喧嘩?
《サイド:長野淳弥》
地下の生徒指導室を離れてから校舎を出ようとした直後に。
『ズガァァァァン!!!!』と、
激しい炸裂音が校舎の外から聞こえてきた。
…何の音だっ!?
「まさか!外で戦闘をっ!?」
有り得ないと思う。
本来なら学園の校則によって検定試験会場や訓練場などの特定の場所以外での魔術の使用は禁じられているからだ。
…とは言え。
絶対にないとは言い切れない。
言うことを聞かない生徒というのも少なからず存在するからな。
「馬鹿が喧嘩でも始めたのか!?」
その可能性が高いと思いながら校舎を出てみると。
何故か百花と木戸と須玉の3人が、
複数の生徒達に取り囲まれていた。
…ちっ!
状況が分からないが、
とにかく救出するしかないか!
「百花っ!」
「………。」
急いで駆け寄る俺に視線を向けた百花は、
無言で微笑みを浮かべている。
あまり緊張感を感じさせない笑みだ。
戦闘中だというのに、
余裕を感じさせる表情だった。
「あらあら?淳弥は無事だったのね。」
「そういうお前等は…?」
「ふふっ。」
…何だ?
百花の態度が明らかにおかしい。
普段とは何かが違うように思えた。
「黙って見てなさい」
一方的に指示を出してから、
敵対する生徒に向けて魔術を放っている。
「ファルシオン!!!」
氷系統最上級魔術だ。
膨大な冷気が一人の生徒へと襲い掛かる。
「ちっ!フレア・アロー!!!」
反撃する男子生徒の炎の矢が冷気とぶつかり合って魔術を相殺しようとしているが、
上級魔術では最上級を打ち消すことは出来ない。
せいぜい時間を稼ぐのが精一杯だろう。
「くそっ!!」
百花の魔術が打ち勝ったことで男子生徒に冷気が迫る。
「ちっ!」
悔しそうな表情で逃亡を試みる男子生徒を見て、
ようやく俺も気付いた。
「あれは…まさかっ!?」
「そう。あれは渋沢東吾よ。」
必死に冷気から逃げようとする男子生徒の顔を見て戸惑ってしまった俺に、
百花が微笑みを浮かべたまま答えを告げてくる。
「どういう理由かは知らないけれど、生徒指導室から脱出してここにいるのよ。」
…やっぱりか。
…だとすれば?
ここにいるのは生徒指導室から逃亡した生徒達か?
百花の話を聞いた直後に周囲の生徒達に視線を向けてみる。
俺達を取り囲む100人近い生徒達。
こいつら全員が逃亡した生徒なのかどうかは分からないが、
すでに一部の生徒は木戸と須玉の活躍によって地面に倒れているようだな。
どいつもこいつも見覚えのある顔ばかりだとも思う。
つまりここにいる生徒のほとんどが、
地下の生徒指導室から逃亡した生徒達だったらしい。
…これはこれで好都合か?
一々探しに行く必要がなくなったからな。
その点だけは好都合と言えた。
「どこに行ったのかと思えば、揃いも揃ってここにいるとはな。」
捜す手間が省けてありがたい話だ。
「俺も加勢するぞ。」
ひとまず百花の隣に並んでみる。
「さっさと馬鹿共を一掃して、何があったのか話を聞きだすぞ!」
「ええ、そうね。」
誰が扉を破壊したのか?
もしくは扉が破壊される前後に何があったのか?
そういった情報を手に入れたいと思ったのだが。
「良い考えだと思うけれど…。渋沢東吾だけは私が捕らえるわ。」
どうやら百花の目的は全く別の場所にあるらしい。
「もう二度と復讐なんて馬鹿なことを考えないように…しっかりお仕置きをしておかないとね。また追い掛けてこられたら迷惑だから。」
…復讐?
…何の話だ?
どうしてこういう状況になったのか分からないが、
百花は渋沢東吾を睨みつけている。
「随分と威勢が良かったわりには大したことがないわね。」
余裕を見せる発言だな。
「ねえ?その程度の実力で私に勝てるつもりだったのかしら?」
普段の百花らしくない発言を聞いてようやく気付けた。
…そうとうキレてるな。
何があったのかは知らないが、
温厚な百花がここまでキレるのは初めて見た気がする。
「渋沢東吾。私達を狙うつもりなら容赦はしないわよ!」
連続して発動させる魔術。
…あれは風の魔術か?
かろうじて冷気から逃れた渋沢東吾を百花の魔術が捕らえようとしていた。
「エクスカリバー!!!!」
放たれるのは真空の刃だ。
数千にも及ぶ不可視の刃が渋沢東吾に襲い掛かる。
「ちぃっ!!!!」
冷気から逃れる為に体勢を崩していたことで上手く迎撃も出来なかったようだな。
渋沢東吾の体を真空の刃が切り刻んでいく。
「ぐぅっ!!がぁぁぁっ!!!」
数え切れないほどの刃に切り刻まれながら後方へ吹き飛んだ渋沢東吾は、
全身から血を流して苦しみながらのたうちまわっていた。
…どう見ても重傷だ。
それなのに百花は容赦なく追い撃ちをかけようとしている。
「懺悔しなさいっ!ダンシング・フレア!!!」
燃え上がる紅蓮の炎。
「ぐあああああああああっ!!」
踊り狂う膨大な炎を受けた渋沢東吾は絶叫を上げながら意識を失ったようだ。
…だが。
それでもまだ百花の攻撃は止まらなかった。
「まだまだ…っ!!」
完全にキレているのだろう。
「ちょっと待て百花っ!」
冷静さを失って暴走する百花の様子を見て慌てて取り押さえる。
「それ以上は命に関わるぞっ!」
「いっそその方が…。」
なんとかなだめようと考えて説得しようとしたのだが、
すでに百花の思考は断罪に集約している様子だった。
「待て待て待て待てっ!!!!」
百花の言葉を最後まで聞き終える前に口を塞ぐ。
「落ち着けっ!」
慌てながら説得してみる。
「いくらなんでもやりすぎだ!」
相手が犯罪者と言うならともかく、
単なる不良学生に死罪は無茶すぎる。
「何があったか知らないが…」
理由を聞こうとしたところで、
ふとした違和感を感じて周囲を見回してみた。
…何だ?
やたらと静かな校舎前。
木戸や須玉達が戦闘をしてるはずの状況で、
何故こんなにも静かなのか?
そこに疑問を感じて周囲を見回してみると。
「「「「「………。」」」」」
何故か周囲にいる全員が、
恐怖の表情で百花に視線を向けていた。




