使う人次第
《サイド:芹澤里沙》
「全員、脱出出来たの!?」
燃え続ける食堂の内部で、
焦りを感じながらも必死に呼び掛けてみる。
だけど私の呼びかけに対して、
返事は一切返ってこなかったわ。
…もう居ないのかな?
「里沙!私達も離脱するわよ!」
百花ももう誰もいないと判断したみたい。
私の手を引く百花は今にも崩れ落ちそうな食堂から離れようとしていたわ。
「本当にもう誰もいないの?」
「それを確認する余裕はないわ!だけど魔力の波動を感じないから…多分いないはずよ。」
…確かに。
百花の言葉が事実なら、
これ以上調べる必要はないかもね。
「魔力の波動を探るのって苦手なのよね~。」
まあ、百花もあまり得意じゃないみたいだけど。
それでも私よりはマシだと思うし。
その百花が言うんだから大丈夫だと思うわ。
自信を持って完璧とは言えないけどね。
いるかいないか分からない誰かを探すよりも、
早く逃げないと私と百花まで建物の崩壊に巻き込まれてしまうのよ。
「逃げるわよ!百花!」
「ええ、急いで離脱するわよ!!」
入口を脱出して校舎から離れる。
外から見てみると、
かなり状況が変わっているわね。
突入当初に比べて、
遥かに炎の勢いが拡大していたのよ。
…もう止められないわね。
成美ちゃんが凍結してくれた入り口もすでに炎が広がっていて、
もう消化できるような状況じゃないのよ。
…せめて襲撃さえなければ。
謎の襲撃者による戦闘さえなければ、
学園中にいる魔術師をかき集めて消火活動ができるんだけど。
学園の各地で起きている戦闘のせいで、
実力のある人達は手一杯。
かと言って成績下位の生徒を集めても燃える校舎を消火なんて出来ないわ。
そんな悪条件のせいで何もできないの。
…まさか校舎が燃えるなんてね。
燃え盛る炎によって崩れ落ちる校舎を眺めながら百花に話し掛けてみる。
「こんなにも簡単に壊れるのね。」
「ええ…そうね。魔術は使い方によっては救いにもなるし脅威にもなる。それが現実なのよ。」
…うん。
消火活動が不可能なほどの勢いで燃え盛る炎。
学園が誇る広大な食堂は、
僅か数十分で崩れ始めたわ。
「これが…魔術の力なのね。」
呟く私の視線の先で、
食堂の天井が『メキメキ』と音を立てながら崩れだしてる。
…そして。
ついに崩壊が起きてしまうのよ。
『バキィィッ!!!!』と一際大きな音が聞こえたと思った次の瞬間に、
一気に天井が崩壊して食堂が原形を失ってしまったわ。
校舎の2階が崩落して降ってきたのよ。
舞い上がる粉塵。
立ち上る黒煙。
今でもまだ広がっている炎が食堂の全てを燃やし尽くしていく。
ただの火事じゃなくて魔術による放火だから。
炎の勢いは通常の数十倍。
…これが魔術の力なのね。
改めて魔術の力を思い知ったことで、
私の心を不安が埋め尽くしてしまったわ。
…これが戦争なの?
…これが戦いなの?
…これが、魔術なの?
今まで当たり前に使っていた力だけど。
この力は簡単に人を殺せてしまうのよ。
使う人次第で『善』にも『悪』にも変わる力。
…それが魔術なのね。
改めて恐怖を感じる瞬間だったわ。
崩れ落ちる食堂を眺めながら、
恐怖を感じて体を震わせてしまったの。
「これが…私達の力なの?」
犠牲者はいないとしても、
目の前の現実は真実を物語っているわ。
「これが…私達の力。」
「そう。これが私達の力よ。」
呟く私の体を百花が優しく抱きしめてくれてた。
食堂を放火したのは私達じゃないけれど。
同じ事を私達だって出来てしまうからよ。
「力をどう使うのか?それが私達に課せられた試練なのよ。そしてその試練をどう乗り越えるのか?それこそが私達の最大の課題でしょうね。」
…試練で、課題?
「里沙なら大丈夫よ。里沙は優しい子だから道を間違えたりしないわ。私はそう思ってる。」
…うん。
優しい言葉だったわ。
温かい言葉だったのよ。
その言葉に百花の想いを感じることが出来たから、
私の体は自然と震えが収まっていたの。
「ありがとう、百花。もう大丈夫よ。」
「そう?私はもう少しこのままでも良いのよ?」
「ん~、悪くはないけど。恥ずかしいし。」
それにね。
いつも沙織と二人で仲良くしていた翔子に「いちゃついてないで仕事をしなさい!」なんて言ってた私が百花とじゃれてるわけにはいかないわ。
「のんびりするのは仕事が終わってから…ってね♪」
「ふふっ。」
元気を取り戻した私を見つめる百花は、
名残惜しそうに私から手を離してくれたのよ。
「やっぱり里沙は笑顔が一番似合っているわ。」
「そう?ありがと、百花♪」
「どういたしまして。」
心地よい雰囲気で親友に感謝してから、
お互いに微笑み合う。
そうして周囲の様子に視線を向けてみたところで、
ようやく『とある事実』に気付いたのよ。
「あれ?そう言えば…御堂君達は?」
「さあ?」
呟く私の声を聞いて百花も周囲を見渡しているけれど。
どこにもいないみたいね。
「移動したのかしら?」
…かな?
私達と同じように崩れる校舎を遠くから眺めている生徒達は沢山いるけれど。
御堂君と栗原さんと成美ちゃんの姿はどこにも見つけられなかったのよ。
「どうする百花?」
「…そうね。他にも戦闘が続いているようだから私達も別の場所へ移動しましょう。」
「おっけ~!」
気楽に返事を返してから周囲の音に耳を傾ける。
目の前では校舎の一部が轟音を立てながら崩れているけど。
それとは別の方角からも爆発音が聞こえて来るのよ。
「ねえ、百花。向こうの方角から何か聞こえない?」
「ん~?」
尋ねる私の言葉を聞いてくれた百花が、
音の聞こえる方角に向けて耳を澄ませてる。
「………。」
僅かな沈黙。
そのあとに百花が振り返ってくれたわ。
「確かに何か聞こえるわね。もしかしたら御堂君達が戦闘を続けているのかもしれないわ。」
「行く?」
「里沙が行くなら私も行くわ。」
「おっけ~!それじゃあ、行くわよ!」
「ええ」
真剣な表情で頷いてくれる百花と二人で、
音のする方角に向かって走ることにしたのよ。




