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THE WORLD  作者: SEASONS
4月5日
157/185

両方に

「おはよ~龍馬!元気してる~?」



いつも通り元気一杯に声をかけてみる。


それだけで私だって気づいてくれた龍馬も微笑みを返してくれたわ。



「やあ、翔子。おはよう。」



見た感じ何かの書類に目を通してる途中だったようね。



仕事中に邪魔して申し訳ない気はするけれど。


来ちゃった以上は仕方がないわよね。


今更遠慮しても話が進まないし、

とりあえず龍馬に歩み寄ることにしたわ。



「今は一人なの?」


「ああ、そうだよ。今日はまだ誰にも会ってないからそのうち来るんじゃないかな?」



そうなんだ?


まあ、他の人達に用があるわけじゃないからどうでもいいんだけどね。


とりあえず今は龍馬一人だけみたい。



「今日も仕事をしてるのね~。」



働き過ぎで疲れないのかな?なんて思いながら近づいてみると。



「翔子も見るかい?」



手元にあった書類の束を差し出してきたのよ。



…う〜ん。



龍馬が確認するような書類なんて、

間違いなく面倒な案件よね?



正直に言って小難しい書類なんてあんまり見たくないと思うんだけど。


差し出され以上は無視するわけにもいかないわ。



「…私も見ていいの?」


「ああ、構わないよ。」



受け取った書類に視線を向けてみる。


真っ先に目に入る見出しには、

『天城総魔に関する報告書』って書かれていたわ。



「あれ?これって…。」



すぐに気付いてしまったのよ。



この書類は私が用意して理事長に渡した物だから。



それが今は龍馬の手元にあって、

それを今は龍馬が見ているの。



どうして?なんて考えるまでもないわよね。


龍馬は既に察していたってことよ。



「ここに来た目的は僕を呼び出す為、かな?」



…あ~、うん。



やっぱり分かってたみたい。



「ええ、そうよ。最後の対戦。その試合を用意する為に交渉に来たの。」



…そう。



ここへは交渉に来たのよ。


すでに龍馬は試合をする必要がない地位にいるから。


戦って勝っても得るものはなくて、

負ければ降格になるだけの試合でしかないの。



試合会場にいれば格下との試合は義務化されるけれど。


一歩でも会場の外に出ればそんな義務は存在しないわ。


会場に向かわない限り、

試合をする義務は発生しないのよ。



だから総魔がどれだけ待ち続けても、

龍馬が会場に来ない限り永遠に頂点に立つ事なんて出来ないわ。



だからこそ、交渉する必要があるのよ。


龍馬が勝った時に利益があるように、

負けて降格するに見合う何かを用意する必要があるの。



だけど。


何を用意すればいいのかは分からない。


それを決められるのは龍馬だけだから。



「どうすれば試合を受けてくれるの?」



一応、問い掛けてはみたけれど。


龍馬がどんな返事を返すのかはすでに理解しているわ。



龍馬は何も求めない、ってね。



損得勘定で動くような性格じゃないって知ってるから。


だからこれは茶番でしかないの。



何度も繰り返されてきたしきたりに従っているだけにすぎないのよ。



だから。


龍馬がいつものように答えるって分かってる。



こんな儀式じみた交渉に対して、

龍馬は笑顔で答えてくれたわ。



「…そうだね。」



まるで気にしてないかのように。


負ける事なんて考えていないかのように。


笑顔を浮かべながら答えてくれるの。



「いつでもいいよ。」



その一言だけ。


交渉の条件なんて何一つとして存在しないのよ。



「誰の挑戦でも受けるよ。そうやって頂点に立ち続ける事が僕の役目だからね。」



龍馬の役目。



それこそが最強の名を冠する男としての役割なんでしょうけど。


決して逃げずに。


挑戦者と正面から向き合って。


どんな相手にも圧勝して見せること。



絶対に揺らぐ事のない最強の座。



それこそが学園の治安を任される特風の支配力でもあるわ。



この学園だけじゃなくて町全体。


そして国全体の安定の為に最強の力を持って治安を守り抜く。



それが龍馬に課せられた使命なのよ。



…沙織と同じように。



他国から亡命してきた過去を持つ龍馬にとってもこの国は守るべき存在らしいわ。



最強の座にいながらも卒業せずに学園に残り続けてる理由。



その一つが『平和の為』だって聞いたことがあるからよ。



もちろんそれ以外の理由もあるんだけど。


その理由を知る人は少ないでしょうね。



「時間は翔子に任せるよ。」


「ん~…。」



龍馬の許可を得られたのは良いんだけど。


再び頭を悩ませる事態になってしまったわ。



…これはこれで困るのよね~。



総魔と龍馬の両方から任せるって言われてしまったのよ?



本当に私が決めても良いのかな?って悩んでしまうわ。



それなのに。


龍馬は微笑ましそうに眺めてる。


本気で私に委ねるつもりみたい。



「そんなに深く考えなくても良いよ。どういう結果になるにせよ、翔子が気に病む必要はないからね。」


「それはそうなんだけど…。」



だからと言って気にならないわけないじゃない。



自分が参加しない試合の予定を決めるのはやっぱり難しいと思うのよ。



…でも、まあ。



実際問題。


龍馬の言う通りではあるのよね~。


二人に任されるって言われたんだから、

ああだこうだと悩むのは時間の無駄に思えるわ。



…うんうん。



私が決めて良いみたいだし、

遠慮なく決めちゃおうかな?


言われるまま気楽に考えてみることにしたわ。



そもそも誰かに気を使うとか、

考えても答えの出ない問題を難しく考えるのは苦手なのよ。



どちらにも任せるって言われたんだから、

ここは気楽な気持ちで適当に決めちゃってもいいんじゃないかなって思う事にしたの。



「それじゃあ、午後7時くらいでどう?」



午後7時って言っても、

その時刻丁度に試合を行うっていう意味じゃないわよ?



それぐらいの時間に集合でいいかなって考えただけ。


遅ければ遅いほど総魔の魔力と体調は回復していくわけだしね。



私としては明日まで待っても良いんじゃないかな〜って思うけれど。


総魔にしてみれば少しでも早い方がいいかもしれないし。



だから少しだけ時間をおいて、

今日の最終時刻に試合を調整したのよ。



会場の閉門は8時。



7時集合で試合を始めれば、

終わる頃には8時に近づくはず。


そして今回も私が受付を妨害すれば他の生徒の挑戦を防ぐ事が出来るわ。



総魔と龍馬。



どちらも私にとって守るべき仲間で友人なのよ。


弱ったところに追い打ちをかけられて降格なんて笑えないわ。


幾つかの条件とかその後のことを考えたらそれぐらいが妥当かなって考えたの。



そしてもちろん龍馬も似たような事を考えてたと思う。


素直に承諾してくれたから。



「わかった。午後7時頃に会場に向かうよ。」


「おっけ~。じゃあ、私は総魔にも話を付けて来るわね」



話し合いは無事に終わったわ。


次は総魔への報告ね。


そのために急いで会議室を出ることにしたのよ。



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