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THE WORLD  作者: SEASONS
4月5日
165/185

有意義な時間

《サイド:黒柳大悟》



…ふむ。



残念だが西園寺君では理解出来ない領域の理論だったらしい。


超音波の基本理論はともかくとして、

それに対する対処法までは考えが及ぶ範囲ではなかったようだな。



…いや、それ以前の問題として。



西園寺君にしてみれば、

ものの数秒で対応して無効化するという行為そのものが神業に等しいとしか思えないのだろう。



受けた魔術の影響を推測して逆算。


そこから反転魔術の発動。


その行為を数秒で行わなければならないわけだからな。


並の魔術師では到底無理だ。



俺でさえ実際に対応出来るかどうかは状況による。


だが拘束魔術の存在を知ってさえいれば対応を考えることは可能だ。



…ある意味では初見殺しと言えるが。



どんなことでもそうだが、

知らない現象に対応することは出来ない。


それは俺や天城君でも同様だ。


だが、知ってさえいれば対処法を考えることが出来る。



「何が起きているのかさえ理解出来れば対策の一手は打てる。それが一流の魔術師というものだ。」


「それはまあ、そうなのかもしれませんが…。」



まだ納得出来ない様子だな。



それでも対策にまで考えの及ぶ俺には尊敬を感じてくれてはいるようだ。


だが彼に向ける視線の意味は異なるだろう。


尊敬以上に、天城総魔という存在が恐ろしく感じているように見えるからだ。



…まあ、当然か。



何故なら彼は研究者ではない一般人だ。


それも今日初めて実験に参加した素人だからな。


俺達とは積み上げてきた経験が大きく異なる。



…それなのに。



実験を完成させた天才だ。



戦闘の実力だけでなく、

頭脳も明晰となればまさに非の打ち所のない存在といえるだろう。



彼の言動を考えれば恐怖の対象に見えても仕方がないとも思う。


無闇に敵対するつもりはないようだが、

だからといって友好的とも言い難いからな。



警戒したくなる気持ちは俺も同じだ。



だからこそ西園寺君の気持ちは分からないでもないのだが、

彼のおかげで拘束結界は完成したと言える。



あとは幾つかの問題点を改善してどこまで改良出来るかが課題となるのだが、

そこは俺の腕の見せ所といったところか。



その辺りに関しては任せてもらうとして、

大きく欠伸をしながら立ち上がることにした。



「さて、天城総魔君。きみには実験に協力してもらったことに関して心から感謝している。」



嘘偽りのない本心として。


彼には心から感謝しているのだが、

俺自身の立場上かなり危ない位置にいるのも確かだ。


勝手な言い分で申し訳ないとは思うが、

これだけは念を押して置かなければならない。



「出来ればここで起きたことは内密にしてもらいたい。どうか理解してもらえないだろうか?」


「ああ、もちろんだ。心配する必要はない。」



出来る限り口外してもらいたくないと願ってみると、

迷う素振り見せずにあっさりと頷いてくれた。



「今回は実験内容に興味があって協力したが、一方的に押しかけてきて強引に協力してもらったことも事実だからな。」



…ふむ。



今回は互いに利害が一致したということだろう。


そこは否定しない。


こちらの事情ももちろんあるが、

彼にも彼の考えがあるということだ。



「これ以上迷惑をかけるつもりはない。ここを出たあとも他言しないと約束する。」


「そうか、そう言ってもらえると助かる。」



どうやら思っていたより義理堅い性格なのかもしれないな。



彼の配慮に感謝しつつ。


ゆっくりと右手を差し出してみた。



「これは俺の勘だが、きみとは長い付き合いになりそうな気がするな。」



今後も天城君とは関わっていくことになりそうな気がしたからだ。


だからこの言葉はしっかりと伝えておくべきだろう。



「もしきみさえ良ければ、いつでもここに来てくれればいい。」


「ああ、そうさせてもらう。」



否定せずに握手を交わしてくれた。



…よし!



これで、先手は打てた。


彼の同意を得たことで上の研究所に天城君が引き抜かれることはなくなった。



少なくとも、そうさせないための既成事実は用意できたからな。



最終的な判断は彼自身が行うとしても、

互いの協力関係が表明できた現状で他の部署が横入りしてくることはない。



この件に関しては俺の勝ちだ。



常磐沙織の勧誘に成功している親友に対する布石は打てた。



その一点が今日一日における最大の収穫だと心から思えるほどだ。



「折角だ。出口まで見送ろう」


「すまない」


「ははっ。気にするな。これは最低限の礼儀だ」



少しでも天城君からの印象を良くするために、

研究所の出口である地上への階段前まで見送ることにした。



そうして。


ゆっくりとした足取りで階段を上っていく彼の後ろ姿を見送った。




その数秒後。




やがて彼の姿が見えなくなったところで、

傍に控えている西園寺君に話しかけることにした。



「さて、一度会議を行う必要があるな。西園寺君、申し訳ないが幹部を招集してくれないか?場所は俺の部屋でいい。」


「はい、分かりました。早急に手配致します。」


「頼む」


「お任せ下さい。」



俺の指示を受けて颯爽さっそうと立ち去る西園寺君を見送ったあとで、

自室と言える所長室に戻って時計に視線を向けてみる。


すでに時刻は正午を大幅に過ぎているな。



「腹が減ったと思えば、もうこんな時間だったか」



そもそも彼がここにいられる限界が12時半までだったからな。


当然といえば当然の結果なのだが、

体感時間で言えばものの数分だったような気がしてならない。



「楽しい時間は過ぎるのが早いといったところか。」



複数の意味で有意義な時間だったのは確かだ。


実験の成功と結果の議論。


そして天城総魔と友好関係を構築できたこと。


それら全てが満足のいく結果だったと思う。



「ふう。少し疲れたな」



時計から視線を逸らしてテーブルの上に置かれたままの書類に向かって歩きだす。



「さて、これからどうしたものか…。」



書類を束ねながら今後の方針を考えてみる。


彼を見送った後で西園寺君には各班の責任者を集めるように指示を出しておいた。



まもなくこの部屋には俺と西園寺君を含む5人の責任者が集まる予定だ。



…こうして幹部を集めるのは何週間ぶりだろうか?



所長の俺と副所長の西園寺つばめ君。



そして。


実験観測班の峰山泰蔵(みねやまたいぞう)

分析調査班の藤沢瑠美(ふじさわるみ)

機材制作班の大宮典之(おおみやのりゆき)


この5人によってルーン研究所は管理されている。



峰山はさきほどの実験にも参加していたのだが、

直接挨拶をしたわけではないからな。


天城君は峰山が幹部であることを知らないだろう。



そして藤沢君は前回彼が訪れた時に実験室にいたからな。


彼女も彼のことは知っているはずだ。



彼からすれば一職員程度の認識かもしれないが。


すでに二人の幹部が彼と面識を持っている。



本来なら藤沢君が全ての実験の指揮をとる予定だったのだが、

今日の実験では体調不良を訴えて欠席していたのだ。



まあ、彼と関わりを持つ者なら不用意に近づきたくないと思う気持ちはわからなくもないがな。



その結果として西園寺君が醜態しゅうたいさらす羽目になったものの。


逃げた部下の代わりに働くのも上司の務めというものだ。



今頃は西園寺君が愚痴の一つもこぼしているかもしれないが、

部下でもあり、親友でもある藤沢君は笑って聞き流していることだろう。



少しばかり西園寺君の苦労が報われない気もするが、

副所長として幹部を動かせなかった責任は0ではないからな。



仕方がなかったと諦めてもらうしかないだろう。



少々、痴話ちわ喧嘩けんか的な意味で色々と内情に問題を抱えてはいるものの。


各部署の責任者達も元は一流の魔術師だ。



共和国の各町にある魔術学園の卒業生でもある。


だからこそ職員としての実力は一級品と言えるだろう。



少々仲が良すぎて緊張感が薄いのが問題といえば問題ではあるが、

不満をいうほどではない。


少なくとも連帯感という意味では一致団結できているからな。



職員達に対する信頼は揺るがない。



だからこそ、今のうちに手を打つ必要性がある。



このまま何もしなければさらなる難題を抱えかねないからな。


そうなってしまう前に対処しておく必要があるのだ。



最低限、職員の口止めを指示しておく必要はあるだろう。



そんなふうに考えていると、

不意に扉を叩く音が響いた。



…来たか。



西園寺君を派遣してかまだ3分と経っていないのだが、

早速駆けつけてくれたらしい。



「入ってくれ」



こちらが指示を出した後。


西園寺君を先頭に、峰山君、藤沢君、

大宮君の4人が室内へと入ってきた。



「とりあえず、そちらに座ってくれ。」



指示に従って4人の幹部はそれぞれに席につく。



「さて、わざわざ集まってもらったのは他でもない。例の拘束結界に関しての話だが、まずはこれを見て欲しい。」



席に着いた4人に簡素な書類を手渡す。



先程まで天城君と共に議論していた書類だが、

拘束結界に関する詳細な理論と必要な準備が記されている。



「美由紀から依頼のあった拘束結界の完成理論になる。」



受けとった書類に目を通す4人が一通り確認し終えたのを見計らいながら話を始める。



「見ての通り、すでに理論は完成している。今回の件は天城総魔の協力があればこそと言える内容だが、彼が関わったという事実は当分の間、機密事項とする。」



『天城総魔の手を借りた』事実が美由紀にばれたら大目玉は間違いなしだからな。



だからと言って何らかの処罰があるということはないものの。


ただ単に愚痴を聞かされるのは面倒臭いという理由で機密事項という名の口止めを行うことにした。



とは言え。



そんなくだらない理由で口止めされているなどと気付くはずもない4人の幹部達は素直に厳命と受け止めて情報が洩れないように約束してくれている。



…これで、当分の間はごまかせるだろう。



永久的とはいかないだろうが、

問題を先送りすることはできる。


その間に事態が変われば情報が漏洩しても問題のない日が来るはずだ。


忠誠心あふれる4人の幹部に笑顔を向けつつ話を続けることにした。



「今後、必要な準備に関しても書類にまとめておいたからわざわざ説明するまでもないだろう。あくまでも極秘で行われるべき作戦で在るために幾つか面倒な手順は必要だろうが、各班にはいつものように速やかに行動に移ってもらいたい」


「お任せ下さい」



幹部を代表して西園寺君が任務を受けたことで、

残り3人の表情も真剣さを帯びていく。



「今回は行動可能な職員総出で実行する。いいな?」



各責任者達に確認しつつ、

彼らに仕事を割り振って大まかな指示を出した。



まず機材制作班には早急に結界の準備を整えてもらう。


もちろんその為には会場に先行して下準備をしてもらわなければならないだろう。



そして分析班は拘束結界に関する必要な超音波の計測を任せることにした。


どの程度から撹乱の効果が現れて最大でどれ程の超音波を起こせるのか?


天城総魔の魔術による迎撃を押さえ込めるかどうかが分析班の努力にかかっている。



そして最後の観測班なのだが、

ここが失敗すれば全てが無駄に終わることになるだろう。



彼等に任せたい事はただ一つ。


西園寺君に拘束結界を使えるよう教育することだ。



直接、俺が術者となってもいいのだが、

他にも抱えている仕事は多いからな。


いつ起こるとも知れない試合の為に待機している余裕はない。


その為に実力的に安心して任せられる西園寺君に全てを托す事にした。



「出来るか?」


「お任せください。」



尋ねてみると真剣な表情で引き受けてくれた。



「ご期待に添えるよう、全力を尽くします」


「うむ。期待している」



各責任者達に仕事を割り振り終えて、

今後の事は全て西園寺君に託すことにする。



「では、これで会議は終了とする。俺はしばらく出かけるからあとの事はきみ達に任せる」



それぞれの役目を幹部達に任せることにして、

一旦、所長室を離れることにした。


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