冷たい目
《サイド:西園寺つばめ》
…あああああ~〜〜!!!
…も〜っ!!
なんなのよ、これっ!?
最っ悪の気分だわ。
…はぁ。
…あれは一体、何なの?
意味がわからない。
存在自体が異常だとしか思えないわ。
…別にね。
特に不都合があったわけではないのよ。
それでも。
それでも無視できないほどの居心地の悪さを感じてしまうの。
…心がざわつくとでも言うのかしら?
ただただ落ち着かない気分になってしてしまうのよ。
…まあ、その原因は分かってるんだけどね。
実験対象である天城総魔が私をずっと見つめてくるのが怖かったのよ。
彼の瞳に見え隠れする底知れない何かが私の心を恐怖に染め上げてしまうの。
…うう~。
…何なのよ、あの子は。
ただ見られてるだけなのよ?
それなのに。
心の奥底まで見透かされているような、
言葉にできない恐怖を感じてしまったわ。
そんなことはありえないのに。
そんなことができるはずないのに。
…そう思うのに。
理性では否定出来るけれど。
心は完全に折れかかってる。
…あれはもう、普通じゃないわね。
噂は色々と聞いていたけれど。
彼の存在はもうすでに異常とかそういう次元じゃないのかもしれないわ。
全く異質な何かとしか言い表せないのよ。
そもそも人であるかどうかという根本的な部分から疑いたくなってしまうほど異質な存在に思えてしまうわね。
…あの目は何?
人を人ではない何かと認識してるような。
狂気じみた冷めた目をしているのよ。
…これが一生徒だなんて冗談でしょ?
これでも私だって立場上、
今まで色々な人物を見てきたのよ。
けれど。
ここまで異質な存在は初めてだったわ。
目を合わすことさえためらいたくなるほどの恐怖がそこにあるの。
…ただ見られているだけで指先が震えるなんて。
みんなには言えないわね。
心に渦巻く恐怖を職員達に悟られるわけにはいかないわ。
そう思って気丈に振舞っているつもりなんだけど、
その行動がより不自然に思われてしまっているのかもしれないわね。
職員達には気づかれていないみたいだけど、
天城総魔は私の動揺に気づいているように思えるからよ。
その事実を認めるしかないこの状況が何よりも怖いの。
…うう〜。
…そ、そんなに見ないでよ…。
私だって、好きでこんなことをしてるわけじゃないんだから!!
心の中では不満を叫べるけれど。
本人に直面して伝えるのは絶対に無理。
それができるのなら、
ここまで怯えたりしないわ。
何も言えないくらいの恐怖を感じているからこそ、
それがバレないように気丈に振舞っているのよ。
…ううぅぅ〜〜。
…あの嘘つき〜〜〜〜〜〜っ!!
所長は心配ないって言ってたけれど。
これは私には荷が重すぎるわ。
…全然、大丈夫じゃないじゃない!
無責任な所長の指示でここまできたけれど。
それが間違いだったことを今になって後悔してしまったのよ。
…って!
…あれ?
…もしかして!?
今になって同僚が同行しなかった理由にも気づいてしまったわ。
…くぅっ。
…だからなのね!
…だから、留美は!!
本来ならここで指揮を執るはずだった部下の姿を思い浮かべて、
拳を握り締めてしまったわ。
こうでもしないと怒りが爆発しそうだったからよ。
…留美は知ってたのね!
天城総魔が異常だと気付いていたから実験から逃げ出したのよ。
本来ならあの子が実験の指揮を執るはずだったのに。
天城総魔と関わらないために実験を放棄してまで逃げ出したのよ。
…ったく、もう!!
…そういうことだったのね!
あの子がどの段階で彼の異常性に気付いたのかは知らないけれど。
以前、彼が研究所に来た時。
たまたま私は留守にしていたから直接会うことはなかったわ。
けれど、部下の留美は現場にいたのよ。
そして天城総魔本人と接する機会があったの。
直接話をしたかは知らないけれど。
彼と直接関わったことで、
今回の実験に参加するのを放棄したのは間違いないはずよ。
…ったくぅ!!
…私だって知ってたら来なかったわよっ!
天城総魔がこれほど異質な存在だと知っていたら関わろうなんて思わなかったわ。
できることなら他人のままで何も知らずにいたかったくらいよ。
そんな後悔を感じてしまうほど、
この場にいることに嫌気を感じ始めていたの。
…留~美~っ!
…帰ったら絶対に許さないわよっ!!!
こうなることを知っていながら全てを丸投げした部下に怒りを感じるけれど。
今ここで文句を言っていても始まらないわね。
ここに来てしまった以上。
実験を進める以外に選択肢はないからよ。
…悔しいけれど。
…認めたくないけれど。
天城総魔はすでに勘づいてる。
私達の本当の目的に気付き始めているわ。
…でもこれは私をここに配置した所長の責任よね?
私は何も悪くないわ。
ええ、そうよ。
だれが何と言おうとも!
絶対に私の責任なんかじゃないわ!!
こうなったのは何の説明もしなかった留美のせいよ!
所長と同僚に対する不満。
その思いを募らせることで自分を正当化して実験の指揮をとり続ける。
これが単なる言い訳でしかないことは自分でも理解してるけれど。
そうでも思わなければやってられないと思う気持ちの方が強かったのよ。
…まあ、この状況はともかく。
あの子を調査したいと思う米倉代表の気持ちは十分すぎるほど理解できたわ。
天城総魔という人物は存在そのものが異端なのよ。
新入生とは思えないほど膨大な魔力を持ち。
吸収という特殊な能力を持ち。
どこまでも暗い闇を感じさせる冷たい目をしてる。
これほどまで異様な人物が存在するなんて考えたこともなかったわ。
…これじゃあ、まるで。
噂に聞く暗殺部隊の一員のようね。
魔術師を擁護する共和国の内部にはいないらしいけれど。
魔術師と敵対する国外の地域には存在してるという噂があるのよ。
それは魔術師狩りとは真逆の組織で、
武闘派の魔術師による組織。
殺される前に殺す。
奪われる前に奪う。
暗殺や略奪。
それが正当防衛だと主張するかのように、
各国で暴れる魔術師の組織があることはそれなりに平和な共和国の内部でも噂になっているわ。
だからこそ。
彼がその仲間なのかどうか?
そこが米倉代表の最も知りたい答えなのかもしれないわね。
もしもそうなら早急に対応しなければいけない案件になるからよ。
武闘派の魔術師は仲間を殺すことさえためらわない連中だと聞いているから。
魔術師が魔術師を殺すことを禁忌とする共和国においても、その法は通じないわ。
必要に応じて容赦なく殺戮を行えるのが組織に属する魔術師達だからよ。
その可能性を考慮すれば、
拘束結界の必要性は格段に高まるでしょうね。
天城総魔が何者なのか?
それはまだわからないけれど。
この実験は何としてでも成功させなければいけないという確信はもてたわ。
そう思い込ませるほどの何かが天城総魔にはあるのよ。
…こうなったら。
これ以上の情報が漏洩する前に撤退するしかないわね。
天城総魔に勘づかれる前に実験を終了させて撤退する。
その一点に狙いを定めて最後の点検を行うことにしたわ。
「準備はどう!?」
各地に配置された職員達に聞いてみる。
職員の数は総勢17名だけど、
彼等の大半は表向きの理由である防御結界の実験を行う為にここにいるわ。
だけど、その中の一部で僅か4名だけが本当の目的である拘束結界の準備を進めているのよ。
…そして。
実験の様子を眺めようとする人物も別の場所で待機しているわ。
私達からは見えない検定会場のとある一画に、その人物はいるのよ。




