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THE WORLD  作者: SEASONS
4月5日
160/185

行動不可能

「結界を発動させる!『テンプテーション』!!」



右手に集めていた魔力を一気に解放した。


その瞬間。


黒柳に異変が起きた。



「くっ!?ぐああああああっ!!!!!」



断末魔のような叫び声が響き渡り。


一瞬にして表情が歪み。


崩れ落ちるように片膝をついて。


両手で必死に体を支え始めた。



「ぐう…ああああああっ!!」



見た目に変化はないが明らかに苦しんでいる。


それだけははっきりと分かる状況だった。



「…こ、これ、が…きみ、の、魔術、か…っ!?」



先ほどの試合中に感じた違和感の正体とでも言うべきだろうか。


現在の黒柳も何らかの異変を感じている様子だった。



「…これは、思っていた…以上に、きつい…っ!」


「所長っ!?」



苦しむ黒柳を心配そうに見つめていた西園寺が救いの手を差し伸べようとしているが、

踏み込めたのは最初の一歩だけですぐに歩みを止めていた。



「………。」



おそらく自分の役割を思い出したのだろう。


苦々しげな表情を浮かべながらも黒柳に話しかけていた。



「所長…。魔術を使ってください。」



少しでも実験を進めようとする西園寺だが、

肝心の黒柳に返事を返す余裕はなさそうだ。



「す…すまない、が、展開、出来ない…。い、いや、そもそも…。」



ボソボソと小声で話す黒柳の声は俺には聞き取れない。


比較的すぐ傍にいる西園寺でさえも、

黒柳の言葉を聞き取る事が出来ないでいる様子だ。



「…所長?」



黒柳の言葉を聞き取るために西園寺がさらに一歩前へと踏み込んだ瞬間。



「ああああああああぁぁ…っ!?」



絶叫した黒柳が急に倒れ込んでしまった。



「し、所長~~~っ!!!」



急いで黒柳に駆け寄ろうとする西園寺だったが、

展開中の結界に阻まれてしまったのだろう。


結界に触れることはできても結界の先に手を伸ばすことは出来ないでいた。



…これは偶然でしかないが。



物理的な障壁という目的も無事に達成できていたらしい。


どの程度の耐久力があるのかは攻撃してみなければ分からないが、

状況から推測してみると単純な行き来は出来ないように思える。



…それでも耐久力に関しては調査が必要だな。



「所長っ!!!!」


「…っ。」



結界越しに大声で叫ぶ西園寺の声が届いたのだろうか?


倒れた黒柳は微かに頭を動かして、

結界の外にいる西園寺に視線を向けた。



「…だ、だい、じょう、ぶ…だ。」



とぎれとぎれだが必死に言葉を紡いでいる。


まだ意識があるようだが、

それでもかなりの混乱が見られる。



この症状を考慮すれば実験は成功だろうか?



精神的な撹乱作用が起きている様子だからな。


予定通り精神に影響を及ぼしているのだろう。


魔力が尽きれば意識を失って昏倒するように、

精神が狂い出すことで魔術にも影響を及ぼすということだ。


その辺りの検証は後々行うとしても、

朦朧とする黒柳は魔術を使うことが出来ないでいる。


実験結果として十分な成果だろう。



「調査はもう十分だな?」



これ以上の調査は必要ないと判断して、

結界を解除してから黒柳に話しかけることにした。



「どうだ?動けるか?」


「…な、なんとか、な。」



結界が解除された事で少しは気分が良くなったのだろうか?


ふらつく頭を手で押さえながらも、

西園寺の手を借りて立ち上がっていた。



「予想範囲ではあったが、それでも副作用がきついな。魔術を展開するどころか、意識を維持するだけで精一杯だった。これでは他の職員達では調査どころか5秒ともたないだろう。」



実際に感じた経験を話してから隣にいる西園寺に問いかける。



「影響があったのは俺だけか?」



他の職員達に影響がなかったかどうかを確認する黒柳だが、

その心配が不要なことは西園寺自身が証明している。



「…はい。拘束結界の影響を受けたのは所長だけです。最も近くにいた私にも影響がなかったので、他の職員に影響が及んでいるとは思えません。まだ正確な観測結果は分かりませんが、今の実験だけでも十分な情報は得られたと思います。…少々、腑に落ちない部分はありますが、拘束結界はおおよそ完成したのではないかと思われます。」



…腑に落ちない、か。



自分達にできなかったことが行われたことを気にしているのだろうか。


それともまだ目の前で起きた現実を認められないのだろうか。


それ以上の不満を口には出さなかったが、

代わりに睨むような視線を向けてきた。



「…私にはまだ理解できませんが、求めていた結果に限りなく近い現象を確認しました。彼が宣言するように、拘束結界の理論は完成したと認めるしかないと思います。」


「…そうか。」



報告を受けた黒柳の表情も憂鬱そうだ。


だがそれは拘束結界の影響によるものだろう。


気休め程度の回復魔術を使用しながら再び俺に話し掛けてきた。



「無事に理論自体は完成したようだな。」



…ああ、そうだな。



結果論にはなるが期待通りの効果はあったはずだ。



「これで黒柳や西園寺なら魔術を使用できることも証明されたはずだ。」


「…そうだな。実際に試してみなければ確実なことは言えないが、俺か西園寺君なら今回の理論を忠実に再現できるだろう。」



魔術を使えなくする為の拘束結界。


その第一段階は終了したということだ。



宣言通り拘束結界の実験は成功したことになる。



「既存の理論とはかけ離れてしまったが、結果さえ出れば文句はないんだったな?」


「え、ええ。私から言うべきことは何もないわ。」



念の為に問いかけてみると、

西園寺はしぶしぶといった表情で頷いてみせた。



…一応、納得したようだな。



不満は感じていても口に出すつもりはないらしい。


まだまだ険悪な雰囲気は消えないが、

これまでの態度を思えば少しは話し合いの余地が出来たと言えるかもしれない。



「…なら、俺から言うべきことも何もないな。」



西園寺と口論するためにここにいるわけではないからな。


実験結果を評価してくれるならそれだけで十分だ。



これで、少しは話しやすくなるだろうか。



最終的な理論構築は大幅に変更された形になったとはいえ、

望んでいた結果は出せたからな。



西園寺も研究者の一人として結果を受け入れるつもりのようだ。


今では大人しく職員達からの報告を受けて黒柳に調査内容を伝えている。



…まずは結果が出せたことを喜ぶべきだな。



自分でも予想以上に上手くいったと思うからだ。



…理論を作り直した甲斐があったな。



元々、黒柳が考えていた理論も間違いではなかった。



だが。



幾つもの問題があるせいで、

そこから発展させるのは難しいと判断して早々に改良は諦めた。



その決断が現在の結果につながったわけだが、

俺の考えた魔術が正解だったとは限らないとも思う。



結果さえ出せれば手段は問題ではないからな。



最終的な目的さえ達成できるのであればどういう理論であってもいいと思っている。



だから、というべきかどうかは難しいところだが、

黒柳の理論も突き詰めれば一つの魔術として完成する日が来るはずだ。



現時点では非常に複雑だが、

期待する魔術の効果を比較するなら黒柳の理論のほうが汎用性は高いだろうからな。



…完成すれば、だが。



黒柳が考えた理論。


それは結界の内部に『特殊な周波』を発生させて対象の魔力そのものを拡散するという内容だった。


そのうえで対象者を痺れさせて逃亡を防ぐという効果も期待していたらしい。


確かにそれでも実現は可能だろう。



人体に影響を及ぼすほどの電磁波が生み出せるのなら十分な成果を期待できるはずだ。



…一種の雷撃だからな。



使用者を限定することなく、

あらゆる場面で使用できる汎用性は高い。


だがその反面として電磁波に対して耐性のある魔術師か、

あるいは俺のようにあらゆる魔術の効果を分解出来る相手に対しての効果は期待できそうにない。



この方法では効果のある人間と全く影響のない人間の二つの結果に別れてしまうからだ。



そこで新たに考えたのは直接影響を与える方法ではなく間接的に干渉する方法だった。



つまり、物理的な影響や属性的な攻撃ではなく。


精神的な影響を与えて行動に制限をかけるという方法を考えた。



魔力や魔術ではなく、

思考そのものを妨げる方法といってもいい。


精神攻撃をしかけることで魔力を扱えなくすることを目的として理論を構築した。



その手段として目をつけたのは電磁波と同様に視覚では認識できない『音』だ。



結界内部において特殊な『超音波』を発生させることで対象の自律神経を刺激して思考能力を狂わせるという手段になる。


視界が歪むほどの刺激を与えれば、

誰であろうとまともな思考を維持できないだろうからな。



魔術の理論を展開する為の冷静さを失わさせることで『魔術が使えなくなる』という現象を間接的に起こしている。


その代償として結界の発動から実際の影響が出るまでに多少の時間差が生まれてしまうものの。


その差は数秒程度だからな。


誤差と言える範囲内だろう。



対象者が解呪系の魔術を使用しようとしても発動が間に合うことはないと思う。



それこそ圧縮魔術で解呪系の魔術を用意していない限り。


迎撃を行う前に思考が乱されて魔術が封じられることになるはずだ。



そして一度発動してしまえば結界の内部において魔術の使用は出来なくなる。


誰であろうとも内側から破壊する事は不可能になるということだ。



…事実上の封印だな。



さすがにこの状況からは俺も逃れられない。


結界を破壊する為には超音波を発している結界そのものを攻撃しなければならないのだが、

黒柳のようにふさぎ込んでしまってはルーンを振り回すことさえできないはずだ。



無理に吸収の力を発動させようとしても、

乱された思考能力では本来の能力を発揮する事が出来るとは思えない。



なおかつ結界から脱出しようとしても、

真っすぐに歩く事さえままならない状態では外に向かうことさえ難しいはずだ。



仮に結界に触れられたとしても物理的な力で魔術を破壊するのは無理だからな。


外部から結界に攻撃する事は簡単だとしても内部からは傷一つ付ける事さえ困難になる。



それが新たに考えた理論だった。



「結界の理論に関しては問題ないな?」


「ああ、十分だ。」



報告を聴き終えた黒柳に問いかけてみると。


黒柳は満足そうに頷いてから次の段階へと動き出した。



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