あと1回
《サイド:天城総魔》
…直接、か。
どこに行ったのかは知らないが、
沙織は首謀者に会いに行ったようだ。
…翔子達の上にいる人物、か。
そろそろ聞くべきだろうか?
…いや、無駄な努力だな。
即座に否定しておく。
知ったところでどうにもならないからだ。
気にならないと言えば嘘になるが、
相手を特定したからといって問題が解決するわけではないからな。
意味もなく探りを入れる必要はないだろう。
…今はそれよりも、だ。
「…う~ん。」
翔子は医務室を出て行った沙織を黙って見送っていた。
そして沙織がいなくなってからもまだ出入り口を見つめ続けている。
「一人で大丈夫かな~?」
それほど心配なら一緒に行けばいいと思うのだが、
ついて行くつもりはないのだろうか?
「気になるのなら一緒に行けば良いだろう?俺もいつまでもここにいるつもりはないからな。」
「え?あ~、うん…。それはまあ、そうなんだけどね~。」
翔子にしては珍しく、
はっきりしない態度だった。
「…うぅ〜〜ん。」
何を悩んでいるのか知らないが一人で唸り続けている。
…動き出す様子はなさそうだな。
翔子は動かなかった。
沙織を追うつもりはないらしい。
「…何となく、行きにくいのよね~。」
…ああ、そういうことか。
今のひと言で察することができた。
翔子としては沙織と共に行動したいのだろう。
だが今はこれまで所属していた組織から離反したという事実があるからな。
会いたくないか、あるいは会いづらい相手がいるのだろう。
沙織も同じ状況ではあるが、
それぞれの立場は異なるだろうからな。
一概には決められないだろう。
「会いたくない人物でもいるのか?」
「…うん、まあ、ね。ちょっと、気まずいかな~」
やはり沙織が会おうとしている人物に会いたくないのだろう。
それが誰なのかは知らないが、
行きたくないというのなら無理に行く必要はない。
「好きにすればいい。俺ももうここには用がないからな」
これ以上ここにいても進展はない。
それに。
今は他にやらなければならないことがある。
「じゃあな。」
「…あ、待って!ちょっと待って、総魔!!」
ひとまず医務室を出ようとしたのだが、
その前に翔子に引き止められてしまった。
目の前に回り込んできた翔子が道を塞いでしまったからだ。
「ねえねえ、この後はどうするつもりなの?」
…この後、か。
今後の予定を問いかけてきた翔子だが、
単純に今日の予定を聞いているわけではないだろう。
残る試合はまだ『あと1回』あるからな。
最後の試合をいつ行うのかという予定を聞いているはずだ。
「…そうだな。」
いまだに一度も面識がない最後の生徒だが。
その生徒が会場に来ない限り、
いつまで経っても試合は出来ない。
…だが。
普通に考えれば1位の生徒が会場に来る事は有り得ない。
何故なら『それ以上は無い』からだ。
会場に向かっても格下との対戦しか行われない。
となれば、会場に来る理由がない。
勝って得るものはないのに負ければ降格する。
それが分かっていて会場に訪れる理由はないだろう。
だから単純に会場で待っていても最後の生徒と会うのは難しいということになる。
「…どうすれば会える?」
「ふふん♪」
素直に聞き返してみると、
翔子は自分の出番を得たと喜んでいた。
「その気があるなら、話を通してあげるわよ。」
翔子の言う『その気』とは、
試合をする気があるかどうかという意味だ。
言葉の意味を察して静かに頷いておく。
「おっけ~♪じゃあ、向こうには私が話してくるけど、予定はどうする?」
「任せる。」
「ん~。」
何か考えているようだが、
おそらく試合の時間をどうするか考えているのだろう。
その辺りに関しては俺が指定できるものではないからな。
翔子か、あるいは対戦相手に任せるつもりでいる。
「翔子の好きにすればいい」
「そう?じゃあ、まあ、いっか。取り合えず向こうの予定を聞いてくるわね。集合はどこにする?もうすぐお昼だし、食堂でいい?」
「ああ、それでいい。」
「うん!じゃあ、行ってくるわね〜。」
元気よく返事をしてから、
笑顔で医務室を出て行った。
その結果。
一人残された後で時計に視線を向けてみた。
時刻は午前10時37分だ。
約束の時間まではまだ1時間以上ある。
これからどこへ行くべきだろうか?
沙織は実験の確認に行き、
翔子は最後の生徒に会いに行った。
この状況で出来ること。
…やはりあの問題を片付けるべきか。
少し時間がかかるかもしれないが、
『とある場所』に向かうことにした。




