災害級
《サイド:黒柳大悟》
…ちっ!!
まさか、これほどとはな。
試合を傍観している研究員達の表情にも焦りの色が浮かんでいるのが見える。
だが、その気持ちは十分過ぎるほど分かっている。
俺も同じ心境だからだ。
職員達にとっても。
もちろん俺にとっても絶対の自信を持っていたはずの防御結界だというのに。
それが今、目の前で破られようとしているのだ。
長年の苦労の末に築き上げてきた成果があっさりと崩壊しようとしている。
この状況を見て冷静でいられるわけがない。
そして何より問題なのは、
御堂君の攻撃の『余波』だけで結界が崩壊しかけているということだ。
現時点では天城君の魔剣のおかげで御堂君の聖剣の効力は低下している。
だからこそ結界が受ける影響は減少しているはずなのだが。
それでも時間稼ぎ程度でしかない。
もしも彼等が本気で立ち向かえば試合場を包み込む防御結界など紙にも等しい存在ということだ。
…これは、予想以上だなっ。
今まで御堂君が全力で戦うことは一度もなかった。
学園2位の北条君との試合でさえ力を抑えて戦っていたからだ。
その理由は結界がもたないからなのは周知の事実ではあったのだが、
それでも俺は信じようとしていた。
現状の結界でも御堂君の攻撃に耐えられるはずだとずっと信じていたのだ。
それなのに。
現実はそうではなかった。
…この一戦のためだけに、学園に蓄積している魔力の半数を集約して消費しているのだぞ!?
それなのに防げないなどということがあるのか?
天城君への対抗策の一つとして。
拘束結界の準備とは別に、
通常の防御結界の出力も密かに通常の5倍に設定していたのだ。
これまで何度も天城君のアルテマによって防御結界が吹き飛ばされていたからな。
今回の最終決戦を考慮して出力を上げていた。
多少強引でも防御結界の性能を理論上可能と思われる限界ギリギリまで強引に引き上げていたのだが。
それでも御堂龍馬の攻撃を抑えきれていないことが証明されてしまっている。
この状況はさすがの俺も考えられない展開だった。
…どちらもバケモノだ!!
御堂君の破壊力は異常だ。
だがそれほどの攻撃を捌き続けている天城君も異常と言える。
…衝撃の余波ではなく、直接攻撃を受けているのだぞ?
その威力は防御結界が受けている余波とは比べ物にならないはずだ。
現在結界が受けている衝撃は聖剣の攻撃に比べれば10分の1にも満たないだろう。
それほどの攻撃を天城君は受けきっているのだ。
どちらも人の限界を遥かに超えているように思えてしまう。
…だから、か。
だからなのかもしれない。
美由紀が恐れるのも当然だ。
今さらと言われるかもしれないが、
今になって自覚できた。
なぜ代表にまで上り詰めた美由紀がたかが一生徒にここまで怯えるのかをようやく理解したのだ。
…この二人は次元が違う。
これはもう、人の手に負える力ではないだろう。
御堂龍馬も天城総魔もどちらも異常なのだ。
そんな二人を制御できると考えていた自分が間違っていた。
これはまさしく、災害級の能力だ。
地震や雷、あるいは台風のように。
人の手には負えない種類の存在なのだ。
それらを解析して再現することなど到底できることではない。
そのことに美由紀は気づいていたのだろう。
…いや、その可能性を考慮していたというべきか。
第一線から引退して研究所に引き込んでいた俺とは違い。
常に最前線で指揮を執る美由紀は気づいていたのだ。
御堂龍馬の才能と天城総魔の異常性を、
美由紀だけは気づいていたということだ。
…甘く見ていたのは俺だったな。
その事実に気づいたことで、
今頃になって自らの失策に気づく。
…くそっ!
もはや手遅れだが、
ここで美由紀を失うわけには行かない。
こうなったら俺が出るしかないだろう。
美由紀が全ての責任を背負って失脚する前に俺の手で天城総魔を抹殺する。
…汚れ仕事は俺だけで良い。
妹同然の美由紀を守るために。
天城総魔を暗殺する。
その覚悟を密かに固めながら。
試合の行く末を眺め続けた。




