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THE WORLD  作者: SEASONS
4月5日
171/185

やぶれかぶれ

《サイド:米倉美由紀》



…ふ~〜〜ん。


…へぇ〜〜。


…そうなのね〜。



大悟が私に嘘をつくなんて珍しいわね。



何があったのかは知らないけれど、

隠し事をしてるのはすぐにわかったわ。



本人は必死にごまかそうとしてるみたいだけどね。



これでも私は人を見抜く才能において誰よりも群を抜いているのよ?



普段と異なる言動があれば即座に見抜ける自信があるわ。



だから分かるの。


大悟が何かを隠しているのは間違いない。



まあそう思えた理由はほぼ間違いなく問題の一文が原因なんだけどね。



『直接魔術によって影響を及ぼすのではない』という一文がおかしいのよ。



だって、そうでしょ?



仮にも魔術の研究者が魔術を否定して自然現象に頼ったのよ?


そこに不自然さを感じるのは当然でしょう?



「何か、隠して、ないかしら?」



指摘するたびに大悟は冷や汗を流してる。


だけど、それでもまだ真実を話そうとはしないみたい。



「いや…」



何も隠すことはないって答えようとしてるのは明白だったわ。



だから余計に大悟の態度に苛立ちを感じて、

さらなる追求を仕掛けようとしたんだけど。



その前に『コンコン』と、

再び扉が叩かれる音が聞こえてきたのよ。



…ったく、もう!!



どうして今なのよっ。



大悟にとっては救いの来客だったでしょうけど。


私にとっては最悪の状況だったわ。



…はあ。



ついてないわね。


このままだと大事な部分がうやむやになってしまうかもしれないわ。



とは言え。



来客を無視して怒鳴り散らすわけにはいかないし。


誰が来たのかは知らないけれど。


理事長としての対応はしなければいけないのよ。



…だけど。



今は見逃してあげるけど、

あとで追求させてもらうわよ?


大悟への追求は一旦保留にして、

小さく深呼吸をしてから扉に視線を向けてみる。



「…どちら様かしら?」



極力、冷静に問いかけてみたつもりだったけど、

少し怒気が含まれていたかもしれないわね。



だけど来訪者は私の苛立ちを気にした様子もないまま名乗り始めたわ。



「お忙しい中すみません。御堂龍馬です。」



…えっ?



ただ名前を名乗っただけなのに、

今度は私が言葉を詰まらせてしまったのよ。



この状況で来るなんて思ってなかったっていう理由もあるけれど。


それ以上に。


彼にも極秘にしてる実験の報告を聞いていたという事態が余計に冷静さを失わせたのかもしれないわ。



だから、というわけではないけれど。



御堂君の突然の訪問に関しては私だけじゃなくて大悟も驚きの表情を浮かべていたのよ。



だとすれば。


大悟の行動とは無関係ということになるわね。



私からの追求を避けるために大悟が仕組んだ状況ではないことは間違いないのよ。


今回に関しては御堂君が自分の意志でここに訪れたということ。



「鍵なら開いてるから入っていいわよ」


「あ、はい。失礼します。」



礼儀正しく声をかけながら、

静かに扉を開いて室内へと足を踏み入れる。



「お忙しいところ申し訳ありません。」



律儀に頭を下げてくれたあとで、

続いて大悟にも挨拶をしていたわ。



「お久しぶりです。黒柳所長。」


「ああ、といっても研究所で何度も会っているがな。」


「そうでしたね。」



互いに微笑み合う二人だけど。


今は和やかに挨拶して場合ではないのよ。


二人の挨拶は聞き流しながら、

話し掛けてみることにしたわ。



「特に忙しいと言うほどでもないから、こちらの事情は気にしなくていいけれど。それより、わざわざここに来るなんて何か問題でもあったの?」



何もなければここにくる必要はないわよね?


つまりここへ来るということ自体が緊急事態ということになるのよ。



「報告があるのなら聞かせてもらうわよ」



間違いなく良い話ではないでしょうけどね。


そんなふうに思いつつも会話を促してみると、

御堂君は予想通り面倒な事態を運んできてくれたわ。



「先程、翔子を経由して彼からの決戦の申し込みを受けました。」



…な!?



もうそこまで話が進んでいるのっ!?



「試合はいつ!?」


「本日午後7時頃の予定です。」


「早過ぎるわっ!!」



いらだちを隠しきれずにバンッと勢いよく机に両手を叩き付けてしまったけれど、

そんな私の姿を御堂君は冷静に見つめてる。



…う~ん。



私一人が馬鹿みたいね。


あまり冷静に対応されると恥ずかしくなってくるわ。



「…一応聞くけど、もう止められないの?」


「はい。時間を設定したのは翔子ですが、すでに向こうはそのつもりで動いていると思います。」



だとすると、今更中止にはできないわね。



…そうなると。



あと5時間ほどしか猶予がないということよ。



焦りが抑えきれないわ。


落ち着かなければ冷静な判断なんてできないって頭ではわかってるのに、

心の中を渦巻く不安がどうしても抑えきれないのよ。



こんなにも早く動くなんて考えてなかったわね。



北条君との試合による疲労を回復するために今日一日くらいは大人しくしてくれるんじゃないかなって期待してたのよ。



だけどその期待はあっさりと裏切られてしまったわ。



「あと5時間でどこまで手を打てるかしら?」


「あまり長いとは言えないが、それだけの時間があればそれなりの対策は取れるだろう。まずは一度落ち着いて冷静になれ」


「それが出来たらすでにしてるわよっ!」



なだめようとしてくれる大悟だけど、

冷静でいられる余裕なんて私にはないわ。


時計に視線を向けてみると、

時刻はすでに午後2時を過ぎようとしてる。



残り時間はおよそ5時間。



たったそれだけの時間で最後の試合である

『決戦』が始まってしまうなんて。



…あ~もうっ!!!



たった四日なのよ!?



入学式が終わってからまだ一週間も経っていないのよ!?


それなのに焦るななんて言われても、

落ち着いていられるわけがないじゃない!!



学園の生徒である御堂君の前でそんな発言はできないけれど。


落ち着いていられる時間なんてすでにどこにもないわ。



普通なら2、3年はかかるはずの工程を全て飛び越えて、

たったの4日で学園の頂点にまで上り詰めてきたのよ?



そんな相手にたった5時間でどう対処しろって言うのよっ!?



あまりにも理不尽な出来事なのに、

私の立場が一方的に追い込まれてる気がしてくる。



この状況で冷静でいられる人がいるとすれば、

それはもう自分の運命を受け入れる覚悟を決めた人だけでしょうね。



ありとあらゆる責任を請け負うのが指導者としての義務ではあるけれど。


自分の行動と関係のない部分まで責任を追及されるというのはやっぱり納得いかない部分があるわ。



自分の失敗で責任を取るならともかく。


私が関与できない部分で責任を問われるのはさすがに気に入らないのよ。



そもそも学園の生徒が問題を起こしたとしてもそれが私の責任になるなんて通常はありえないからよ。



…だけど。



今回だけは違うのよ。


明らかに異質な存在である天城総魔を見過ごすことは学園の理事長としても共和国の代表としても許されないの。



これはもう、学園だけの問題じゃないから。


強すぎる力は害悪でしかないわ。



少なくとも共和国において制御できない魔術師なんて存在してはいけないの。


だから今後の状況次第では、

本当に抹殺する必要性が出てくるでしょうね。



その結末を想像するだけで固く握り込んだ手が震えてしまうわ。



…はあ。



こうなってしまった以上はもう。


限られた時間で出来る事を全力で考えるしかないわね。



正直に言えば全く信用できないけれど、

今はこれに頼るしかないっていうことよ。



大悟が新たに完成させた拘束結界。


この魔術に頼ることになってしまうでしょうね。



………。



手元の書類に視線を落としてみる。



…本当に使えるのかしら?



どうしようもなく疑問を感じてしまうんだけど。


私が書類に目を向けたことで、

つられて御堂君の視線も私の手元に移ってしまったわ。



そして、聞きたくなかった言葉を呟いてしまったのよ。



「…なるほど。それが例の実験の報告書ですか。」



…えっ!?


…今、何て言ったの?



『なるほど』って、

『例の実験』って口にしたわよね?



だとしたら。


御堂君は実験の存在を以前から知っていたということになるわ。



「ど、どうして知っているの!?」


「ええと、その…」



私と大悟の驚愕の視線に気づいた御堂君は少しだけ困ったような表情を見せながら話してくれたのよ。



「別の目的がある事は以前から気付いていました。ですが、公表できない何らかの理由があるのだと思っていましたので、あえて追求はしませんでした。」


「…そ、それは、何時からなの?」



聞きたい事はただ一つ。


何時から気付いていたのか?という部分よ。



「実験が始まった当初から違和感は感じていました。結界の強度の実験と言うわりには既存の結界とはそれほど変わらず、何か別の力が働いているような不思議な感覚もありましたので…」



…うわぁ。



私の質問に対して隠すことなく教えてくれたわ。



…ホントに空回りばかりね。



極秘扱いで始めたはずの実験なのに。


そのはずなのに。


実際には御堂君に気付かれていて、

対象の天城総魔ですら一瞬で気付いてしまったのよ?



そして今では翔子と沙織にも情報は流れてしまったし。


もはや『極秘』と言う言葉はかけらも感じられないわね。



おかげで情けないほどぶざまな状況に陥ってしまったわ。



…はあ。



ため息が尽きない。



言葉を失ってしまった私と大悟の絶望感が室内に広がっていくのがはっきりと感じられるわ。



そのせいで。


何故か御堂君の方がいたたまれない気持ちに

なってしまったみたい。



「えっと…。すみません。」


「…すまない、美由紀。」


「い、いえ、いいのよ。」



御堂君に謝られても困るし。


今更、大悟に怒鳴ったところで状況は何も変わらないし。


過ぎたことを責めても仕方がないわ。



「まあ、この際、仕方がないわね。」


「本当にすまない。」



諦めにも似た心境で呟いてみると。


大悟は何度も頭を下げてくれたわ。



でも、ね。


私としてはそういう言葉が聞きたいわけじゃないの。



「…もういいわ。」



ため息混じりに呟いて話を打ち切る。


別に怒ってるわけじゃないわよ?


次の行動を考えることにしただけ。



「こうなった以上、ここで文句を言っても仕方がないわ。今はここから巻き返す方法を考えるのが先決よ!」



今後の方針を宣言してから御堂君に視線を向けてみる。



「試合は7時からで間違いないわね?」


「はい、そうです。あくまでも予定の時間ではありますが…」


「多少前後したとしても大差はないわ。残り時間はあとわずかだけど、どうなの大悟?結界の準備は間に合うの!?」


「あ、ああ。今からすぐに行動を起こせば間に合うはずだ。ただ、情報封鎖は難しいかもしれないが…。」



…確かに、ね。



すでに解放されている検定会場を封鎖する為に人払いを行ったとすれば、

会場で何らかの準備が進められていることが噂として流れてしまうのは避けられないわ。


かと言って、会場を解放したままで極秘に準備を進める事なんてできないし。


誰にも気づかれないように準備を進めるのははっきり言って不可能。


下手をすれば天城総魔に警戒されかねない。



…だとしたら。



全ての生徒が退場したうえで、

全ての関係者が一人残らず検定会場を出るなんていう非現実的な状況を信じて待つ?


それとも情報の漏洩を覚悟したうえで強攻策に出る?



私の決断力が試される一瞬だったわ。



…こうなったら直球勝負かしら?



覚悟を決めて、指示を出すしかないわね。



「もう、とやかく言うのはおしまいよ。各人で出来る事を最大限にやるしかないわ。あとのことは終わってから考えるわよ!」


「…本当にいいんだな?」


「言ったはずよ!!全ての責任は後回し!まずは行動が最優先!準備が間に合わないなんて言わせないわよ!?」


「あ、ああ、分かった。早急に手を打とう」



私の指示に従ってくれる大悟が理事長室を飛び出して行く。


その後ろ姿を見送ってから、

御堂君が私に振り返ったわ。



「僕にも何か手伝える事はありますか?」



有難い申し出だけど御堂君にお願いできることなんて特にないわ。


だけどまあ、強いて言うなら天城総魔に勝って私の心労を減らしてくれれば最高かしら?



「今更ここで足掻いてどうなるものじゃないし、とりあえず貴方は体を休めておくことね。」



試合に勝ってくれればそれでいいのよ。



「万全な状態で試合に望めるように心の準備でもしておきなさい。」


「分かりました。」



私の指示を受けた御堂君は微笑んでいたわ。



…と言っても。



もちろん私を馬鹿にしてるわけではないはずよ。



追い込まれた状況にあってもまだ諦めない私の気持ちを察して微笑んでくれたんだと思うわ。



「最善を尽くします。」



その言葉を残して御堂君も理事長室を出て行ったのよ。



そうして。



御堂君が部屋を出たのを確認してから大きくため息を吐いてみる。



…どうしてこうも厄介事が続くのかしら?



差し迫るのは危機的状況ってやつよ。


私にとって最大の難問になってしまった問題に立ち向かわなければいけない瞬間が、

とうとう数時間後に迫っているの。



こうなったらもうやぶれかぶれね。


いまだに謎だらけの天城総魔を味方に引き込めるかどうか?


私にとっての試練が始まってしまったわ。




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