突撃の合図
先ほどまで私に向けられていた刃はすでにありません。
国境警備隊のみなさんはセルビナ軍に対して抵抗を試みようとしているからです。
「この状況で出来る限り被害が出ないようにするには…?」
考えながら状況を確認します。
見える範囲内だけで考えても、
すでに共和国軍は数を減らしつつあるようですね。
「多分すでに500人近い犠牲が…。それに負傷した人達も結構いるみたい…。」
…だとしたら?
まずは支援に徹するべきかもしれません。
あるいは治療優先と考えるべきでしょうか。
「エンジェルフェザー!!」
突撃の合図の前に治療を行うことにしました。
魔術を展開した直後に光の煌めきが共和国軍を包み込んで、
あらゆる怪我を瞬時に癒していきます。
…ただ。
これは範囲系魔術なので、
セルビナ軍の一部も回復したかもしれません。
ですがそれでも周囲の共和国軍の方達は笑顔を向けてくれました。
「ありがとう!」
「助かった!感謝する!」
「素晴らしい魔術だ!」
…いえいえ。
喜んでくれた人達の言葉を聞くと嬉しくなってしまいますが、ここはまだ戦場です。
決して油断はできません。
実際にセルビナ軍の放った矢が再び迫っているからです。
一斉に降り注ぐ数千の矢に焦る共和国軍の方達ですが、
この程度なら特に問題はありません。
笑顔を浮かべながら左手を頭上にかざします。
「オーラ!!!」
光属性最上級魔術。
閃光とも呼ぶべき光が上空で発動して、
共和国軍の前方で激しい爆発を巻き起こしました。
光の爆撃です。
空を切り裂く数千の矢の大半が光に飲み込まれて一瞬で消滅しました。
「私に詠唱時間は要りませんから。」
念じるだけであらゆる魔術が発動します。
だからこそ相手の攻撃を見定めてからでも迎撃が間に合うのです。
「それでは…始めさせていただきます。」
セルビナ軍の攻撃を防いでから次の魔術を発動させます。
これは合図の魔術になります。
仲間に知らせる為の合図の魔術を展開しました。
「サイクロン!!!」
共和国軍を包み込むように暴風が吹き荒れて、
セルビナ軍の接近を阻む強大な竜巻が発生します。
「うわあああああっ!?」
「ぐぁぁぁぁっっっ!!」
「誰か…助け…っ!?」
「うぁぁぁっ!!!!!」
大声で悲鳴を上げながら空高くへと舞い上がるセルビナ軍の兵士達。
生身の体が上空に飛んで竜巻から弾き飛ばされたあとには地上へと落下する恐怖が待っています。
上空100メートルを越える高さからの落下ですから。
その結末は死でしかありません。
次々と大地に激突してセルビナの兵士達が絶命していきます。
その結果として竜巻に怯えるセルビナ軍の前衛部隊は一斉に混乱状態になりました。
そしてその混乱をきっかけとして、
私の仲間が戦場に飛び出します。
「「「突撃しろーーー!!!」」」
南北から側面を突く反乱軍の攻撃によって数百の魔術がセルビナ軍に襲い掛かり、
セルビナ軍の混乱は更に広がっていきました。
瞬く間に恐慌状態に陥るセルビナ軍。
こうなるともう脅威ではありません。
5万の軍隊を相手に1千の部隊では勝ち目はありませんが、
相手の隙を生み出すことには成功しました。
…これで時間は稼げます。
「今のうちに後退することをお勧めします。」
「…ああ、そうだな。」
提案した私の意見を聞き入れて、
北条さんが国境警備隊の方達に指示を出してくれました。
「東に軍を下げる!!ランベリアから援軍が来るまで堪えきるぞ!!」
軍を率いて東に移動する北条さんを見送ってから、
私は仲間と合流して国境警備隊の背後に付きました。
…殿は私達の役目です。
「ギリギリまで時間を稼ぎます!!」
ひとまず国境警備隊の後退を手伝うことにしました。
…お兄ちゃん。
…お姉ちゃん。
…こっちはひとまず何とかなりそうだけど。
…そっちはどうなのかな?
さすがに通信を行う余裕はありませんので、
お姉ちゃん達がどうしているのかはわかりません。
…ギリギリまで粘ったらどうにかして逃げ切らないと。
迫り来るセルビナ軍の追撃を必死に防ぎながら退路の確保を優先しつつ、
国境警備隊と共に軍を下げていきます。
…今は国境の防衛を諦めるしかないですね。
一時的に国境を突破されたとしても、
またあとで押し返せば良いだけです。
そう判断した私達は、
国境からの撤退を急ぐことにしました。




