔術。


恵の右手から放たれた氷塊は試合場の中心付近まで飛び、

突如として勢いよく炸裂した。



…炸裂弾か。



勢いよく弾けて多方面に降り注ぐ氷の粒。


広範囲に広がる氷の散弾は数が圧倒的に多いものの。


一つ一つは小さな粒なのであまり高威力には思えない。


だがそれでも、速度と命中に関しては間違いなく氷柱吹雪よりも上だろう。



初めて目にする新たな魔術の対応策を考る。


そして即座に迎撃のための魔術を詠唱する。



…今は速度が最優先だな。



詠唱したのは最速の迎撃魔術だ。


利便性という意味ではかなり上位に入るであろう魔術を先程の試合で手にいれていた。



「ウインド・クラッシュ」



風を生み出すだけの簡単な魔術だ。


だからこそ瞬間的に発動できるうえに幅広い応用が効く。



「つぶて程度なら、これで十分だ。」



迫り来る氷の散弾を全て吹き飛ばした。


単純な考えではあるが、

だからこそ魔力もそれほど消費しない。



そのうえ上手くいけば相手に魔術を反射できる。


あらゆる利便性を考慮しながら氷の粒を吹き飛ばしてみると、

初撃の氷の魔術があっさりと阻まれた恵は次の魔術を放ってきた。



「並みの魔術では効果がなさそうですね。だったら、ファイアー・ボール!!!!」



次に放たれたのは炎の球だ。


高速で迫る炎の大きさは直径50センチを優に越える。


かなり大型の炎だ。



範囲攻撃だったファイアー・ウェーブの火力を一点に集めたかのような強力な炎。



これは突風程度で吹き飛ばせるような容易いものではないだろう。


それどころか逆に炎の勢いを強めかねない。



…ここは回避か。



迎撃に適した魔術がないと判断して即座に炎の玉を回避する。



…いや、まだだ。



今回は余裕を持ってさらに後退しておく。


ただの直感だが、

少し距離をとるべきだと感じたからだ。



どの程度の威力があるか分からないからな。



全力で後方に下がって着弾点から距離をとる。


わずか数秒間で逃げ切れる距離は決して広くはないが、

それでも開始線から4メートルほど離れられただろうか。



先程まで立っていた地面に炎の球が着弾すると同時に、

大きな火柱が天井に向かって吹き上がった。



…安全策をとって助かったか。



着弾と同時に炎上する魔術。


まともに受けていれば一撃で倒れていただろう。



気力だけで耐えられるような威力ではない。


それほど強力な攻撃だったのだが、

事前に大きく回避したおかげで被害はなかった。


強いて言うなら熱風を受けて呼吸が辛くなった程度か。



「大した魔術だな。」



思ったことを素直に言葉にしてみたのだが、

恵は少しだけ表情を歪めてから静かにため息を吐いていた。



「はぁ…。ちょっぴり悔しいですね。この距離だと単発魔術は回避されてしまうし、かといって範囲魔術では弾かれる、ですか。」



攻撃が通じないことを悔しく思ったのだろうか。


ブツブツと不満の言葉を呟いてから再び魔術の詠唱を始めた。



「それではこの魔術で…っ!!」



思案を止めた恵が新たな力を発動させる。



「ウォーター・ミスト!」



魔術名が宣言された直後。


痛くもかゆくもないただただ純粋な白い霧が試合場全域に立ち込めた。



霧を生み出してどうするつもりなのだろうか?



意図が読めない。



そう思った次の瞬間。


恵は全ての魔力を出し尽くす勢いで必殺の一撃を放ってきた。



「審判員さん、ごめんなさい。ライジング・スパーク!!」



…雷撃か!



それは一筋の雷だった。


だがこれは先程の試合で江利香が使用していたような擬似的な範囲攻撃ではない。


これは単体の魔術として完成された真の雷撃だ。



…くっ!!



危険を察知した瞬間。


それはもう手遅れに近かった。


試合場内全域を覆う霧の中では逃げ場の無い強力な雷撃が瞬く間に拡散して広がってしまう。


そのせいだろう。



「くぁっ!?」



両者の間にいた審判の悲鳴が真っ先に試合場に響き渡った。


そして瞬く間に広がる雷光が俺の体にまで届くのとほぼ同時に、

辛うじて迎撃の魔術が間に合った。



「氷柱吹雪!」



雷撃が届くよりもホンの一瞬だけ、

わずかに早く完成した魔術が発動した。



だが、吹雪は恵に向かわない。


俺の周囲で停滞しているからだ。



「…何とか間に合ったな。」



吹雪を周回させて氷柱を集めた。


氷の結界を造り上げることで雷撃を無効化するためだ。



「くっ、氷の結界ですか。」



周囲に氷の結界が完成した。


もはや雷撃は意味をなさない。



互いの魔術がぶつかり合ってから数秒後。


雷撃が静まるのと同時に恵は忌々しそうに氷の結界をにらみ付けてきた。



「上手くいったと思ったのに…っ」



氷は電気を通さない。


その事実に気付かされた恵は即座に次の魔術を発動させようとした…のだが。



「…はぁ。」



何故か動きを止めてしまっていた。



「この試合が今日の初戦だったら、と思うこと自体が言い訳ですね…。」



高位の雷撃魔術で全ての魔力を使い果たしたのだろう。


攻撃手段を失ったことで立ち尽くしてしまっている。



「もう手詰まりです。」



どうやら諦めたらしい。



事前に試合を行っていたせいで魔力を消耗していたなどと言い訳をしたところで試合結果は覆らないからな。


先ほどの雷撃で魔力を使いきったために、

これ以上の魔術は使えないのだろう。


動きを止めて立ち尽くしてしまった恵を見て、

氷の結界を砕くことにした。


そして左手を突き出して問いかける。



「一応聞くが、諦めるのか?」



すでに戦う意思を失った恵を見つめながら、

もう一度問いかける。



「敗北を認めるのか?」


「…ええ。私の負けを認めるわ。」



問いかけながらも魔術の詠唱を行う俺の姿を見ていた恵は素直に敗北を宣言した。


まだ一度も攻撃をしていないのだが、

戦いになる前に降参してしまった。



「…し、勝負あり、勝者、天城、総魔っ」



雷撃の影響に巻き込まれた審判員が自らの役目を遂行するために言葉をとぎらせながらも試合終了を宣言したのだが、

その直後に気を失って倒れてしまったようだ。


そんな審判員の様子を申し訳なさそうに眺めていた恵は俺にも頭を下げてきた。



「ごめんね。中途半端な結果になってしまって…。」


「いや、十分だ。」



それなりに楽しめた。


恵にとっては悔いの残る試合であっても、

俺にとっては新たな魔術を幾つも目にすることができた満足できる内容だったからな。



「機会があればまた戦おう。」


「ええ、そうね。」



少し落ち込んだ表情で試合場を去っていく恵の後ろ姿を見送ってから俺も試合場を離れる。



今はただ次の試合に進むだけだ。


恵との試合に勝利したことで、

受付に戻ってからすぐに次の対戦相手を選ぶことにした。


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