両手に華
《サイド:御堂龍馬》
…うーん。
ちょっと困ったね。
激しく揺れる船のせいで、
船内に入ってからもなかなか思うように前に進めなかったんだ。
成美ちゃんと栗原さん。
二人とも軽度の船酔いで苦しんでいるという理由もあるんだけど。
そもそもどこに向かえばいいのかが分からなかった。
…うーん。
…どうしようかな?
栗原さんと成美ちゃんの着替えを済ませたいんだけど。
更衣室も空き部屋も、
どこにあるのかが分からない。
…どこに向かえば良いんだろうか?
誰かに道を尋ねようと考えながら狭い通路をゆっくりと進んでみる。
周囲には誰もいない…というわけではないんだけどね。
二人の着替えが目的だから、
出来れば女性の知り合いに出会えないかなと思いながら歩いていると。
通路の先から見覚えのある人物が近付いてくる姿が見えたんだ。
「…あっ!西園寺さん。」
「ぅん…?あらあら…?」
僕に視線を向けた西園寺さんは、
何だか楽しそうに微笑んでいた。
「両手に華で羨ましいわね。」
…えっ?
…華?
指摘されたことで両側を交互に確認してしまう。
そして気づいたんだ。
確かに僕の左右には成美ちゃんと栗原さんがいる。
そして二人と手を繋いでいる…と言うか抱き寄せている状態だった。
…うわっ!?
今まで何も考えていなかったけれど。
これは冷やかされても仕方がない状況かもしれない。
そう思ってしまったことで、
顔が赤くなってしまったんだ。
…とは言え。
船の揺れに苦しんでる二人から手を放すというのもどうだろうか?
…って、そうじゃなくて。
それよりも今は話を聞くことが先決だ。
西園寺さんの指摘は聞き流すことにして、
どこかに空いている部屋がないかを尋ねてみようと思う。
「あの…。お聞きしたいことがあるんですけど、二人が着替えられる場所ってどこかにないですか?」
「ん?ああ、着替えね。外は雨だから濡れるのは仕方がないわね。」
問い掛けてみたことで、
西園寺さんは少し考えてからどこに向かえば良いかを教えてくれたんだ。
「昨日、特風の生徒達が使っていた部屋は覚えているかしら?そこなら今は誰も使ってないはずだから自由に使えると思うわよ。」
…ん?
ああ、そうか。
昨日の部屋が空いているのか。
淳弥達が使っていた部屋があったのは覚えている。
そしてその部屋に淳弥達がいないことも知っている。
…3人共ジェノスに残ったからね。
淳弥も里沙も百花もいない。
だから空き部屋になっているはずだ。
「確か…一つ下の階層ですよね?」
「ええ、そうよ。場所は分かるかしら?」
「あ、はい。大丈夫です。」
「そう?だったら案内はいらないわね。」
部屋を教えてくれた西園寺さんは極々自然な足取りで歩きだす。
どこに向かっているのかは知らないけれど。
船の揺れを全く感じさせない歩みなんだ。
…うーん。
…すごいね。
素直に尊敬してしまう。
僕でさえ気持ち悪さを感じるほどの揺れなのに、
全く気にしていないかのようなまっすぐな歩き方なんだ。
…船の揺れを感じていないのかな?
すごく不思議に思ってしまったんだけどね。
「…ああ、そうそう。」
西園寺さんは僕達とすれ違いながら、
何かを思い出したかの様子で話しかけてきた。
「夕食の準備が整い次第、あとで迎えに行くからそれまでは部屋でゆっくりしていて良いわよ。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
「ええ、それじゃあね。」
僕がお礼を言うと、
西園寺さんはそのままどこかへ去ってしまったんだ。




