麒麟
《サイド:???雪》
…もうすでに止められるような状況ではないですね。
共和国軍とセルビナ軍の戦いが本格的に始まってしまったからです。
再び始まった戦争によって両軍がぶつかり合い、
殺し合うための戦闘が始まってしまったんです。
剣と槍が血を撒き散らして魔術が死を招く。
そんな戦場です。
「足を止めるなっ!!前進しろーー!!!」
叫ぶセルビナ軍の勢いに負けて、
共和国軍は少しずつ追い込まれているようです。
「怯むなっ!抑え込めっ!!」
共和国軍の指揮官が最前線で戦っているようですが、
それでも前線を維持することにさえ苦戦している様子に見えますね。
そんな戦場を眺めながら、
私は一人で共和国軍に向かって走っていました。
「…急がないと。」
焦りを感じながら戦場を目指す私に、
セルビナ軍が放った数千の矢の一部が飛んで来ます。
「…うぅ~。」
迫り来る矢は凶器です。
まともに受ければ私の命は一瞬で刈り取られてしまうと思います。
「出来る限り魔力を温存したいのに…。」
不満を感じてしまいます。
ですが叫んでも問題は解決しませんので、
防御用の魔術を展開することにしました。
「ボム・ウイン!!」
突風を生むだけの簡単な魔術ですけど。
投擲系の攻撃であれば、
これだけで十分に防げます。
高速で迫っていた矢をあっさりと吹き飛ばして回避すると。
的を外した矢は誰も居ない大地に次々と突き刺さっていきました。
これで移動の時間は稼げます。
全ての矢が外れたことを確認してから再び共和国軍に視線を戻しました。
…でも。
なかなか共和国軍に近づけません。
「…うぅぅ~。思ったよりも遠いよぅ…。」
共和国軍までの距離は1キロメートル程度です。
ですがセルビナ軍の攻撃が激しくて、
簡単に近づけるような距離ではありませんでした。
今にも取り囲まれてしまいそうな共和国軍は壊滅寸前なので、
完全に包囲される前に合流しないと救出に失敗してしまいます。
「みんなが居てくれれば簡単なんだけど…。」
今更後悔しても遅いのですが、
私は今、一人きりで行動していました。
一緒に行動していたみんなはセルビナ軍の南北に別れて布陣中で、
私の合図と同時にセルビナ軍の側面に突撃する予定になっているからです。
上手くいくかどうかは分かりませんが、
強襲作戦を実行する為に部隊を二つに分けたことで一人きりで共和国軍を目指している途中になります。
…ただ。
やっぱり戦場を走っていくというのは無理があるような気がしますね。
「ここは素直に…麒麟さん、お願いします。」
祈りを込めた直後に、
通信用のリス型精霊が戦闘用の馬型に姿を化えました。
姿が変わっても能力が変わるわけではないんですけど。
自在に形を決められる精霊は、
術者の意志に応じて姿を変えることが出来ます。
「よろしくね♪」
声をかけて頭を撫でる私に精霊が寄り添ってくれました。
もちろん意識のない純粋な魔力の塊なのですが、
私のすぐ傍で私を守るように姿を見せた精霊こそが麒麟と名付けた聖獣になります。
見た目は馬に近い形状なので、
ちゃんと騎乗用としての役目も果たしてくれます。
「出発〜♪」
精霊の背中に乗り込んでから戦場に向かって走らせました。
これで移動速度は数十倍です。
たった1キロメートル程度の距離ならホンの数十秒で移動できます。
「突撃~!!」
私の宣言と共に加速する精霊は風のように大地を駆け抜けて、
あっという間に共和国軍へとたどり着きました。
「お邪魔します~♪」
精霊の背中に乗ったままで笑顔を振り撒きながら国境警備隊の中を突き進もうとすると。
「何者だっ!?」
警備隊の方々に刃を向けられてしまいました。
…まあ、それが普通ですよね。
いきなり知らない人物が乱入して来たら、
誰だって警戒するのは当然です。
ですが今は言い争っている場合ではありません。
出来ることならすぐにでもセルビナ軍を迎撃するべきだと思うからです。
「ここの指揮官は確か北条辰雄さん…でしたよね?」
私を取り囲む国境警備隊の兵士さん達に尋ねてみました。
「お話したいことがあるんですけど。会わせてもらえませんか?」
あまり険悪にならないように控えめにお願いしてみると。
「俺に何か用か?」
捜していた人物から率先して私の前に出てきてくれたんです。




