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THE WORLD  作者: SEASONS
4月5日
136/185

戦力半減

《サイド:米倉美由紀》



…そろそろね。



試合場から隠れた見えない位置に潜みながら会場の様子を見る。



天城総魔の観察という目的を持ってここにいるんだけど。


それ以上に拘束結界の結果が気になってこっそり様子を見に来たのよ。



…で、まあ、あれが天城総魔なのね。



入学式でも見たような気はするけど、

はっきりとは覚えてないわ。


眠ってばかりで態度が悪いと感じていた生徒の一人だったようにも思えるけど。


昨日までの翔子からの報告を信じるなら、

入学式を寝て過ごすような人物ではなさそうなのよね。


まあ、実際にどうかなんて割とどうでもいい話だけど。


あの時はまだそこまで気にしてなかったから、

天城総魔という人物を甘く見ていたのは事実だと認めるしかないわ。


だから今日この時まで顔を確認することさえしてなかったのよ。



…それが怠慢だったわけだけど。



仕事を他人に丸投げしている間に追い込まれる結果になってしまってた。



…これを怠慢と言わずになんていうのかしら?



自分で自分を嘲笑いたくなってしまうわ。



…本当に、どうしてこうなってしまったのかしらね。



込み上げて来る悔しさのせいで無意識のうちに唇を噛み締めてしまう。



…こんなはずじゃなかったのに。



悔やんでも悔やみきれないっていう言葉はきっとこういう状況で使うんでしょうね。



何もかもが今更だけど。


分かってはいても心は焦りを隠せないのよ。



…はぁ。



この件に関しては本当についてないと思うわ。


まだ昨日の夜の段階ではね。


こんな大掛かりな準備をするつもりはなかったのよ。



当初の予定では北条君との試合中にこっそり実験を行う予定だったの。



試合はまだ『2回』もあるんだから。



北条君との試合中に実験を進めて、

その後の御堂君との試合に間に合うように準備を進めていくつもりだったのよ。


試作でもなんでも良いから、

御堂君との試合が終わるまでに使える程度に仕上げればいいと考えていたの。


そういう予定を立てていたのに。


今朝になって再び想定外な出来事が起きてしまったわ。



…そうならないように願っていたのに。



期待は大きく覆されてしまったの。



今日になって沙織まで離反してしまったのよ。



その理由に関しては何も話してくれなかったけれど。


翔子と同様に天城総魔に関する一切の諜報活動を放棄するという言葉を残して沙織は姿を消したわ。



困ったことに。


翔子に続いて沙織まで私の手を離れてしまったのよ。



その事実が私を焦らせる原因になっているの。



ここまで状況が変わってしまったら、

もう緊急事態どころではないわ。


まさしく非常事態と言ってもいいくらいよ。



絶対にあってはいけない状況になってしまってる。



…これで戦力は半減。



頭数は半分だけど。


実力的には天城総魔が優勢でしょうね。



翔子はともかく。


学園唯一の大賢者である沙織が抜けたのが痛すぎるのよ。



…他は代わりがきくけれど沙織だけはダメ。



各部署のまとめ役であり、

私の腹心ともいえる立場だったんだから。


沙織が私の手を離れることだけは絶対に認められないわ。



だからどうにか穏便に済ませるために保留という扱いで結論を先延ばしにしてもらったんだけど。


それでも翔子同様に天城総魔の調査および妨害工作からは完全に手を引くという条件を飲まされてしまったのよ。



…これで二人。



私の直轄部隊である4人の生徒。


その主戦力が半壊したのは大きな痛手だったわ。


天城総魔の能力を考慮すれば数の力で押さえ込むという方法は愚策ぐさくでしかないのも問題ね。



…量よりも質で対抗しなければいけないのに。



すでに二人も抜けてしまったのよ。


この現状は最悪の結果に向かって突き進んでいるようにしか思えないわ。



…ここで北条君まで倒れたら。



私の戦力は壊滅一歩手前になってしまう。



翔子も沙織も北条君も表向きは単なる風紀委員だけど。


実際には単なる委員を遥かに超える権限を与えられているわ。



学園内では彼らの組織を『特風』と呼んでいるんだけど。


その業務内容は学園の内部監査を専門とする実行部隊になる。



正式名称は『特別とくべつ風紀委員ふうきいいんかい』。



そんな学園の規律を守るべき役職につく4人の生徒のうちの二人が私の手を離れてしまったのよ。



…それに。



曖昧な態度をとる北条君の存在も懸念けねん材料になっているわ。



もしも彼まで離れるような事があったら?



もうどんな作戦も意味を成さないと思ってしまうわね。



彼等を封じ込める強制力なんて皆無に等しいからよ。


それこそ私にとって最後の希望と言ってもいい拘束結界が完成しない限り。


対抗することさえ難しいでしょうね。



…もうあとがないのよ。



そう思うからこそ。


実験を完成させる為に。


強引だとは分かっているけれど、

なりふりかまわずに強行手段に出たの。



だから今回の実験がこんなふうに大規模になってしまったのは、

沙織が私の手を離れたからという理由が全てよ。



…これ以上。



これ以上、天城総魔の勢力が拡大するのは困るの。



今はたった3人でしかないけれど。


今後も増えないという保証はどこにもないわ。



北条君や御堂君でさえも絶対に裏切らないとは言い切れない。



…それに。



学園内の他の生徒が天城総魔の影響を受けないとも言い切れないし。


力に心酔する生徒は必ず出てくるでしょうね。



そうでなくても翔子や沙織の協力者が天城総魔の勢力に流れる可能性もある。



だから数が少ない今のうちに抑え込まなければいけないのよ。


そのために一刻も早く拘束結界を完成させる事が最優先事項となってしまったの。



…だからもう、なりふりかまってはいられないのよ。



天城総魔に勘づかれる可能性を考慮しながらも強行策に出るしかなかったの。



とは言え。


ここで実験が失敗すれば全てが無駄に終わるでしょうね。



成功すれば天城総魔に対する抑止力として考慮出来るけれど、

その前に気付かれて対策を取られるような事態になれば再び振出しに戻ることになるからよ。



それがわかっていながらも、

限られた時間で実験を押し進める為にはもう、

こうするしか他に方法がなかったの。



…こうなったらイチかバチかよね。



全てが、なんて贅沢は言わないわ。


部分的にでも上手くいくように願うだけ。



そんな神頼み的状況で実験を見守っているところよ。



…頼むわよ、みんな。



北条君には試合を託し。


未完成の実験の行く末を西園寺さんに委ねる。



今はまだ何もできない私は、

ただ黙って眺めることしかできなかったわ。


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