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THE WORLD  作者: SEASONS
4月5日
143/185

八つ当たり

《サイド:西園寺つばめ》



…た、助かった、のよね?



上手く逃げ切れたなんて思わないけれど。


諦めて立ち去ってくれたみたい。



…はぁ。



色々と思うことはあるけれど。


どうにか私は私の職務を全うしたわ。



…殺されるかと思ったけどね。



そこまで危険な人物ではないと信じたいけれど。


何もかもが異常に思えてしまったのよ。



冷たい眼と威圧感が含まれた声。



…殺意って本当に感じられるのね。



彼がどう思っていたかは知らないけれど。


対応を間違えていたら殺されていたかもしれないって、本気で思えたのよ。



…ああいうのを猛獣って言うんじゃないかしら?



実際に見たことなんてないけれど。


あれはもう熊や狼と同じね。


遭遇した時点で命の危機を感じる類の存在だと思うわ。



…思い出すだけで身体が震えるのよ。



彼と対面した時の恐怖は夢に出てくるんじゃないかと思ってしまうくらい強烈な印象を残してくれたわ。



それくらい怖かったの。



…もう二度とごめんだわ。



もう二度と彼には関わりたくないと心の底から願ってしまう。



…それでも、とりあえずは助かったのよね?



ひとまず目の前の危機が去ってくれたことで安堵のため息を吐いてみる。


そうして少しだけ気持ちが落ち着いてきたところで二人の人物が歩み寄ってきたのよ。



一人は私の上司である黒柳所長で、

もう一人は学園の理事長でもある米倉代表よ。



「彼らは行ったようだな。」


「大変だったわね。ご苦労様。」



…本当にそう。



精神的には疲労困憊だから、

心境的にはそっとしておいて欲しかったわ。



…まあ、立場的に文句は言えないけどね。



「…うぅぅ~。お疲れ様です。」



今でもまだ心臓が恐怖を訴えているけれど。


報告を終えるまでが仕事だから仕方がないわ。



「最後まで見ていたが、なかなかの演技だったぞ」



所長が笑顔を浮かべながら話しかけてくる。



「意外と才能があるんじゃないか?」



…くっ。



失笑としか思えない笑みだったわ。


だからそんな所長の表情を見ていると、

どうしても苛立ちを感じてしまうのよ。



「ほ、本当に怖かったんですからねっ!!!」



全力で怒鳴ってしまったわ。


だけど自分でもわかってる。


どんなに叫んだとしても、

それが八つ当たりでしかないことは自分でも十分に理解しているのよ。



…悔しいけれど。



天城総魔と対面した恐怖は今でもまだ消えないし。


両膝がガクガクと震えたままだから。



自分でも自分が情けないと思うわ。



「これでも頑張ったんですからね!」


「ははっ。そいつはご苦労様だったな。」



…あ~もう!!



「笑い事じゃないですっ!!!」



いまだに笑顔を崩さない所長を強く睨みつけてしまう。


だけど所長は全く気にしなかったわ。


それどころか今度は米倉代表が苦笑しながら話しかけてきたのよ。



「まあ、結果はともかく。天城総魔に勘づかれる可能性は最初から考慮していたから、この状況は仕方がないことよ。ただ…あの対応はまずかったわね。」



…うぅ。



「…も、申し訳ありませんでした。」



全力で頭を下げたわ。



…さすがに、ね。



相手は国家の代表なのよ。



米倉代表に怒鳴るわけにはいかないわ。


だから即座に頭を下げたんだけど、

一応それ以上の叱責はなかったわ。



「まあ、済んだ事を言っても仕方がないし、気にしなくていいわ。それよりも実験はどうなの?」


「そ、それが…」



どう答えるべきかしら?



言葉に迷ってしまうわね。


あまり良い報告が出来ないからよ。



そんな私の態度を見ていた所長が実験結果を察してくれたみたい。



「失敗だったのか?」



…えっと。



どう、なのかしら?


その判断自体が難しいのよね。



「い、いえ。完全に失敗というわけではないんです。ですが…」



言葉を整理してから実験結果を二人に話してみる。



まずは表向きの実験からだけど。


結界の耐久性に関してはほぼ予想通りの結果が出たから、

多少手直しをすればそれなりに完成に近づくはずよ。


だけど本題はそちらではないわね。



本来の目的である拘束魔術の結果が重要なんだけど、

こちらの実験は想定していた効果を遥かに下回る結果になっていたわ。



今回の実験の為に準備した結界は簡易的な物だったから最初から大した効果は期待出来ないものだったけれど。


それでも想定していた効果を大きく下回っていたのよ。



…まあ、これは仕方がないわね。



あえて簡易的な機材を導入したことには理由がちゃんとあるから。


研究所での会議の結果として、

拘束結界をそのまま使用すればさすがに勘づかれる可能性が高いと判断してわざと精度の低い試作品を使用したのよ。



今回はあくまでも起動実験だから。



期待通りに発動できるかどうかという確認のための実験だったから本気で拘束しようとしていたわけじゃないわ。



そういう理由もあって結界の効果は極小。



天城総魔と北条真哉の二人に対して発動させた結界は一秒にも満たないほどの時間しか魔力を止める事が出来なかったのよ。



…それでも。



影響を与えること事態には成功していたから完全に失敗というわけではないはず。



むしろ中途半端に発動したことで、

天城総魔に気付かれずに済んだという利点があったかもしれないわ。



結果的に拘束結界としての実験は失敗したけれど。


魔力に干渉するという実験には成功していたから、

今回の実験結果を元にして試作品を改良すれば『対天城総魔用』の切り札になりえるかもしれないのよ。



というところまで説明したところで、

所長と米倉代表は黙り込んでしまったわ。



「「………。」」



しばらく沈黙する二人。


すでに天城総魔は学園2位まで勝ち進んでいるから次が最後の試合になるわ。



御堂龍馬との試合が行われるのがいつになるのかは知らないけれど。


それまでに実験が完成するのかははなはだ疑問だと思う。



…頭の痛い問題よね。



残り時間はあとわずかしかないからよ。



今日中に試合が行われるのかしら?


それとも明日に引き延ばされるのかしら?



遅ければ遅いほど私達にとっては有り難いわ。



…だと、すると。



なんとしてでも時間を稼ぐ事が最優先事項になるのかしら?



その辺りも含めて、

再び話し合うことになったのよ。



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