惚れた女のために
「素直にきみを尊敬するよ。僕が力を封印した時は…きみのように戦えなかったからね。」
失った力に未練を感じて、
戸惑っていただけだったから。
「だから今のきみを見ていると…羨ましいと思ってしまうんだ。」
正直な気持ちを言葉にする。
そんな僕を見ていた淳弥は、
照れ笑いを浮かべながら答えてくれたんだ。
「ははっ。そこは同じだろ?俺だって御堂と同じ気持ちだ。」
封印した力に未練があって、
今をふがいないと思う気持ちはあるらしい。
「でもな?ここで立ち止まっていたら御堂には追い付けないだろ?御堂が自分の限界を乗り越えて今の力にたどり着いたように、俺もそうなりたいと思うから何とか頑張れるんだ。」
「僕のように?」
「ああ、そうだ。すぐ傍に見本がいるんだぞ?くじけてる暇があるなら努力を続けたほうが良いに決まってるだろ?…とまあ、今はそう考えてるだけだな。」
照れ臭そうに話す淳弥の言葉を聞いて、
僕も何となく恥ずかしさを感じてしまった。
「僕はきみが思うほど優秀な人間じゃないよ。」
僕はただ足掻いていただけなんだ。
彼に置いて行かれないように。
そして彼に辿り着けるように。
「ただ足掻いていただけなんだよ。」
僕は決して最強でもなければ英雄でもない。
結果として以前より強くなったかもしれないけれど。
それだけに過ぎないんだ。
戦争を経験して力を得ただけに過ぎない。
だから僕自身は何も変わっていないと思ってる。
総魔を越えられないまま、
何も出来ないままでいるんだ。
そう思うからこそ淳弥を羨ましく感じているんだよ。
「淳弥はどうして戦えるんだい?何の為に?」
「ん?そんなの決まってるだろ?」
淳弥は笑って答えてくれた。
「翔子が守りたかったこの町をみすみす滅ぼさせるわけにはいかないだろ?惚れた女の願いを叶えるのが男の役目だと思わないか?」
…ははっ、そうだね。
苦笑する淳弥だけど。
その笑顔はとても自然で、
とても優しい笑顔に見えたんだ。
「そうかもしれないね。」
淳弥の言葉を素直に受け入れられた。
沙織が残したこの世界。
沙織が守ろうとしたこの町。
…そして成美ちゃん。
この町を守り抜くことが僕に出来る沙織への愛だと思っているから。
だから。
淳弥が翔子を想う気持ちと同じように。
僕も沙織を想いながら、
今を生きる成美ちゃんを守ろうと考えている。
沙織のためには何も出来なかったけれど。
だからこそ成美ちゃんを守りたいと思うんだ。
成美ちゃんの幸せを守り抜くことが、
今の僕に出来る唯一の役目だと思うから。
だから僕は戦える。
それが沙織の願いだと思うから、
僕はまだ戦えるんだよ。
「きみの気持ちも理解できるかな。」
成美ちゃんがいるはずの校舎へと視線を向けてみる。
もちろん成美ちゃんの姿は見えないけどね。
それでも視線を向けている間に、
誰かが駆け寄って来る足音が聞こえた気がしたんだ。




