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THE WORLD  作者: SEASONS
4月5日
182/185

地震

《サイド:御堂龍馬》



…勝った!!!



今まで全力で攻撃出来る機会がなかったから

どこまで威力が出せるのかは自分でも知る機会がなかったけれど。



天城総魔に放った一撃は間違いなく過去最高だったと自負できる威力があった。



そのせいで試合場を守る結界まで吹き飛んでしまったけれど。


それほどの威力を込めなければ倒せなかった相手だったと思う。



中途半端な威力では通じないからね。


むしろ魔力を奪われてしまったら逆に危険な状況を招いてしまうことになっていたはずだ。



そうならないためには彼の能力を上回る一撃を叩き込むしか方法がなかった。



「これで、決まりだ。」



大技を放った直後で、

まだ状況が確認できないけれど。


彼が反撃してこないことを考えれば致命傷を与えることには成功しているはず。



試合場が崩壊して地面に大穴が開くほどの破壊力だ。


これだけの攻撃を零距離で受けた以上。


無事でいられるわけがない。



少なくとも僕なら耐えきれる自信がない。



「…だけど、念には念を、かな。」



最後まで油断しないために。


瞬時に後方へと身を引いて反撃に備える。



そして。


もくもくと粉塵が立ち込める破壊地点から数メートルほど後退して状況を確かめる。



…どうなっているのかな?



彼がまだ戦えるのかどうか?


その確認を取るまで気を抜くことはできない。



…倒れたのか?



1秒、2秒、3秒と経過していくものの。


崩壊した穴の下から出て来る気配は感じられない。



…もしかして今の一撃で倒れてくれたのか?



期待はするけれど。


まだまだ警戒を緩めることはできない。


結果を確認するまで油断できる相手ではないからね。



…まだ分からない。



動くのか?


動かないのか?



破壊地点を見据えたまま。


油断する事なく聖剣を構えて、

姿の見えない彼の動きに気を配る。



…どっちなんだ?



じっと様子を見守り続け。


汗ばむ手で聖剣を握り直そうとした次の瞬間に。



突如として会場全体が揺れるほどの大きな地震が発生した。



…う、うわっ!?


…何が起きているんだ!?



まともに立っていられないほどの地震だった。



いや、それだけじゃない。



地震の揺れが急速に拡大して。


検定会場そのものが悲鳴を上げている。



各地からバキバキと崩壊する音が鳴り響くほどの震動。


これほど大きな揺れは今まで一度も経験したことがなかった。



「…な、何だ!?何が起きているっ!?」


「「…きゃあああああああっ!!!」」



驚いているのは僕だけじゃないようだ。


離れた場所で観戦している黒柳所長や翔子達でさえも踏みとどまることができずにしゃがみこんでいた。



「「「う、うわああああああっ!!!」」」



会場の係員や他の観客達も同じような状況だ。



…くっ!



さすがに立っていられない状況だった。



ひとまず聖剣を床に突き立てて必死に体勢を保ってはいるけれど。


立ち上がることはできずに片膝をつくのが精一杯の状況になる。



…この揺れは、まずいんじゃないか!?



振動が弱まる気配は一切ない。


そして今も会場の各地から異音が鳴り響いている。



もしもこのまま地震が続けば天井が崩落するかもしれない。



…だけどっ。



今はここから動けない。


地震が強すぎて立ち上がれないんだ。



もしもこの状況で会場が倒壊すれば、

僕だけじゃなくて観戦者達も無事では済まないと思う。



離れた場所で観戦している翔子達でさえ避難できない状況なんだ。


誰もがその場に座り込んでしまうほどの大地震。


この状況では身を守る手段も限られている。



…耐え凌ぐしかないっ。



いざとなったら天井に向けて攻撃して崩落する屋根を破壊するしかない。


それほど危険な状況だから、かな。



黒柳所長や職員達は全員が地に伏せるかのような体勢で震動に耐えている様子だった。


そしてその表情は不安と焦りに満ちているように見えた。



…さすがにこれは、違うようだね。



少し疑ってしまったけれど。


さすがにこの地震は黒柳所長達が仕掛けた罠ではなかったらしい。



もしもそうならこうなる前に逃げているはずだからね。


少なくとも戸惑うような表情は見せないはず。



だから地震が無関係なのは黒柳所長の行動を見ればすぐに分かった。



…とは言っても。



何が起きているのか把握しきれない状況だ。


誰もが試合場の一点へと視線を向けている。



…だとしたら?



残る可能性は一つしかない。


この地震を起こしている人物は一人しか考えられない。



…だけど。



崩壊した試合場に開いた大穴に肝心の彼の姿はまだ確認できない。



それでもこの場にいる誰もが確信しているはずだ。



この地震は自然現象ではなく、

彼の魔力によって引き起こされていると誰もが理解しているはず。



…だとすれば。



彼はまだ倒れていないということになる。



全力で放った一撃出さえ彼を倒せなかったということだ。



…急いで追撃を仕掛けないと。



早急に対処しなければいけない。


時間を与えれば与えるほど彼は力を増大させてしまうから。



怪我の治療と圧縮魔術の保管。


それらを防ぐ方法は攻撃を続けることだけだ。



彼の行動を封じる方法はそれしかない。



「何を企んでいるのかは知らないけれど、嫌な予感しかしないね。」



危険を感じるからこそ、

早急に打って出なければ間に合わない。



「あと一撃、入れてみせるっ!」



聖剣を支えにしながら懸命に立ち上がろうとするけれど。


僕の判断は既に遅かったらしい。



様子を見ている時間が長すぎたのかもしれない。



追撃を決めた時にはすでに彼が動き出そうとしていたからだ。



僕の予想を超えて。


彼は動き始めていた。



「そ、そんな…っ!?」



自分の目で確認したことが信じられなかった。



今、目の前にある現実。


それが信じられなかったんだ。



…どうして!?



驚愕が困惑へと変わり。


攻め込むことさえ忘れて呆然としてしまう。



「どうしてなんだっ!?」



そんなはずはないと思いたい。



けれど。



目に見える現実は僕の予想から大きくかけ離れている。



崩壊して出来た大穴から、彼が出てきたからだ。



それも、最悪の状態で。



純白の翼が現れたのはまだいい。


魔力さえあれば再生は可能だから。


だから疑問は感じない。



だけど。



天城総魔本人に関してはそうじゃなかった。



ほぼ密着状態という至近距離で最強の一撃を放っていたんだ。


威力が高すぎるという理由で今まで一度も試合で使うことができなかった切り札。


数千数万に及ぶ高威力の散弾魔術ジャッジメントを一点集中させて放つグランドクロスは彼のアルテマに匹敵する威力があるはずだ。




当然、無傷でいられるはずがない。



…それなのに。



大穴から姿を見せた彼の姿に負傷した様子は見られなかった。



…なぜだっ!?



彼に気付いた観客達も驚きを通り越して恐怖を感じているように思える。



誰もが表情を引きつらせているからだ。



…僕だって気持ちは同じだけど。



それよりも目の前の現実が理解できなかった。



翼をはためかせながら。


大穴からゆっくりと浮上する彼からは恐怖しか感じられない。



傷一つ見られない彼の異常性。


彼の存在そのものが見る者全てに恐怖を与えていると感じられてしまう。



…僅かな時間で治療したと言われれば納得できなくはないけれど。



制服の各所はあちこち破れているのにグランド・クロスによる被害は無さそうだった。



魔術で治療したのは間違いないと思う。



だけど魔術を発動させた形跡を感じなかったことが気になる。



…まさか?



本当に無傷で耐え凌いだのだろうか?



霧の結界は消失している。


けれど彼の手にはしっかりと魔剣が握られている。



…ん?


…あれは何だ?



魔剣に違和感を感じる。



魔剣そのものが彼の手にあることに不自然さは何もない。


だけど魔剣が放つ雰囲気が先程と違うように思えてしまったんだ。



…いや、まてよ?



まさか?


まさかっ!?



先程の一撃。



グランド・クルスは間違いなく僕が放てる最強の一撃だった。



だけど。


その一撃を放つ時に。


僕は何をしていただろうか?



…くっ!


…しまった!



ずっと。


ずっと彼と斬り合っていたんだ!!



至近距離で互いの剣をぶつけ合っていた。



物理攻撃が無効化される試合場では当然、

全ての魔術が魔剣と激突することになる。



…魔力を喰われていたんだっ!!!!



試合場が崩壊したのは魔剣が制しきれなかった余波が原因だったのかもしれない。


あるいは彼だけを守って衝撃の全てを試合場に受け流したのかもしれない。



どちらにしても彼自身には届いていなかったということになる。


制服が破れているのは試合場が崩壊した衝撃を受けたからだろうか?



かすり傷程度はあったのかもしれないけれど、

その程度なら簡易の回復魔術でも対処できてしまう。



…つまり。



僕の攻撃は不発だったということだ。


その事実に気づいたことで即座に迎撃の準備を整えようと考えたけれど。


今もなお収まる事のない地震の影響でまともに立ち上がれない状態が続いてしまっている。



…上を抑えられてしまったか。



彼は翼をはためかせながら浮遊している。


空を飛ぶ魔術、ではないと思う。


おそらく風魔術で浮かんでいるんだと思う。



…理解は出来ても真似をするのは難しいかな。



補助系が苦手、とまでは言わないけれど。


飛行魔術なんて簡単にできることじゃない。


少なくとも僕は一度も見たことがないし、

どういう方法で浮力を維持しているのか想像も出来ない。



…真似ができる人がいるとすれば。



たぶん沙織くらいだろうね。


僕では無理だ。



彼の姿を見上げながらも身動きひとつ取れなかった。



「これから、何をするつもりなんだ…?」



呟いた僕の声は届いていなかったはず。


だけど彼は僕の戸惑いを察して話しかけてきた。



「正直に言って驚いた。まさかこれほどの力を持っているとは思っていなかったからな。もう少し早い時点で今の攻撃を受けていたら、魔力が足りずに光に飲み込まれていただろうな。」



…魔力が足りずに?



彼の言葉を聞いて、

さらなる答えに気づいてしまう。



…くっ!


…やっぱりそうだったのか!



彼の発言によってようやく気づくことができた。


さっきの接近戦において、

霧の内部にいたことを思い出したからだ。



…防御に必要な魔力を与えていたんだっ!



力づくで押さえ込めると考えて、

霧の内部にとどまったのが失策だった。


魔剣の防御能力と霧の吸収能力を甘く見ていたんだ。



「僕の魔力を…奪ったんだな!?」


「ああ、そうだ。そして驚異的な力を持つお前に敬意を表して、俺も俺の持つ力を見せよう」



宣言した直後に彼の体が光り輝きだす。



…くうっ!!!



あまりの眩しさに一瞬目を閉じてしまった。



…まずいっ!?



今、敵対している人物は目を逸らせるような相手ではない。



一瞬の油断が敗北に繋がってしまう。



どこだっ!?


どこにいるっ!?



慌てて目を開けた瞬間にはすでに彼の姿が消えていた。



…見失った!?



彼が姿を消したと思った。


だけど実際にはそうじゃなかったようだ。



…違うっ!


…下だっ!!



ただ単に彼が移動しただけだと気付いて即座に視線を下へと下ろすと、

天使の翼を広げる天城総魔は地面に降り立っていた。



…くっ!



反応が遅れてしまった。


今の一瞬で攻撃を受けていたらまともに対応できなかったはずだ。


それなのに彼は攻撃を仕掛けてこなかった。



「余裕を見せているつもりかい?」


「…いや、違う。ただ単純に魔剣で切かかるだけでは本気の一撃とは言えないからな。最後の一手を完成させるために準備を整えていただけだ。」



…準備?



一体何をするつもりなんだろうか?


自信を持って宣言する彼の言葉から虚言は感じられない。


本気で何かを仕掛けようとしているのを感じてしまう。



ただ一人。


地震の影響を受けていない彼が魔剣を構える。



「…さあ、これで終局だ。」



魔剣を構えながら翼をはためかせる。



そして。



瞬時に加速して崩壊した試合場を突き進む。



地面スレスレを高速飛翔する姿は飛燕そのもの。


黒い闇が迫る姿からは殺意すら感じる。



「速いっ!?」



中を舞う彼に対して、

僕は地震の影響で自由に動けないままだ。



どちらが優勢かは考えるまでもない。



…回避できないっ!


…それならっ!!



受け止めるしか選択肢はない。



…まだだっ!



「まだ負けたわけじゃないっ!!!!」



床に突き立てていた聖剣を引き抜いて全力で横に薙ぐ。


その迎撃は運良く魔剣を弾くことに成功して身を守ることができた。



だけどそれは一度だけだ。



聖剣という支えをなくしたことで地震に耐え切れずに体勢を崩して片手をついてしまう。



…ダメだっ!



足場が悪すぎる。



ただでさえ自分の攻撃によって試合場が崩壊してしまったために足場が限られている。


この状況で地震による足止めを受ければ身動きなんて取りようがない。



急いで対処しなければいけないのに。


何も思い浮かばなかった。



僕にできる対処法は何一つない。


試合場を元に戻すことなんてできないし。


地震を止める手段さえない。



聖剣を試合場に突き立てても地震は止まらなかった。


となれば、かなりの魔力を消費することを覚悟の上でもう一度攻撃を仕掛けるしかない。



…今度は会場そのものを吹き飛ばすつもりで力を解放するしかない!



そうしなければ地震を止めることができない。



左手だけで聖剣を構えて試合場に向ける。


再びグランド・クルスを発動させる。


だけど聖剣の力を解放する前に彼が攻め込んでくる。



…無理だっ!!!



地震に意識を向ける余裕がない。


上空からの攻撃は驚異だ。


それはもう断罪の刃とさえ言える。



一瞬でも視線を逸らせば瞬く間に首が跳ね飛ばされかねないと感じるほど容赦のない一撃が襲いかかってくるからだ。



…まずいっ!



一方的に追い込まれていく。


切り結ぶ度に徐々に追い込まれてしまう。



片手だけで彼の勢いを止める事は難しく。


思うように動けない焦りが、

余計に動きを緩慢にしてしまう。



…捌ききれない!



徐々に迎撃が遅れ始めたことで、

彼の攻撃に反応できなくなっている。



「ここまでだな。」


「…しまっ!?」



背後に回りこまれた瞬間に敗北を覚悟した。



『ザシュッ!!!』



「ぐ…あっ!?」



魔剣で背中を斬られてしまった。


この一撃は致命傷になってしまう。



防ぎきれなかった一撃。



負傷と同時に急速に奪われていく魔力。


たった一撃で3割以上もの魔力が奪われてしまった。



…くっ!



視界が一気に歪み始める。


思考が乱されて意識が朦朧とする。



…さすがにきついっ!



だけど。



「…まだだっ!!」



気力を振り絞って無理やり意識を覚醒させる。


残り僅かな魔力で状況を打開しようと思うけれど現状で出来ることは限られている。


この地震を止めないことにはまともに立ち上がることさえ出来ないからだ。



…どうすれば良い!?



迷う間にも彼は迫り来る。


何とか時間を稼いで隙をみつけるしかない。


背中の傷の治療と並行して、

足止めのための魔術の詠唱を始めてみる。


その間にも彼は攻撃を仕掛けてくるけれど。


最後の悪あがきとして聖剣を振り回し続けることしかできなかった。



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