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THE WORLD  作者: SEASONS
4月5日
132/185

不自然な状況

寮の前で二人と合流してから1時間以上過ぎただろうか。


すでに朝食は終えている。



今は通い慣れた検定会場に向かって移動している途中だ。



3人での食事ということもあって思っていたより時間がかかってしまったが、

そのおかげで予定よりも魔力が回復しているのは間違いない。



今なら6割を超える程度といったところか。


まだまだ万全とは言い難いが、

完全に魔力が回復するまで待っていたら今日の試合は無理だろう。



万全な状態まで体を休めてから試合に挑んでもいいとは思うが、

先行している北条はすでに会場で待っているはずだからな。



あまり待たせるつもりはない。



…足りない魔力は試合中に吸収して補えばいい。



上手く立ち回れば何とかなるはずだ。



「もうすぐ会場に着くな。」



すでに会場は見えている。


あと2、3分程度で入口に到着するだろう。



「北条君はすでにいるのでしょうか?」



沙織が北条の姿を探しているが、

見える範囲にはいないようだな。


おそらく会場の中で待っているのだろう。



「どこにいるのか知らないけど、あのバカと総魔の試合でしょ?どう考えても総魔の勝利で確定よね~。」



…それはどうだろうな。



俺としては余裕を見せられるような相手だとは思わないのだが、

翔子としては俺の勝利を疑っていないらしい。



本気で俺を信じているのだろうか?


翔子の笑顔に裏があるとは思えない。


素直な気持ちはありがたいと思うが、

実際に始めてみなければ結果は出ないからな。


確実に勝てると思うのはまだ早いだろう。



「結果が出るまで油断するつもりはない。」


「ん~。まあ、そのほうが総魔らしいかな~。」



…それもどうだろうな。



自分では分からないが翔子は楽しそうに笑っている。


そんな翔子の隣を歩く沙織も自然な笑顔を見せている。



沙織も俺の勝利を確信しているのだろうか?


表情からは読み取れないものの。


翔子の発言を否定しないということは同意見と言うことだろうか?



沙織の考えはまだ分からない。



ただ、時折向ける視線が俺の言動を観察しているような気はする。


本人は俺の調査から外れたと言っていたが、

それでも観察そのものを止めたわけではないのだろう。



俺の行動を観察して自分なりに何かを判断しているようだ。


だからと言って文句を言うつもりはないし、

それはそれで構わないと思っている。



今更とがめる必要はないだろう。


翔子がいる時点で結果は同じだからな。


好きにすればいいと思うだけだ。



「まあ、結果はすぐに分かるとして、とりあえず会場に入ろ~」



会場前に到着したことで真っ先に入口に歩み寄る翔子だったが。



「…ん?あれ?」



何故か昨日とは雰囲気が変わっていた。


受付には何故か『立入禁止』の札が張られているからだ。



「…立入禁止か。」


「なんだろ、これ~?昨日はなかったよね?」


「え、ええ、そうね。特に何も聞いてないし、今までこんなことはなかったはずよ…。」



どうやら二人も理由を知らないらしい。


だとしたら、直接確かめるしかないだろう。



「行ってみればわかることだ。」


「それはそうだけど、そもそも入っていいの?立入禁止なのよ?」



まあ、それはそうだが。


ここで立ち止まっていても状況は変わらないからな。


入れないなら入れないで構わないが、

理由くらいは確認しておくべきだ。


そうしなければ北条との試合も出来ないからな



「受付で事情を聞くだけなら問題ないだろう。」


「え〜?そうかな~?そもそも入っちゃダメな気がするんだけど?」


「その理由を聞くだけだ。まあ、考えられる可能性は幾つかあるからな。会場に入る程度で文句を言われることはないだろう。」


「ホントに〜?」



…ああ。



可能性だけなら幾つもある。


翔子は気にしていないようだが、

俺は昨日この会場で3度暴れているからな。


翔子と和泉由香里と沙織の試合で、だ。


それぞれの試合においてアルテマを使用して各試合場を破壊してしまっている。


当然それらの復旧作業が行われていると思うが、

一晩で解決できるような被害ではないだろうからな。



修理や補修のために一時的に会場が封鎖されたと考えるのは自然な流れだ。


他にも残りの試合場を補強して強度を高めているという可能性もある。



もちろんそれ以外の可能性もあるかもしれないが、

可能性だけならいくつもある。


その確認を取るために会場に入るくらいで校則に反するということはないだろう。



「中に入るぞ。」



事実確認を行うために会場内に向かって歩みを進めると、

受付で話を聞くよりも先に見覚えのある男が近づいてきた。



「久し振りだな。天城総魔君。」



…ああ、そうだな。



会場の入り口で挨拶をしてきたのは以前一度だけ会って話をした人物だ。



何故、ここにいるのだろうか?



その理由は分からないが男の名前は知っている。


ルーン研究所の所長である黒柳大悟くろやなぎだいごだ。



「今日は研究所にいなくていいのか?」


「ああ、まあこれも仕事でな。」



なぜここにいるのかを問いかけてみると、

黒柳は堂々とした態度でここへ来た目的を話してくれた。



「色々と思うことがあるだろうから先に言っておこう。今日はきみが試合を行うと聞いて観戦に来たんだ。あれからきみがどのような成長をしたのか、密かに興味があったのでな。」



…観戦か。



嘘か本当かは分からないが俺の試合を見に来たらしい。


だとすれば目的はアレだろう。



「俺のルーンを確認にきたということか?」


「…そういうことになるな。」



…少し、怪しいな。



言葉を濁したように感じたからだ。


黒柳は即座に認めていたが本当にそうだろうか?


ただそれだけの理由で研究所の所長が姿を見せるとは思えない。



単なる調査なら職員を派遣すれば済む話だ。


所長が自ら出てくる必要はないだろう。



そう思うからこそ、

何か別の理由があるような気がするのだが、

現状では判断材料が少なすぎるために推測が出来ない。



…もう少し情報を引き出すべきか?



色々と疑問が尽きないが、

俺が問いかけるよりも先に右手を差し出してきた。



「きみの噂は報告として聞いているが、まだ実際の試合を見たことはないからな。北条君との試合をしっかりと見届けさせてもらうつもりだ。思う存分、戦ってほしい。」



本心がどうかは知らないが、

あくまでも観戦が目的だと言い張るつもりらしい。


笑顔で右手を差し出す黒柳の行動には疑問を感じるが無視するわけにはいかないからな。



差し出された手を握り返しながら順番に問い掛けてみることにした。



「試合を観戦するのは勝手だが、この状況はどういうつもりだ?」



黒柳がどうこう以前に目の前の疑問が解決していないからな。


なぜ会場が封鎖されているのか?という理由を聞いてみたところ。



「ああ、そこはあまり気にしなくていい。」



質問の意味を察してくれたのか、

笑顔を浮かべたままで答え始めた。



「これはちょっとした安全策だ。学園でも屈指の実力を持つきみ達の試合となれば何が起きるか分からないからな。安全面を考慮して試合が終わるまでの間だけ他の生徒と係員を立入禁止にしただけだ。」



…安全面を考慮してだと?



本当にそうなのだろうか?



それだけの理由で会場を封鎖する必要があるだろうか?



もしも今の説明が事実だとすれば、

学園1位や2位の生徒が試合をする場合、

常に会場を封鎖しなければいけなくなる。


だがこれまでそういった行動が起こされていたとは思えない。



「「………。」」



もしも過去にも同じことがあったとすれば、

翔子や沙織が知らないはずがないからだ。


毎回試合の度に会場が封鎖されているのであれば二人が知らないわけがない。


だが、今の二人の反応を見る限り、

会場の封鎖という強行手段が何度もあったようには思えない。


昨日の試合でもこのような措置はなかったからな。



…なのに何故。



何故今日になって、ここまで大掛かりな対策をとったのだろうか?



新たな疑問が増えるばかりだが、

俺と同じ疑問を翔子と沙織も感じているように見える。



いつもと違う雰囲気を感じて戸惑っている様子だからな。


二人も詳しい事情は知らないのだろう。



翔子はともかく。


沙織なら何か知っているのではないかと思ったが、

困惑する様子から察するに何も知らないように見える。



…だとすれば沙織に聞いても無駄だろうな。



黒柳は何を企んでいるのだろうか?


どう考えても不自然にしか思えない。



この状況は明らかに異常だ。



だが、黒柳に追求しても答えは返って来ないだろう。


聞くだけ時間の無駄に終わる気がする。


今は大人しく黒柳の話に付き合うしかないのかもしれない。



「それで?俺はどうすればいい?」


「ん?どうと聞かれても俺が指図することではないからな。北条君ならすでに試合場で待っているから。準備が整い次第、試合場に向かうといい。」



………。



北条はすでに試合場で待っているようだが、

笑顔で俺を見送ろうとする黒柳に説明を求められるような雰囲気はない。



…これ以上、話をしても意味はないか。



大人しく試合場に向かうしかないらしい。



黒柳の横を通り過ぎて歩き出す。


その後すぐに翔子と沙織も歩きだそうとしていたのだが…。



「申し訳ないが、きみ達はここで待機だ。」



二人の行動は黒柳によって遮られてしまっていた。


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