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THE WORLD  作者: SEASONS
4月5日
176/185

交渉か戦闘か

《サイド:米倉美由紀》



さて、と。


試合開始まで残り20分になってしまったわね。



時計の針は午後6時40分を指しているわ。



あと20分しかないのよ。


あっという間だったわ。



この数時間の間にも色々と考えてはみたけれど。



結局。


ただただ時の流れを、

じっと見つめていることしか出来なかったのよ。



もちろん出来る限りの準備は整えたと思ってる。



だからと言って安心できる状況ではないけれど。



それでももう。


これ以上できることなんて何もないのよ。



今は試合の結果を待つしかないの。



…打てる手は全て打ったわ。



あとは全て結果次第。


そのほとんどが運任せという状況が情けない話ではあるけれど。



まずは御堂君が勝ってくれることを祈るしかないのよ。


御堂君が勝てばまだしばらくの間は学園も安定するわ。



天城総魔の脅威が制御できる範囲内であれば

恐れる理由は何もないからよ。



だけどもしも天城総魔が勝利したとしたら?



事実上、制御不能ということになるわ。



この学園の均衡は崩れ去ってしまうことになるでしょうね。



まあ、天城総魔が御堂君の代わりに学園の安定の為に力を貸してくれるというのなら、

それほど有り難い話はないんだけれど。


そんなに都合よくいくとは到底思えないわ。



現時点では特に気になるような動きを見せてはいないけれど。


だからと言って信用できる人物だと判断できるわけじゃないからよ。



天城総魔という人物に関しての情報が少な過ぎるせいで安易に信用なんて出来ないの。



本当に何も起こらなければそれでいいけれど。


もしも天城総魔が隠し持っている本性を現したとしたら?



御堂君でさえ押さえ込めない力が暴虐の限りに振るわれるとしたら?



この学園の治安が崩壊して多くの犠牲者が出るのは間違いないでしょうね。



そうなってしまえばもうおしまいよ。


この学園の崩壊はそのままこの町の崩壊へと

繋がってしまうことになる。



だからそれだけは許されない。


絶対に許すわけにはいかない。



共和国は世界各国から流れ着く難民が集まる国だから、

全ての人々が善人じゃないっていうのは私だって分かっているわ。



亡命を果たした国民達の中には他国からの密偵や罪を犯して逃亡中の犯罪者まで含まれているから、

中には悪人だっているはずなのよ。



だからこそ。


そういった危険人物を調査して捕縛、

拘束するのも各学園の役割なの。



それなのに肝心の学園が治安維持能力を失うことは絶対に許されないわ。



各学園による徹底した自治力こそがこの国の支えだから。


そしてその安定感こそが他国との交渉の基盤でもあるのよ。



学園の機能が停止することだけは絶対にあってはいけないの。



…それなのに。



50年の月日をかけて築き上げてきた均衡が天城総魔一人の存在によって揺らぎかねない状況にあるなんて認められるわけがないわよね。



それが私の懸念する最大の不安要素なのよ。



吸収という能力が危険すぎるの。



私だって吸収の能力は是が非でも手に入れたいと渇望する能力だと思うわ。



だけど、その能力が『存在してはいけない』ことも理解してるつもりなのよ。



吸収という能力はその存在そのものが禁忌なの。


実際にどこまでの効果を発揮できるのかは分からないけれど。



吸収という能力を考慮すれば、

学園中の魔力をかき集めて町一つを崩壊させる事も不可能ではないはずよ。



場合によっては町中の魔術師から魔力を集めて共和国全土に破壊を巻き起こす事さえ夢物語ではないかもしれないわ。



それほど危険視する必要のある能力なの。


だから天城総魔という人物を完全に見極めるまで野放しにする事は出来ない。



場合によって抹殺する必要があるけれど。



…もしかしたら。



私ですらもう勝てないかもしれないわね。



…はあ。



手元に視線を落として封書に書き記した文字を凝視してしまう。



…本当ならこんなものは用意したくないけれど。



これは『辞職届』よ。



町の知事から引退すると同時に、

共和国の代表を辞任する意向を記した書類でもあるわ。



これが受理された時が天城総魔の暗殺が非公式に認められた時ということになるでしょうね。



私が辞職の覚悟を示すことによって天城総魔の危険性を国が認める。


そして私の手によって天城総魔を処分することが暗黙の了解として認められることになるのよ。



そのあとのことは近藤誠治に任せるとして、

私は私の責任を果たすために天城総魔を暗殺しなければいけなくなるわ。



その瞬間が訪れる可能性を考えると、

それだけでため息が止まらなくなってしまうわね。



「はあ…。」



今日一日だけでも何度目か分からないため息を吐いてしまったわ。



そして同時にただただ願ってしまうのよ。



これを提出する事がないことを一心に祈りながら、

御堂君の勝利を願っているの。



…だけどね。



心はすでに覚悟を決めているわ。


共和国代表のみならず、

この町の知事にして学園の理事長。


それらあらゆる地位を捨てる覚悟はすでにできているのよ。



…それが私の役目だから。



天城総魔を説得出来れば良いけれど。


もしも説得に失敗したら、

その時は辞表を提出して天城総魔と戦うつもりでいるわ。



共和国の未来のために全責任を取って『天城総魔を封殺』する。


そして全ての出来事をなかった事として殺害の汚名だけを受け入れる。


それだけの覚悟は決めているのよ。



全てはこの国の為に。


今を生きる人々の平和の為に。


私は私の犠牲を受け入れるつもりでいるの。



「さてさて…。ここに来るのは今日が最後かもしれないわね。」



小さく呟いて席を立つ。


試合開始まで残り10分になったからよ。



「交渉か戦闘か、どちらに流れるかで私の運命が決まるわ。」



私にとっても人生をかけなければいけない最後の試合が始まろうとしているのよ。



その試合の結末を見届けるために。


検定会場に向かうことにしたわ。



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