特風
《サイド:美袋翔子》
…さて、と。
ようやく校舎の屋上にたどり着いたわ。
理事長室がある最上階よりもさらに上になる校舎の屋上。
この屋上には私達が時々使っている休憩室があるんだけど、
その隣にはもう一つ重要な部屋があるのよ。
どちらかといえば休憩室よりもこっちに来ることのほうが多いと思うわね。
正式名称は特別風紀委員専用会議室。
通称、特風会って呼んでる部屋なんだけど。
私と沙織や真哉以外の部員はこの会議室に集まっているのよ。
本来なら総魔が試合で倒した由香里や桃花達もこの会議室に集まるんだけど。
今は意識不明の状態だから医務室で眠ってる。
そのせいでいつも以上に人気の少ない会議室なんだけど、
今回の目的はここで間違いないはずなのよ。
…まあ、ここに来るのって結構ひさしぶりだけどね〜。
この数日間で理事長室に行くことは度々あったけれど。
本来在籍しているはずの会議室にくるのはかなりひさしぶりに思えるわ。
…軽く一週間は来てなかったんじゃないかな?
そもそもここへ来なきゃいけないっていう義務がないから滅多に来ない場所だったりするんだけど。
ここ一ヶ月の間は数えるくらいしか来てなかったと思う。
だから、っていうわけじゃないけど、
それなりに気にはなるわね。
…みんな元気にしてるのかな?
現在『特風』に所属しているのは14人。
学園1位の御堂龍馬を筆頭として、
真哉と沙織と私が所属してるんだけど。
実は他にも10人の生徒が所属しているわ。
総魔がどこまで気づいてるかは知らないけどね。
総魔が戦っていた和泉由香里と矢野桃花。
それに岩永一郎君と大森遼一君も特風に所属しているのよ。
だからこの4人も私の同僚ってことになるわ。
まあ、厳密に言うとそれぞれの部署が違うから
あんまり関係ない人もいるんだけど。
一応、仲間であることに間違いはないわ。
…で。
部署に関して説明すると、
まず私は諜報担当よ。
主な任務は情報収集とか追跡になるわ。
学園内で問題を起こしそうな生徒や教師を探し出して、
危険度を判断するのが私の仕事なのよ。
一応、補佐として二人いるんだけど、
一人は副責任者的な役割の男子。
さっきの試合前に研究所の内部情報を把握してそうな心当たりとして思い浮かんだのが彼なんだけど。
あんまり会うことがないからどこで何をしてるのかは私も知らないわ。
で、もう一人が総魔に負けた和泉由香里。
彼女も私の直属の部下なのよ。
まあ、明確な上下関係があるわけじゃないから私達三人で諜報部って感じかしら。
沙織は医療担当よ。
私達にとって薬箱的な存在だけど、
補佐として女子生徒が一人ついてる。
真哉はもちろん戦闘部門よ。
岩永君と大森君は真哉の部下で、
学園内で喧嘩や暴動が起きたら即座に鎮圧に向かうのが主な仕事になるわ。
そして最後の分析班の責任者が桃花よ。
その下に二人の補佐がいるんだけど。
総魔の能力に関して分析をしてもらったのは部下の方だったりするわ。
出来れば責任者の桃花に相談したかったんだけどね。
ちょっと別件で忙しそうだったから総魔に関する任務には声をかけなかったの。
まあ、そんな感じでそれぞれに役割分担してるから全員と会うことってなかなかないし。
たまに会うのも一部だけって感じなのよね~。
だから全員と仲が良いかっていうとそうでもないんだけど。
それでも戦力だけを考えれば学園最大派閥なのは間違いないと思うわ。
特風の下には通常の風紀委員があるから学園最大規模の委員会なのよ。
生徒会や保健委員もそれなりに大きいけど。
風紀委員には負けるでしょうね。
学園の治安維持を最優先させるために構成された風紀委員は戦闘能力の高い生徒が多く在籍してることもあって、
そこそこの実力を持つ生徒にとって風紀委員は一種の名誉みたいな感じになってるから部員数がかなり多いのよ。
その分、性格に問題のある生徒も多いんだけどね。
…真哉みたいに自由気ままな人もいるし。
その辺りの内部監査も私の仕事になるわ。
だから、って言うほどでもないけれど。
基本的に特風に所属する条件はかなり厳しかったりするの。
各部門において優秀な成績を持っているのは当然だけど。
治安維持の為に苦労を惜しまない正義感を持つ事が絶対条件なのよ。
特に私が所属してる特風は理事長直轄の特殊部門だし、
結構無茶な指令もあるから何よりも性格面が重視されているの。
そういう意味では沙織が特風に所属してるのは当然の流れと言えるでしょうね。
才色兼備で超が付くくらい真面目な性格だから、
治安維持にはうってつけの逸材だと思うわ。
…ん〜?
…私?
私は正直に言って治安維持とか興味ないんだけど、
沙織と仲がいいから協力してるって感じね。
特風に入ったのも沙織に誘われたからで、
自分から志願したわけじゃないわ。
だから個人的には無所属の方が気楽でいいんだけど。
学園中の情報を一手に握ってるっていう今の立場もそれなりに気に入ってるかな〜。
どこかで誰かが何かを企んでるとか。
どの生徒がどの教師と付き合ってるとか。
誰が誰を嫌ってるとか。
面白い話もあれば、
つまらない話もあるけれど。
成績から趣味に関する情報までありとあらゆる噂話を知ってるっていうのはそれなりに楽しかったりするのよ。
もちろんその辺りの個人情報をべらべら喋ったりするつもりはないけどね。
情報を握ってるっていうだけで楽しかったりするわ。
ってまあ、そんな理由で諜報部の仕事を続けてたんだけどね。
今回の総魔の問題も含めて、
ありとあらゆる任務を適確に処理する必要があるから、
ある程度の事態に対処出来るようにかなりの権限を与えられているという理由も大きいわ。
特に私の場合は任務の都合上。
学園内において『行けない場所』は一切ないし。
『知らないこと』は何もないのよ。
唯一、研究所だけは管轄外だけど。
そこはもう学園とは関係ない部分でもあるし、
知って得することってあんまりないと思うのよね。
むしろ面倒なことが多そうだから、
関わらずに済むのならその方が良いと思うわ。
それでも学園が保管してる超高価な魔導書とかも好きに見れたりするくらいだし。
自由度はかなり高いはずよ。
まあ、見たところで内容が理解できないから意味がないんだけどね。
…って言うか。
理解できないと思われてるから閲覧許可が出てるのかもしれないけど。
でもまあ、そういう約得もあるから特風の権限を悪用しないことも所属の条件になっているのよ。
で、それらの条件を全て満たしているのは1万人を超える生徒の中でたった14人だけってこと。
他にも候補者は沢山いるみたいだけど。
少数精鋭を公言しているから、
私達主力4人に風紀委員の中から10人だけが選抜されて所属しているのが現状なの。
…とは言ってもね。
特風も元々は風紀委員の一員だから、
風紀委員全体で見ると数百人規模の巨大組織になるんだけどね。
通常の風紀委員があるおかげで私一人では集められない情報を簡単に集めることができるのよ。
まさに人海戦術。
総魔の追跡が簡単にできていたのも数多くの仲間がいたからよ。
学園や町の治安維持の為に協力してくれる数多くの仲間が存在しているのが風紀委員最大の長所だと思うわ。
…で、肝心の会議室なんだけど。
今日は何人居るのかな〜?
ここに来たのにはもちろん理由があるわ。
捜してる人物がここにいるって聞いたからよ。
他の生徒がいるかどうかは確かめてみないと分からないけどね。
少なくともここには龍馬がいるはずなの。
学園1位の御堂龍馬。
彼は私の直属の上司でもあるわ。
私の、というか。
沙織にとっても、
真哉にとってもそうなんだけどね。
特風の責任者だから、
風紀委員全体の委員長でもあるのよ。
以前、研究所で龍馬のことを委員長って呼んでたのはそれが理由ね。
本人は委員長って呼ばれるのが苦手みたいだけど、
実際にそうなんだから嫌がるのはおかしいと思うのよね〜?
委員会の会議に参加する時には風紀委員の委員長として参加してるわけだし。
堂々と委員長を名乗ればいいと思うんだけど。
龍馬が自分で委員長って名乗ってるのを見たことはほとんどないわ。
まあ、風紀委員の一部っていっても部室に行くことはほとんどないし、
実際には別の部署みたいな感じになってるから名乗りにくいのかもしれないけどね。
…真哉と違って、真面目で謙虚な龍馬だけど。
その実力は学園1位。
総魔が目指している頂点に君臨する学園最強の生徒なのよ。
現時点では総魔もそうだけど、
龍馬も全勝無敗の記録を持つ王者なの。
学園の『内外』を問わず、
今まで一度も敗北したことがないらしいわ。
…私はまあ。
恥ずかしいから口には出さないけれど。
10回くらいは敗戦記録があるわ。
最後の1回は総魔だけど。
最初の1回は美春になるわね。
その間の8回に関してはお試しで挑んだ龍馬に1回。
真哉の馬鹿に挑み続けて4回。
沙織に挑戦して2回。
あとの1回はすでに卒業してしまったけれど。
前任の諜報部の責任者だったわ。
それ以外は全員倒してきたのよ。
1000回を超える試合を経験して敗北数は10回。
勝率は99パーセント超。
自分で言うのもなんだけど。
この成績は結構優秀なはずよ。
…まあ、上には上がいるんだけどね。
総魔と龍馬の無敗記録は別として。
真哉は今まで龍馬以外に負けたことがなかったから、
今回の総魔との試合での敗北数を足してもまだ4回目なのよ。
龍馬に挑んで負けた回数が増えてるだけで他は全戦全勝なの。
…ちょっとウザいわよね。
もっと負けまくって私よりも勝率を下げればいいのにって本気で思うわ。
まあ、あの馬鹿の話はどうでも良いんだけど。
それよりも。
私の心の支えであり、
親友でもある沙織の勝率もなかなかの記録なのよ。
総魔に負けたことで合計の敗北数は3回になっちゃったけど。
勝率は真哉よりも上なのよ。
試合回数は私よりも少ないけどね。
…と言うか。
私だけがぶっちぎりで多いんだけど。
1000回以上の試合回数なんて他には居ないらしいわ。
…まあ、ね。
一日一回試合をしたとしても三年かかる回数だから、
普通に考えれば多すぎるわよね。
何年も学園に在籍してる生徒だっているけど。
毎日試合をしてるわけじゃないから。
私よりも試合回数が多い生徒は今のところいないみたい。
反対に総魔の試合回数もおかしいけどね。
数えられる程度の試合回数で2位になっちゃうなんて普通じゃないわ。
学園史上最速の記録。
この記録を塗り替えようと思ったら、
10回くらいで勝ち上がるしかないと思う。
そうなると下位の会場を全部すっ飛ばして勝ち上がるしかないでしょうね。
…うん。無理。
そもそもそんなことが出来るのなら学園に入る必要がないわ。
…まあ、勝率はともかく。
実は沙織には真哉でさえ越えられない実績があるのよ。
総魔と戦う前までは3位だった沙織だけど。
私達の中で最初に1位に到達したのは沙織だったの。
あとから成績を伸ばしてきた龍馬に負けてからは1位に戻れずにいるんだけど。
一度でも1位になれたことは本当に凄いことよね。
だからこそ大賢者に抜擢されたわけだけど。
あの馬鹿がいなければ沙織が2位で私が3位だったのに〜〜〜。
…って、ボヤいても仕方がないわね。
総魔が現れたことでみんなの成績が少しずつ下がっちゃったわけだけど。
最後に残った龍馬こそが理事長にとっても特風にとっても切り札といえる人物になるわ。
…だからこそ。
龍馬と対戦して最強の座を手に入れることが総魔の目的になってるわけだけど、
二人の試合を実現させるのが今の私の役目だと思ってる。
そのためには試合の予定を話さないといけないのよ。
総魔との試合を実現するために龍馬と交渉する。
その為に龍馬を探してるんだけど。
…うんうん。
会議室の中を覗いてみたら、
期待通りに龍馬がいたわ。




