(兄)
「百花、里沙!俺達は生徒指導室に向かう。とりあえず、他にもまだいるかも知れないから気をつけろよ!」
…ん~?
…他にもね~?
心配してくれるのはありがたいけれど。
今の私には御堂君と百花がついてくれているから、
相手が学園の生徒なら例え何百人集まってこようと敵じゃないわ。
「どっちかと言えば淳弥が気を付けたほうが良いんじゃない?」
「はっ。余計なお世話だ。それよりも御堂。とりあえず、あとは頼む。」
「ああ、分かったよ。」
気楽に引き受ける御堂君のすぐ傍には私の知らない少女が二人いるわね。
確かマールグリナの栗原さんと沙織の妹の成美ちゃんだっけ?
噂は聞いていても、
初対面だから顔は知らないのよね~。
…そう言えばまだ自己紹介をしてなかったかも?
ついさっき催事場の傍で遭遇した変態(兄)を振り切ることに精一杯だったから、
まだ二人に挨拶をしていないことに今更だけど気付いたのよ。
「…えっと。」
御堂君達に歩み寄ろうとしてみる。
だけどね?
「見付けたぞ里沙っ!!」
その前に再び絶望が急接近してきたのよ。
…うぁぁぁっ!?
全速力で駆け寄る男子生徒の姿を見た瞬間に、
私の体が小刻みに震え始めたわ。
…どうして追いかけてくるのよっ!?
こういうのを本能的に感じる恐怖っていうのかな?
それは女としての身の危険とか、
変質者への気持ち悪さとか、
その程度の恐怖じゃなくてね。
純粋に命に関わる恐怖なのよ。
本気で私を殺してでも『私という存在』を手に入れようとしてる馬鹿(兄)が迫っていることに気付いて慌てて百花の後ろに隠れたわ。
「助けて、百花ぁぁぁ!」
「ふふっ。任せなさい!!」
私の願いを即座に受け入れてくれた百花が、
重度の精神病患者(兄)に立ち向かう。
「私の里沙に近付かないでもらえるかしら?」
…おぉ~!!
…さすが百花。
…頼りになるわね〜。
一歩も引かずに立ちふさがったことで、
妄想狂(兄)が百花を激しく睨みつけていたわ。
「何度も言うけど、里沙はあなたを嫌ってるのよ。いい加減、その事実に気付いたら?」
「なんだとっ!?」
「そもそも兄が妹を…なんて、道理に反するでしょう?」
「お前に指図される覚えはない!里沙は俺のモノだ。邪魔をするのならば排除する!!」
説得を無視して歩み寄ってくる精神破綻者(兄)に、百花も堂々と立ちはだかる。
「里沙は渡さないわよ。」
「それは俺の台詞だ!」
全力で睨み合う二人。
だけどね。
「まあまあ、二人とも…」
火花がとびそうなほどの気合いで私を奪い合う(?)二人の対立を眺めるしか出来ない私の代わりに、
御堂君が二人の間に割って入ってくれたわ。
「ここは一旦落ち着いて話し合おうか。」
「…ええ、そうね。」
仲裁に入った御堂君の言葉を聞いて、
大人しく引き下がる止める百花だけど。
「…どけ、御堂。」
キモいクズ男(兄)は、
御堂君の言葉を聞き入れるつもりがないみたい。
「もはやお前達に里沙を預けておくことは出来ん。里沙は俺が管理する!」
…は?
…私を、管理?
…うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
常軌を逸した発言を聞いて、
絶望的な恐怖を感じてしまったわ。
…全身に鳥肌がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
恐怖を感じて怯えてしまう私だけど。
「里沙は渡さないよ。」
御堂君は人生の落伍者(兄)の説得を続けてくれていたのよ。
「少なくとも…きみのように里沙に殺意を抱くような相手に渡すことは出来ない。」
私を守るために。
殺人未遂犯(兄)を睨みつけてくれたの。
「仲間を傷付けるのなら全力で抵抗する。例えきみが里沙の兄と言えども…容赦はしないよ。」
「……くそっ。」
はっきりと宣言する御堂君の気迫を感じて、
ようやく足を止めてくれたわね。
明らかに今までとは違う雰囲気を放つ御堂君の覇気を感じたのか、
怯むように後ろへと下がっていたのよ。
「御堂ぉぉぉっ!!」
気持ちで負けてるくせに御堂君を睨みつける勇気だけは素直に凄いと思うわ。
だけど怒ってもどうしようもないでしょうね。
どれだけ睨みつけても、
御堂君を退かせることなんて出来ないからよ。
「…ちっ!」
離れている私でも聞き取れるほどはっきりと舌打ちをしたあとで今度は私に視線を向けてきたの。
「里沙。俺はお前を逃がさないぞ。」
…うぁぁぁぁぁぁ~!?
ひとまず立ち去ってくれたけれど。
またまた全身に鳥肌が立ってしまったわ。
…もう、何ていうのかな?
あまりの気持ち悪さに頭痛と吐き気さえ感じてしまうほどだったのよ。
「里沙、大丈夫?」
「え?あ、あ~、うん。大丈夫…じゃないかも…?」
百花が心配してくれているけれど。
負け犬(兄)が立ち去った今でも寒気が消えないわ。
私を逃がさないと告げた言葉が今でもまだ頭から消えないから。
「本気で怖かったぁぁぁぁ。」
「大丈夫よ。私が守ってあげるから。」
…うぅぅ。
「ありがとぉ、百花ぁ。」
「どういたしまして。」
百花が優しく抱きしめてくれる。
ただそれだけのことがすっごく嬉しくて、
少しずつだけど心が安らいでいく気がしたわ。
「うん。もう大丈夫!ありがと、百花♪」
「良いのよ。」
何時でもどんな時でも優しく接してくれる。
そんな百花が私は素直に好きだと思えるの。
…最高の親友よね。
心からそう思うわ。
だから百花に抱きしめてもらえるだけで、
心地良い幸せを感じることが出来たのよ。




