乱戦
《サイド:オルバ・レグリック》
現在の時刻は午前7時45分頃だろうか。
共和国とセルビナ王国との国境において、
両軍は互いに総力をぶつけ合う激しい乱戦を行っている。
3万の共和国軍に対して、
1万の陰陽師軍と3万の正規軍の混合部隊で進攻するセルビナ軍。
その進攻速度は決して早くはないものの。
数で負ける共和国軍が若干押され気味ではあった。
…やはり苦戦は免れんか。
戦況を眺めながら戦場の北部で部隊の指揮をとりつつ、
今後の方針に関して思案を重ね続ける。
「…ふむ。」
出来ることなら強力な魔術で敵軍を一掃したいところだが、
大混戦となっている戦場に大規模魔術を放つことは出来ない。
それでは味方まで巻き込んでしまうからな。
…この状況からどうするか。
戦線に復帰したフェイ・ウォルカを敵軍に突入させて真の一撃を発動させればセルビナ軍は大打撃を受けることになるだろう。
だがそれではフェイがセルビナ軍から離脱できる保証はなく。
確実に成功するとも言いきれない。
…やはり陰陽師の部隊が厄介だな。
フェイ・ウォルカをセルビナ軍に突撃させられない最大の理由とも言える部分なのだが、
フェイの魔術が展開する前に陰陽師によって攻撃を受けてしまう可能性が圧倒的に高いからだ。
それに何よりフェイの一撃が陰陽術によって相殺される可能性も否定できない。
…今は無理に突撃させるよりも。
迫り来るセルビナ軍の迎撃を続けさせるほうが確実か?
一か八かの賭けに出てフェイを失うわけにはいかない。
フェイはこの地において最も重要な戦力であり、
最も頼れる存在だからだ。
それほどの戦力を陰陽師の部隊に近付けるのは得策ではないだろう。
…こうなると長期戦は避けられんか。
短期決戦で挑むことは決して不可能ではないが、
それにはそれ相応の被害を覚悟しなければならない。
…少しずつでも良い。
セルビナ軍の戦力を削りながら、
隙を見てこちらの負傷者の手当を進めることが勝利への近道かもしれない。
そのために防衛に徹しようと考えたところで、
鞍馬信彦が送り込んできたのだろう。
伝令部隊の到着する姿が見えた。
「オルバ様に伝令を申し上げます!」
伝令部隊の一人が話しかけてくる。
「『被害を最小限に食い止めつつ、持久戦に持ち込むように』とのことです。それと『極力セルビナ軍の指揮官を狙い、指揮系統の破壊を行うように』との指示が出ています!」
…やはり時間を稼ぎつつ敵の頭を狙う作戦か。
現状ではそれしか選択肢がないだろうな。
…まずはその作戦で耐え凌ぐか。
「前線部隊に伝令を送れ!!敵の進攻を食い止めつつ、指揮官らしき人物を優先して討ち取れと。セルビナ軍の撹乱を優先して、戦局を共和国の優位に導くのだ!!」
「かしこまりました!」
俺の命令によって伝令部隊の一部が前線部隊に向かって駆け出したあとに、
鞍馬信彦の部隊にも伝令を頼むことにする。
「鞍馬隊長に指示を受け入れると伝えておいてくれ。」
「はい!了解いたしました!」
俺の返事を聞いて、
駆けつけてくれた伝令部隊が本陣に向かって移動を始めた。
その間に再び前線部隊の安否に思考を巡らせる。
「フェイがいる限り前線部隊が一気に瓦解することはないだろう。最前線はフェイに任せて、こちらは負傷者の救助を急ぐべきだな。」
まずは負傷者の救助が優先だ。
「一人でも多くの仲間を守り抜けっ!治療を優先して、前線部隊の援護を常に絶やすなっ!!」
全力で叫びながら指示を出し続ける。
そして指示を受けた仲間達が必死に戦場を駆け巡る姿を眺めながら再び呟いた。
「長期戦は避けられないか。」
ほぼ拮抗した勢力だからな。
最前線で指揮をとる鞍馬信彦の活躍によって、
数で勝るセルビナ軍を押し止めることに成功しているものの。
少しでも油断すれば部隊としての結束力が弱い共和国軍は即座に飲み込まれてしまうだろう。
「ここから先は鞍馬隊長の采配次第だな。」
持久戦としてどこまで耐え切れるのか?
そしてセルビナ軍を無事に壊滅できるのか?
全ては鞍馬信彦の采配にかかっている。
…今は信じるしかないか。
だからこそ自らの役目に思考を巡らせることにしようと思う。
…こちらはこちらで出来ることをするだけだ。
出来る限り広範囲の戦場を観察する。
そして少しでも多くの時間を稼ぐ為に策を巡らせていく。
一人でも多くの仲間達の命を守る為に。
必死に策を考え続けた。




