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THE WORLD  作者: SEASONS
4月5日
137/185

魔力が歪む感覚

《サイド:天城総魔》



ようやく実験の準備が整ったらしい。


多くの職員が試合場を離れ、

西園寺が審判役として試合場の端に立つ。



「もう一度言っておくけれど、試合の合図は私が出すわ。そして実験は20秒間だけ行わせてもらう予定よ。そのあと職員は撤収するけど、試合は一応、私が最後まで見届けてあげるわね。」



実験の結果に関わらず、

西園寺は最後まで試合を観戦するつもりらしい。



一通りの説明をした西園寺が左手を高く掲げた。



「さあ、準備はいいかしら?」



最終確認を行ってきたが、

もちろん異論などない。


むしろ待たされすぎて気が抜けかけているくらいだからな。



「いつでもいい」


「おう!さっさと始めようぜ!」


「わかったわ。それじゃあ、試合開始を宣言するわよ。」



最後にもう一度だけ俺の様子を確認した西園寺が

振り上げていた左手を勢いよく振り下ろす。



「試合、始めっ!!」



開始の合図と同時に未完成の結界が試合場を包み込んだ。



形状はほぼ同じだが、

普段の結界とは色彩が少しだけ異なるように思える。



透明ではなく。


薄い白色の結界だったからだ。


おそらく研究所で見た結界と同種のものだろう。


少し濁ったガラスとでも表現すべき色だった。



「これが新型か?見た目がちょっと変わっただけだろ?」



北条も似たような感想らしい。


軽く笑いながらルーンを握り締める北条だが、

今ここで重要なのは結界ではない。



その手に握られている長身の槍だ。



長さは軽く3メートルを越えるだろう。


先端の刃だけでも40センチほどはある。



そして槍の先端の左右両側には斧としても使えそうなほど切れ味の良さそうな鋭い刃が光を放ってきらめいていた。



先端の直線の刃とは別に、

反り返るような幅広い刃が組み合わされている三つ又の刃だ。



分類するならハルバードとでも呼ぶべきだろうか?



突き刺す事はもちろん、

切り裂く事も可能な槍。


魔力で作られた北条の槍は淡い緑色の光を放っているように見えた。



「さて、一応紹介しておくぜ。この槍の名前はラングリッサーだ。その能力は…まあ、自分で確かめな!」



槍の名前を宣言した北条が一気に飛び出す。


実験の予定では結界が20秒しか作用しないからだろう。


北条は20秒間を全力で戦うつもりのようだ。



「はっはー!!!!行くぜっ!!!」



全力で試合場を駆ける北条に対応するために、

今回は即座に霧の結界を発動させる。



「ホワイト・アウト」



右手に魔剣を構えながら霧の結界で身を守ることにした。



…結界の範囲は広げておくべきか。



槍の長さはおよそ3メートル。


今までと同じ範囲では結界の外部から攻撃が届く可能性があるからな。


北条の攻撃範囲を考慮して霧の範囲を半径10メートルまで拡大した。


そのために普段よりも魔力を消費してしまったが、

これでも最低限の対策としか言えないだろう。



「言っておくが、無理に踏み込めば霧に飲み込まれることになる。」



突撃は無謀だと宣言したのだが。



「はっ!んなこと知るか!無理やり突き抜けるに決まってんだろっ!!」



北条は迷う事なく攻め込んできた。



「うおおおおおおおおおっ!!!!!!!」



気合いの叫び声と共に槍を構えたまま霧の内部に飛び込む。



「この程度で俺を止められると思うなよっ!!」



…ちっ!



北条の動きは止まらなかった。


霧の影響を受けていないわけではない。


結界内に入ったことで魔力を奪われているはずなのに。


それでも北条の動きが止まることはなかった。



…強引に突き抜けてくるのか!



突撃をやめない北条を見て舌打ちをしながら後退する。


このまま立ち止まっていたら槍の射程に入ってしまうからだ。



「…まさか正面から飛び込んでくるとはな」


「当然だろ?こそこそするのは趣味じゃねえって言ったはずだっ!!」



…確かに聞いた覚えはある。



初対面の挨拶で言っていた覚えはある。



…とはいえ。



そういう問題ではないと思うのだが、

困ったことに北条に霧は通用しなかったらしい。


いや、通用しないという言い方は違うか。



魔力を奪っている実感はあるからだ。


それでも北条を止めるには至らなかったというべきだろう。



…これも実力差か。



「このままぶっ飛ばす!!」



霧の結界を突き抜けた北条が握り締めていた槍を豪快に振り回す。



「おらあああああああっ!!!!!!」



強引な力技だが、すさまじい威圧感だ。



気合の雄叫びが響き渡り、

圧倒的な暴力が爆音と共に生み出される。



「これが『力』だ!!!」



叩きつけられた槍が試合場の一部を粉砕する。


その直後に聴覚が麻痺するほどの轟音が鳴り響いて破壊の嵐が吹き荒れた。



…くっ!?



驚くほどの破壊力だ。


瞬間的な攻撃力は沙織を上回るだろう。



小細工なしの力技。



その一撃だけで試合場が半壊し。


粉砕された瓦礫が全方位に吹き飛んでいく。



「馬鹿げた力だな…っ。」


「はっはー!!それが俺の取り柄だからな!」



一撃で試合場を粉砕した北条の破壊力は翔子の全力の一撃に匹敵する。


範囲攻撃ではないために回避は難しくないものの。


一撃必倒という意味では沙織の魔術より危険かも知れない。



総合的な破壊力は沙織に負けるだろうが、

力と速さが格段に上だ。



戦闘技術がずば抜けている。


接近戦では分が悪いのはすぐに分かった。



そしてなにより。


今の一撃だけで霧の結界が完全に吹き飛ばされてしまっている。


霧の能力よりも北条真哉の破壊力が上回っていたのは間違いないだろう。



さらに問題がある。



衝撃の余波を受けただけで、

俺も後方へと押し出されてしまったからだ。


一撃の破壊力も危険だが、

それ以上に危険な能力を持っているようだった。



他にも様々な問題はあるのだが、

この一瞬で分かったことがいくつかある。



今の一撃でルーンの能力の一部が感じ取れたからだ。



はっきりとした答えはまだだせないが、

霧を突破出来るほどの実力があるのは間違いない。


だがそれだけではない。



もっと別の能力があの槍にはあるはずだ。


単なる破壊の武器ではない別の何か。



その能力を判断する為に。


今度はこちらから動き出すことにした。



「その槍の力を見せてもらおうか」



吹き飛ばされた地点で体勢と整えてから、

前方の北条に向かって一気に駆けだす。



「へっ!そうこなくっちゃ面白くねえぜ!」



全力で切り上げる魔剣と振り下ろす槍の刃が激突する。


そして互いのルーンが交差した瞬間に、

『キィィィン!』と鋭い金属音が試合場に鳴り響いた。



…くっ!?



これまで全ての魔力を切り裂いてきた魔剣が、

北条の槍と物理的に衝突した。



…くっ。


…斬れなかったか。



破壊することが出来ずに攻撃が止められてしまっている。



この瞬間に互いの優劣が明らかになってしまった。



押し負けたということだ。



振り上げるよりも振り下ろす方が力が込めやすいのは間違いない。


だが、そんな問題ではなく。


北条の腕力が強引に押さえ込もうとしていたからだ。



「体を鍛えているのは一目で分かったが、まさかここまで差があるとはな…っ」



立場が逆でも勝てなかっただろう。


上段と下段という問題ではないからだ。



「ははっ!!翔子には馬鹿にされるが、伊達に体を鍛えてるわけじゃねえんだぜ!戦闘は体力勝負だ!いくら魔術の実力があってもそれだけで戦闘に勝てるわけじゃねえからな!」


「…確かに、そうだな…っ。」



北条の言葉はもっともだ。


戦いである以上。


魔術よりも技術が重要になる。



「なるほど…な。これが学園2位の実力か…っ。」


「俺の上はもっと強えぜ!!」


「それは、楽しみだっ」



現状でも北条に押し負けている。


その北条よりも強い相手がいるのなら、

戦う価値は十分にあるだろう。



だからこそ。



「この試合を終わらせて、次の試合へと進ませてもらう」


「はっ!そんな台詞は俺を倒せたあとに言うんだな」



互いに切り結んだ状態で北条がさらに力を込めてくる。



…くっ!!



北条の攻撃を弾くことができない。


それどころか受け流す余裕すらない。


思っていた以上の力だ。



今もラングリッサーに込められている魔力の一部を奪う事は出来ているのだが、

北条自身の腕力に負けて徐々に追い詰められてしまっている。



…単純な力では分が悪すぎるか。



北条の持つ能力の分析が間に合わなければ、

この試合に勝ち目はないだろう。


それだけは直感で理解できたのだが次の瞬間に異変が起きた。



…なんだっ!?



言葉では表現できない違和感を感じる。



…いや。



何が起きたのかを知覚できないというべきだろうか?


突然、思考がかき乱されるような気持ち悪さに襲われてしまった。


全身の魔力が歪むような奇妙な感覚に陥ってしまったからだ。



…これが、北条の力なのか?



まだ把握できていない能力が発動したのかと考えて即座に北条に視線を向けたのだが…。



「……っ。」



見上げた視線の先では北条も同様の苦痛を感じているかのような苦悶の表情を浮かべていた。



「ちぃっ!!これはっ、どういう事だ…っ!?」



動揺しているのは一目瞭然だ。


北条からすれば、この状況は俺の仕業だと考えているのかもしれない。



だが、その考えは間違っている。



俺も同様の影響を受けているからだ。



‥っ!?



言葉にできない苦痛。



その違和感に襲われたのは数秒間だけだったが、

互いの一瞬の隙をつくことで北条から離れて距離をとることはできた。



…運が良かったと思うべきか?



いや、余計な邪魔が入ったと思うべきだろうな。


どうやら今の現象は北条の能力ではないらしい。



…だとすれば考えられる理由は一つしかない。



即座に西園寺へと視線を向けてみると、

俺の視線に気付いた西園寺が慌てて視線を逸らしていた。



「こ、これは…じ、実験、失敗…という事、かしら…ね?」



はっきりと分かる明らかな動揺。


やはり西園寺は何かを行っていたようだ。



その確信は得られたものの。


西園寺の行動にばかり気を取られている状況ではなかった。



20秒が経過したことで撤収する研究員達に目もくれずに、

北条がこちらへと駆け出して距離を詰めてくるからだ。



「これがお前の新しい力か!?」



何も知らない北条は敵意を見せながら突進して来る。


その勢いのせいで話をする余裕はなさそうだった。



…俺の言い分を聞いてくれそうにはないな。



問答無用で攻撃を仕掛ける北条の攻撃を受け止めるために魔剣を構え直したのだが、

勢いに押されて再び後方へと弾き飛ばされてしまう。



…ちっ。



距離が離れていたおかげで上手く防げたが、

手がしびれるような感覚は残ってしまっている。



やはり純粋な腕力の差だけはどうしようもないらしい。



…単純の力は油断できないな。



西園寺が何の実験を行っていたのかも不明だが、

北条の能力もまだ分からないままだ。



…どちらから優先するべきだ?



その答えは考えるまでもないだろう。



魔剣を構え直してから再び北条に向き直る。


そして即座に霧の結界を展開して接近に備えた。



まずは北条を制するしかない。



当初の予定通り。


持久戦に持ち込むつもりで防御に徹することにした。



「ここからが本番だ。」


「はっ!その程度の結界で俺を止められると思うなよ!」



一度突き抜けたことで自信を持ったのだろう。


北条は勢いよく飛び出して再び霧の内部へと突入してくる。



…やはり霧では止められないか。



北条の魔力が多いことも理由の一つだ。


全てを奪い取るのに時間がかかってしまっている。



もちろん霧の内部でも行動できる何らかの能力があるはずだが、

それ以上に北条の意志の強さが上回っているのだろう。



…魔力を奪われた程度では退かないということだ。



その度胸はさすがとしか言いようがない。



…やはり北条は強敵だな。



すでに謎の違和感はなくなっているが、

念のために周囲を確認してみる。



…手際は褒めるべきか?



あれほどいた職員達はほとんど立ち去っている。


残っているのは機材を片付けている数名の職員と審判を務める西園寺だけだろう。



…もう一度邪魔が入る心配はなさそうだな。



実験に関しては後回しでいい。


今は目の前の問題を解決するべきだ。



ひとまず余計なことには気を向けずに、

目の前の北条に全力で攻め込むことにする。



「はぁぁぁっ!!!」


「うおおおおおおおおおおっ!!!!」



接近戦で互いのルーンを激突させながら幾度と無く繰り返す攻撃。


その度に甲高い金属音が試合場に響き渡る。



さすがに接近戦では大規模魔術を放つ余裕がない。


攻撃を捌くだけで精一杯になる。



…予想はしていたが。



やはり北条の戦闘能力はずば抜けていた。


すでにかなりの魔力を奪っているはずなのに

全く動きが鈍る様子が見られないからだ。



…このままではまずいか。



力づくで押し切られてしまうかもしれない。



「おらおらおらおらああああああっ!!!!」



…くっ!



上下左右から迫る連撃を必死に受け止めながら能力の分析を急ぐ。



…北条の能力はなんだ!?



今はまだ上手く言い表せないが、

破壊力に関わる能力ではないように思える。



北条の攻撃は特殊な能力ではない。


単純な腕力だからだ。



もちろん魔術があってこその破壊力なのは間違いないのだが、

北条の攻撃は魔術に腕力を加算する形で発動しているように思える。



…特殊な能力で攻撃力を上げているわけではないだろう。



それに。


北条は魔力を吸収する霧の内部に正面から飛び込んで来ている。


単純な攻撃特化ではないのは間違いない。



…だとすれば、どんな能力を持っているのか。



魔術に対する耐性があるのか?


可能性は高いが、何かが違う気がする。



俺の攻撃は無効化されているわけではない。


効果は微弱だが、

間違いなく魔力を奪っているからだ。



実際、俺の魔力は少しずつだが増えている。


それなのに。


北条は霧の内部で行動し続けている。



これは単に効果が薄いという話ではないだろう。



間違いなく影響しているのだが、

想定しているほどの効果が起きていないというべきだろうか?



現状、北条を観察しているだけでは分からない。


だが防御に徹することで、

北条も焦りを感じ始めているようには見えた。


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