戦術
《サイド:天城総魔》
翌朝、午前7時12分。
昨日よりも少し遅めの時間に目覚めた。
…思っていた以上に疲れていたのかもしれないな。
窓からはすでに暖かな日差しが差し込んでいる。
どうやら日差しが感じられないほど熟睡していたらしい。
普段なら今よりも1時間ほど早く目が覚めるのだが、
今日は昨日以上に深く眠っていたようだ。
それだけ疲れていたのだろうか。
気を抜いていたつもりはないが、
眠れないよりはいいだろう。
しっかり眠れたからか体調は良い。
精神的な疲労も特には感じない。
起き上がって自分自身の体を確認してみたが特に問題はないようだ。
昨日の試合で受けた怪我も完全に治っている。
後遺症も副作用もない。
…改めて回復魔術の有用性を感じるな。
もしも回復魔術が無かったとしたら。
そもそも検定試験そのものが存在していなかったかもしれないが、
回復魔術があることでどんな怪我をしても治療できるというのは他のどんな魔術よりも有益に思える。
この一点だけは魔術師にとって他の何よりも優れていると言えるのではないだろうか?
…一晩眠ったおかげで魔力もそれなりに回復している。
完全には程遠いが、半分程度は戻っているだろう。
昨夜の予想通り完全には戻らなかったが、
北条との試合までにはまだ時間があるからな。
それまでにはもう少し回復すると思うが、
まだまだ魔力量には不安があるな。
とは言え。
足りないものは仕方がない。
沙織との試合によってこれまで蓄積してきた魔力を使い切ってしまったのは大きな痛手だが、
過ぎてしまったことを悔やんでも仕方がないからな。
…今は出来ることを考えるだけだ。
魔力が少ないからと言って北条との試合から逃げるつもりもない。
今の状態で何とかする方法を考えよう。
…魔力を増やす方法、か。
なくはない。
考えられる方法は幾つかある。
北条との試合前に他の生徒と試合をして魔力を吸収する事は可能だ。
ただし、格下と試合を組むには色々と手順が必要になる。
格下からの挑戦なら強制力があるが、
格上から格下に挑む場合に強制力は働かないからな。
会場に向かったとしても対戦相手が見つからなければ魔力の吸収は出来ない。
適当な相手を挑発して挑ませるしかないわけだが、
あとあと面倒なことになりそうだからな。
つまらないことはしないほうがいいだろう。
もう一つの方法として、
試合を行わずに各生徒から奪うこともできる。
手当たり次第、無差別に魔力を奪い続けることは可能だ。
もしくは学園内の各生徒から気付かれない程度に少しずつ掠め取ることもできなくはないだろう。
もちろんそこまでしてしまえば確実に校則に反することになる。
…さすがにそこまでは出来ないな。
翔子のように魔力を譲渡してもいいと言ってくれる相手でも見つけない限り、
魔力の強奪は避けるべきだろう。
…仮にそんな相手がいたとしても貰い受けるつもりはないがな。
戦いの場以外で能力を使うつもりはない。
この考えは俺が俺に課した制約だ。
だがこれは吸血鬼うんぬんという問題ではなく。
俺が生きる目的と言っても良い。
…戦う意思のない者を傷つけて喜ぶ趣味はないからな。
無抵抗の相手を襲う人間になるつもりはない。
そこまで堕ちられるのなら最初から翔子も沙織も治療しようなどとは思わなかった。
聖職者になるつもりはないが、
無差別に争うつもりもないからな。
魔力量に関しては諦めるしかないだろう。
例え今の魔力量では北条に届かないとしても。
戦術次第では十分に戦えるはずだ。
翔子や沙織との試合のように魔力量で押し切ることは出来ないが、
だからといって負けると決まったわけではない。
試合中なら堂々と魔力の吸収が出来るからな。
一撃で全てを奪うのは難しいだろうが、
少しずつ削り取っていくことは出来るはず。
時間はかかるかもしれないが、
確実に魔力を奪い続ければ良い。
吸収すればするほど互いの差は縮まっていく。
消極的な戦法にはなるが、
時間さえかければ魔力量は逆転することになるからな。
耐える事さえ出来れば俺の勝利は確定する。
…持久戦に持ち込むしかない。
吸収の能力を持つ俺にとって最も有効的な戦術といえるだろう。
持久戦こそが最大の策だ。
だとすれば。
わざわざ下位の生徒達から魔力を奪う必要はない。
試合を行う限り互いに攻撃するのは当然だからな。
北条の魔力を上手く利用出来ればいい。
ひとまず体調そのものは悪くないからな。
魔力が少ないと言うだけで他に問題があるわけではない。
…いままで通りに戦えば良い。
服を着替えて部屋を出る。
そして朝食を済ませる為に。
食堂に向かって歩きだすことにした。




