どうして
《サイド:常盤沙織》
…どうなのでしょうか?
本当に魔術を使えなくする為の実験が行われていたのでしょうか?
事実がどうかは分かりませんが、
天城君は私達の知らない間に何らかの実験が行われていたということを教えてくれました。
…本当なのでしょうか?
天城君を疑うつもりはありませんが、
事実だとしたら大問題です。
…魔術を使えなくする研究。
それ自体は問題ではありません。
解呪や妨害系の魔術は存在するからです。
ですから。
実験そのものは特別でもなんでもないのですが問題はそこではありません。
…被験者に伝えない極秘実験。
そこに問題があるのです。
…もしも。
もしも本当に何らかの実験が行われていたのだとしたら、
その事実は私にも知らされていません。
理事長から何も聞いていませんし、
研究所からも報告を受けた覚えはありません。
私と翔子の立場的に情報が流せなかったという可能性はあるかもしれませんが、
それと今回の出来事は別問題です。
どういう理由があるにしても、
被験者の許可なく実験を行うことは認められていません。
少なくとも危害が及ぶ可能性のある実験に関しては被験者の同意を得ることが絶対条件とされています。
これは魔術研究所が定めた規則ですので、
黒柳所長が管理するルーン研究所もこの規則から外れることはできません。
…それなのに。
被験者の身に危険が及ぶことを覚悟の上で何らかの実験が行われていたのだとしたら?
それが異常な出来事であることは私にも理解できました。
…それに。
私はすでに知っています。
龍馬でさえそんな実験があるという話を聞かされていないのです。
あくまでも今は仮説でしかありませんが、
本当にそんな実験が行われているのであれば何も聞かされなかった事に対して疑問が出てくるのは当然でした。
…なぜ事前情報がなかったのでしょうか?
何も知らされずに、
天城君と北条君は実験台にされたのだとしたら?
その事実だけでも翔子や私が理事長の手元を離れるのに十分な疑惑だと思えます。
だから、というわけではありませんが。
理事長に対する確かな不信感が生まれた瞬間でもありました。
…どうして何も言ってくれないのでしょうか?
目的はわかりませんが、
事実を確かめる必要がありそうです。
…だとしたら。
ここで考えていても答えは出ません。
直接確認するしかないのです。
天城君を危険視している理事長に会って話を聞く必要があります。
そのために。
理事長室に向かうことにしました。
「直接、事実を確認してきます。」
そう言い残して立ち去る私の背中には、
少し近づき難い雰囲気があったかもしれませんね。




